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5 - 第5話 「閉ざされた扉」

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2025年08月04日

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朝、病室のカーテンを開けても、隣から聞こえてくるはずの声がなかった。灯は、最初はただ「まだ眠っているのかな」と思っていた。

けれど、昼を過ぎても、夜になっても、晶哉の姿は現れなかった。

「どうしたんだろう、晶哉くん……」


その晩、廊下に出ると、隣の一人部屋に「関係者以外立ち入り禁止」という紙が貼られていた。

チラッと名前を見ると佐野晶哉と書かれていた。

言葉が出なかった。

ただ、胸の奥がぎゅっと締めつけられるように痛かった。


次から来る日に看護師に尋ねても、返ってくるのは同じ言葉。

《今は会えないの。落ち着いたら、きっとまた……。》

“きっとまた”。

その言葉ほど、不確かなものはない。

これまでの人生で、何度も「きっと」は裏切られてきた。

病気も。移植も。

時間も、期待も、全部が不確かだった。

だから、灯は待つしかなかった。

ただ、あの扉の向こうで、晶哉が苦しんでいないようにと、それだけを祈っていた。


何日が経ったのだろうか……

私には長く感じた。

ようやく医師が灯に告げた。

〈東さんは、現在、集中管理室に移っています。容態が急変して、一時的に処置が必要な状態です。落ち着けばまた……お会いできると思いますよ。〉

「……本当に?」

〈ええ、彼もあなたのことを気にしていました。“灯さんには笑っていてほしい”と、ずっと言ってましたよ。〉

その言葉に、涙がこぼれそうになった。

でも、こぼさなかった。

もっと辛いのは晶哉くんだから……。


「私も、笑って待っていたいです。だから……お願い。生きてて、って伝えてください。」

灯は小さく頭を下げて、自分の部屋に戻った。

心臓が、痛い。

でもそれは病気のせいじゃなかった。

彼のいない時間が、ただ、怖かった。


その夜。

灯は、晶哉と最後に過ごした屋上のベンチで、

ひとり、小さな紙切れに言葉を綴った。

「また会えたら、“また会えたね”って笑おうね。それまで私、ちゃんと生きてるよ。貴方のこと、ちゃんと信じてるから。」

封筒に入れて、晶哉の部屋の扉の前にそっと置いた。

それだけが、今できることだった。

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