第7話「震える声」
「ねぇ、つかさ」
暗いホテルの一室で、ひなたはベッドに座りながら、隣で眠っているつかさを見つめた。
隣のシーツはまだ少し、温かい。だけど、つかさの寝顔は、疲れ切っているように見えた。
「……どうして、こんなことになったんだろう」
つぶやいても、返事はない。
何度も、何度も、ひなたは心の中でその言葉を繰り返していた。
つかさと一緒に逃げることを決めたのは、自分だった。
でも、いざ逃げる日が来て、ひなたは感じていた。
つかさが思っている以上に、恐れていることがあるのだと。
「もう、無理かもしれない」
ひなたは手で顔を覆った。
逃げ続けるのは、こんなにも怖いことだなんて、思っていなかった。
どこまで行っても追ってくる気がしてならない。
街に着いても、逃げる先が見えない。
「私、どうしたらいいんだろう」
つかさに頼りきっている自分が、ふと怖くなった。
もし、つかさが疲れきって倒れてしまったら?
もし、つかさが、もう耐えられなくなって逃げ出してしまったら?
ひなたは身体を震わせた。
そして、顔を上げると、ベッドの端に座っているつかさの姿が見えた。
その目は、ひなたを見つめていた。
「……なんだ、起きてたんだ」
「何も言わずに泣くのはやめろ」
つかさは、無言で手を伸ばし、ひなたの手を取った。
その冷たい手が、ひなたの手を包み込むように握られる。
「泣きたいときは泣けよ。でも、私を頼ってくれてもいいんだぞ?」
ひなたは、その言葉に胸が詰まった。
つかさの目は、真剣だった。どんなに険しい言葉でも、ひなたにとっては暖かい。
「……でも、つかさも、怖いんじゃないの?」
ひなたが恐る恐る尋ねると、つかさは少しだけ考えて、それから小さく笑った。
「怖くないわけないだろ。でも、今さら引き返せないし。
だから、あんたと一緒に、ただ進むしかないんだ」
その言葉は、ひなたの胸を軽くした。
逃げることが怖いのは、つかさも同じだったのだと気づいた。
そして、その怖さを共有していることが、少しだけ力になった。
ひなたは、深く息を吸った。
心の中で、少しだけ覚悟を決めた。
「私、つかさと一緒にいたい。どこまでも、逃げ続けたい。
だから、お願い。途中で離れないで」
つかさは、ひなたの手を握り返して、黙って頷いた。
「私も、あんたと一緒なら、どこにだって行ける気がする」
そう言って、つかさはひなたを引き寄せ、無言で抱きしめた。
ひなたの頭に、つかさの髪が触れ、その温もりがじんわりと伝わってくる。
——もう、二度と一人には戻らない。
ひなたは心の中でそう誓い、つかさの背中をそっと抱きしめ返した。
コメント
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雰囲気ぶちこわすけどホテルって言うから えろいのかと思った…( ᐛ )