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第6話「カメラのあるコンビニ」
コンビニの冷たい光が、夜の街に鋭く刺さる。
店の前に立つひなたは、胸の奥で小さな不安が膨らんでいくのを感じていた。
空気が冷たく、足元のアスファルトはひんやりと硬い。
街灯が何本か倒れて、闇の中にぼんやりと浮かぶ。
「買い物してくる」
つかさが言った。
だが、ひなたはその言葉を聞いても、ただぼんやりと彼女を見つめるだけだった。
心が静まり返っていくのがわかる。
ふたりの間に、何かが変わった気がした。
つかさが店内に入ると、ひなたは立ち尽くし、ガラスの扉越しにその背中を見つめた。
ここまで来たら、もう後戻りはできない。逃げた先には、何が待っているのだろう。
薄暗い店内に入ると、最初に目に飛び込んできたのは、天井の防犯カメラだった。
監視の目。それが、ひなたの胸を締め付けた。どこにいても、誰かに見られている気がする。
「逃げられないんだ」と、どこかで感じている自分がいる。
「…気にしすぎ」
自分に言い聞かせるけど、心の中でその言葉がどんどん重くなっていく。
不安がじわじわと広がる。
ここも、あそこも、どこに行っても“目”がある。
気づけば、ひなたの手のひらは汗で濡れていた。
「買ったよ」
つかさが、袋を手に出てきた。
でも、その顔はいつもと少し違って見えた。
目の奥に、焦りの色があった。
「つかさ?」
「何でもない」
つかさは、少しだけ不機嫌そうにそう答えた。
でも、ひなたはその言葉の裏に隠されたものを、なんとなく感じ取っていた。
「……ずっと、私たちを見てるみたいな気がして、すごく怖い」
つかさの声が、いつもより小さかった。
その言葉が、ひなたの胸をぎゅっと締め付ける。
「本当は、何もかも怖いんだ」
そう言うと、つかさはただ黙って歩き出した。
ひなたも、それについていく。
心の中で、どこかに確信があった。
ふたりは、逃げることを選んだ。
だけど、どこに行っても、何をしても、心の中で“目”を感じ続ける。
その“目”から、逃げることはできないのかもしれない。
ふたりは歩きながら、しばらく何も言わなかった。
ひなたの目線は、つかさの後ろを追っていた。
その背中が、少しずつ遠くなっていくような気がして、手のひらが震えた。
——もしも、つかさがいなくなったら?
ひとりで、どうやって生きていけばいいのだろう。