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#狂気
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第831話、読ませていただきました。 家族の話に触れた時の主人公の“人は人、自分は自分”という線引きと、それを涼さんが無言で理解して背中を叩く空気感が、本当に好きです。お互いの過去を知っているからこそ言葉にしない励まし合い、じんわり沁みました。 朱里さんを見て「愛しているの言葉じゃ済まない感情」と目を細めるシーンも、尊さんの心情の深まりを感じられて胸が熱くなります。 一方で、五つ星ホテルのあの“隠し所のない内装”には思わず吹き出しました。朱里さんのフォローも可愛くて、旅の空気が立体的に伝わってくる回でした🌷
今の流れで自分の事を考えたからといって、涼や中村さんの家族を羨んでいる訳ではない。
人は人、自分は自分。それぐらいは弁えている。
「みんなで幸せになれたらいいな」
親友に微笑みかけると、涼は笑い返し、ポンポンと俺の背中を叩いてきた。
涼はあえて何も言わないが、家族の話になると俺が自分の境遇を鑑みる癖があると分かっている。
大学生時代に凄まじく荒れて、毒という毒を吐き散らかしたから、今改めて言う事はない。
俺も涼も、刻々と変わっていく現実に対処し、過去に負わされた心の傷が少しずつかさぶたに覆われているのを感じている。
けれどお互いの過去に何があったかは承知しているから、こうやって無言のうちに「分かっている」と励まし合う事ができていた。
(帰国したら、ちえり叔母さんたちと温泉か)
百合さん……、もとい祖母も一緒だというので、少し緊張しているのは否めない。
みんなのお陰で和解できたと思っているし、俺も百合さんも、少しずつ歩み寄ろうとしている。
ただ〝計らい〟で二人きりにされたら、きっと話す事がなくなって困るだろうから、「そうしてくれるなよ」と女性陣に対して祈っている。
(でも、……縁を切られたと思っていた人と、一緒に温泉旅行に行けるなんてな)
少し前の自分なら、信じられなかっただろう。
(本当に、朱里と付き合うようになってから、色々な事が好転していったように思える)
俺はコスメの棚の前ではしゃいでいる彼女を見て、目を細めて笑う。
朱里には感謝してもしきれないし、「愛している」の言葉じゃ済まない感情を抱いている。
(いつまでも二人で笑っていられますように)
心の中で祈ったあと、――いつか彼女に子供が宿る事を考え、そっと微笑んだ。
**
「尊さん! 大量です! 沢山買っちゃった! どうしよう! いい?」
私はずっしりと重たい袋を持ち、ドーパミンの出きった幸せフェイスで訴える。
「欲しいもん買えたか?」
「お陰様で沢山買えましたけど、使い切れないお金が余ってます……」
私はオーストラリアドルだけが入った、尊さんのお財布を返す。
と、涼さんが恵に尋ねる。
「恵ちゃんは? しっかり買い物した?」
「いやー……、朱里がオススメしてくれた物は買いましたけど、正直コスメや香水を欲しいって欲があんまりないので……。あっ、グミ買いました」
「グミぃ……」
涼さんはうなだれている。
「まぁ、シドニーでも買い物するだろうし、そっちで残りを使って食事でもして、残ったら景気よく募金しようぜ」
尊さんに言われ、涼さんはじっとりとした目で恵が持っているグミのパッケージを見てから「だな」と頷く。
そのあと私たちはラウンジで軽食をとりつつ時間まで待ち、いよいよ飛行機に搭乗してケアンズと別れを告げた。
機内食では柔らかパン、チキンのソテーと添え物のグリル野菜が出た。
デザートにはベリーのムースが出て、意外と甘くなくペロッといける。
モニターで映画を一本、アニメ作品は実写に比べて短めなので、その組み合わせで見ていると、シドニーのキングスフォード・スミス国際空港までジャストな感じだった。
空港に到着したのは現地時間の二十一時すぎで、荷物を受け取ったあと、空港から車で十分の距離にあるホテルにチェックインした。
恵たちと別れてカードキーでドアを開けると、ホッとできるコンパクトな大きさの部屋に入る。
それでも五つ星ホテルらしく、とても綺麗だし安心して眠れる。
部屋は細長いレイアウトで、入ってすぐキングサイズのベッドがドン。窓際にはソファセットやテレビがある。
驚いたのはバスルームやトイレが独立しておらず、ベッドのある空間とバスタブの間に黒っぽいガラスの仕切りがあるだけだという事だ。
バスタブの奥には洗面台があり、曇りガラスの引き戸をスライドさせる事で、横並びになったシャワーブースとトイレが、交互に現れる設計だ。
「……なかなか、隠し所のない内装だな」
尊さんが言い、私はドキッとしてフォローする。
「でも、空港で一晩過ごすより、ちゃんとしたベッドで眠れるのありがたいです!」