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#連載小説
観察者
310
椿
27
赤い扉の向こう側
第一章 目を覚ました場所
「……ここ、どこ?」
湊はゆっくり目を開けた。
頭がぼんやりする。
さっきまで自分は、家に帰る道を歩いていたはずだった。
それなのに――。
目の前にあったのは、古びた学校のような建物だった。
窓ガラスは割れ、壁には大きなひびが入っている。
床には水がたまり、電気はついていない。
「誰か……いるの?」
湊が立ち上がると、
「うわっ!」
近くにいた男が驚いた声を上げた。
周りを見ると、そこには自分と同じように突然ここへ連れてこられたらしい人たちがいた。
数えてみると――約30人。
「ここはどこなんだよ!」
「出口は?」
「スマホが使えない!」
みんなが騒ぎ始める。
そのときだった。
――ブツッ。
天井のスピーカーから、雑音が聞こえた。
そして、
『みなさーん♪』
明るい声が響いた。
その場にいた全員が静かになる。
『ようこそ、最初の試験会場へ♪』
「試験……?」
湊の背中に、冷たい汗が流れた。
『これから皆さんには、あるゲームをしてもらいます』
『この建物のどこかにある、赤い扉を探してください』
『ただし――』
少し間があった。
『この学校には、人を襲うものがいます♪』
「……!」
誰かが息をのんだ。
『捕まったら、そこでゲーム終了です』
『制限時間は30分』
『それでは――』
スピーカーの声が笑う。
『試験開始でーす♪』
その瞬間。
――ガシャン!
遠くの窓が突然割れた。
「うわあああ!」
人々が一斉に走り出す。
湊も走った。
廊下の奥から、何かが近づいてくる音がする。
ズ……。
ズ……。
何かを引きずっているような音。
「来る……!」
湊は必死に走った。
すると前方に、三つの道が見えた。
右。
左。
そして、真っすぐ。
どこへ行けばいいのか分からない。
そのとき――
「そっちはダメ!」
後ろから誰かが叫んだ。
湊が振り返る。
廊下の先に、人のような影が立っていた。
でも、その姿は普通ではなかった。
顔がよく見えない。
腕だけが異様に長い。
そして――こちらを見ている。
「走れ!」
湊は叫んだ。
みんなが一斉に別の方向へ逃げる。
その直後。
影がものすごい速さで走り出した。
「うわあああ!」
廊下に悲鳴が響いた。
湊は階段を駆け下りた。
一階に着くと、そこは水でいっぱいだった。
床が見えない。
「……ここを通るしかないのか?」
湊は立ち止まった。
水面は静かだった。
静かすぎる。
すると――
ポチャン。
水の中で何かが動いた。
「……今、何かいた?」
湊が目を凝らす。
また、
ポチャン。
今度は少し近い。
湊は後ろを振り返った。
さっきの影が近づいている。
「……行くしかない」
湊は水の中へ足を入れた。
冷たい。
一歩。
また一歩。
水はどんどん深くなっていく。
そのとき――
「待って!」
後ろから、別の人が追いかけてきた。
「こっちの道しかない!」
「来ないで!」
湊は叫んだ。
「水の中に何かいる!」
「そんなの気のせいだ!」
その人は水の中へ入ってきた。
そして――
バシャッ!
突然、水面が大きく揺れた。
「え?」
次の瞬間。
その人の足が、何かに引っ張られた。
「た、助けて!」
湊は手を伸ばした。
「つかまって!」
しかし――
ズルッ!
その人の姿が水の中へ消えた。
「うわあああ!」
湊は必死に走った。
振り返らなかった。
振り返ることができなかった。
ただ、前だけを見て走った。
やがて水のない場所へたどり着く。
湊は壁にもたれ、息を整えた。
「はぁ……はぁ……」
そのとき。
目の前に、一枚の赤い扉があった。
「……赤い扉?」
扉には番号が書かれている。
1
湊は恐る恐るドアノブに手をかけた。
カチャ。
開いた。
しかし――
その先は、行き止まりだった。
「……違う」
湊はすぐに扉を閉めた。
そのとき、遠くから声が聞こえた。
『残り時間、20分でーす♪』
「まだ終わってない……」
湊は走り出した。
そして廊下の先で――
今度は、赤い扉を五つ見つけた。
1番。
2番。
3番。
4番。
5番。
どれが正解なのか。
湊には分からなかった。
ただ一つ。
扉の上には、誰かが残したような小さな文字があった。
「正しい道は、いちばん怖くない道ではない」
湊はその言葉を見つめた。
そして――
「……2番」
なぜか、2番の扉が気になった。
湊はゆっくり手を伸ばす。
カチャ。
扉が開いた。
その向こうには――
真っ暗な部屋が広がっていた。
そして天井から、何本もの細いひもが垂れ下がっていた。
『おめでとうございます♪』
スピーカーから、あの声が聞こえる。
『第一試験、突破です♪』
湊は息を止めた。
『ですが――』
声が笑う。
『ここからが本番ですよ♪』
――バタン。
後ろの扉が勝手に閉まった。
湊は暗闇の中に一人、取り残された。
そして天井から、
ポタ……。
ポタ……。
何かが落ちる音が聞こえた。
湊はゆっくり顔を上げた。
そこには――
まだ誰も知らない、次の試験が待っていた。
コメント
1件
おお、これは一気に持っていかれた……。 廃校デスゲームもの、設定がもうガッチリはまってるね。「正しい道はいちばん怖くない道ではない」ってヒント、あれで2番を選んだ湊の直感――ここがすごく気になる。水の中で人が消えたシーンも、映像が浮かぶような怖さだった。まだ1話なのに既に世界観がしっかり立ってて、これからこの“試験”がどういう構造なのか、もっと知りたくなったよ。続き、楽しみにしてる。