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点滴の音だけが響く、白く静かな部屋。目を覚ましたとき、天井がぼんやりと揺れて見えた。
『……ここは?』
声がかすれて出ない。
視線だけをゆっくりと動かすと、ベッドの脇に置かれた白い封筒が目に入った。
看護師が笑みを浮かべて言った。
《彼女からですよ。何日間も、ずっと待ってたんです。》
晶哉は、ゆっくりと指を動かして封筒を開いた。
中から出てきたのは、あたたかい文字で綴られた、灯からの手紙だった。
「また会えたら、“また会えたね”って笑おうね。それまで私、ちゃんと生きてるよ。
あなたのこと、ちゃんと信じてるから。」
涙が出てきて、文字が滲んで見えた。
生きる理由なんて、なかったはずだった。
病気を知ったとき、自分の時間はもう“終わり”に向かっていると決めつけていた。
でも……灯に会ってから、“まだここにいていいんだ”って、初めて思えた。
『僕も、生きたい……泣』
弱くても、限られていても、灯ともう一度、同じ時間を過ごしたいと、心から願った。
けれど、現実は残酷だった。
主治医は、静かに告げた。
〈次に急変すれば、今度は……持たない可能性が高いです。正直、時間は……そう長くはありません〉
晶哉は黙って聞いていた。
〈延命処置については、どうされますか?〉
しばらくの沈黙のあと、晶哉は静かに答えた。
『……もし、彼女に会えるなら。最後まで、自分で生きたいと思います』
次の日。
晶哉は医師の許可をもらって、ほんのわずかな時間だけ灯に会うことができた。
車椅子に座り、息を切らしながら病室へ入ってくる。
灯は目を見開き、そして言葉も出せないまま、泣き出した。
「……生きててくれて、ありがとう泣」
『灯さん、手紙……ありがとう。ちゃんと、届いたよ。』
ふたりは手を取り合った。
握る力は弱くて、今にも壊れそうだったけど……
その一瞬に、未来が集まっているような気がした。
「……まだ、行かないで」
『うん。まだ、ここに居るよ。』
けれど、灯はもう知っていた。
この温もりには、“終わり”があることを。
だからこそ、今だけは、泣かずに笑って、彼のそばにいた。