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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──午後
シクフォニ本部、LANの部屋
夕方の陽が傾き始める頃
LANは静かに話を始めた
向かいにいるのは、いるま
いつも気だるげな彼が
今日だけはじっとLANの話を聞いている
ー
LAN、……名前は、暇72
いるま、ッ!
LAN、でも“なつ”かもしれない
毛先だけ赤くて無意識に武器の扱いが
異常に上手い
そして“キルシュトルテ軍団”に所属してる
こさめが誘導して、こっちで今拘束してる
いるま、──で?
LAN、すっちーの情報と昔お前が言ってた
孤児院にいたやつの特徴がほぼ一致してる
けど本人は完全に覚えてない
“いるま? 誰だよそいつ”って言ってた
……お前のこと、まるで知らないみたいに
いるま、──部屋はどこ?
LAN、おい、いるま──!
ーー
いるま(ほんとに……なつ、なのか?
名前も顔も、思い出してくれないのか?
……でも、それでも──)
ーー
扉の前で足を止める
手がわずかに震える
思い出してくれなかったとしても、
声を聞きたかった
生きててくれたって知りたかった
ドアをゆっくりと開ける
その瞬間、中にいたなつが顔を上げた
ぼんやりと、無表情に
いるまの姿を見ても─何の反応も示さない
ー
暇72、あ? 誰だよ、今度は
次は何の尋問? LANからの命令か?
いるま、(ほんとに、全部……
忘れてんのかよ)
暇72、…、(なんだこいつ)
いるま、なつ……
……帰ってきたんだな、お前
暇72、はッ?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
部屋の空気は乾いたまま止まっていた
いるまが去ったあと
なつは部屋の隅で背を壁にあずけるように 座り込んでいた
足元には、拘束用の鉄枷
動けるのは、わずかに数歩ぶん
ー
暇72、なんなんだよ、さっきのやつ……、
ー
思い出せない
でも、心の奥がざわついていた
そんな中扉が、コンッ、と軽くノックされた
ー
こさめ、ん、?、反応ないじゃん
ー
聞き覚えのある、ゆるい声
ガチャリッ
鍵が開いて、ゆっくり扉が開く
入ってきたのは、こさめだった
こさめはふわっと笑って
何の警戒も見せないままスッと
目の前にしゃがみこむ
ー
こさめ、ねぇ?
どうだった? いるまくんに会ってさぁ
……なんにも思わなかった?
暇72、別に、…何も
こさめ、あの人、本当にいい人だからさ
暇72、(ッ、、─あれは……ヤバい)
ー
なにかが“壊れてる”
何かを“許してない”
ー
こさめ、だから、お願いね?
ー
首を傾げて
こさめがなつの頬にそっと指先を添えた
ー
こさめ、メンバーだけは絶対に
傷つけないで
ー
その瞬間
その声が、“芯”から変わった
低く静かに、底冷えするような声で
囁かれる
ー
こさめ、だってさ─こさめ壊れるの
嫌いなんだよね
好きな人に堕ちて壊れるのはいいけどね
大切な人が壊れる音ってすごく
…ムカつくの
ー
そして、にこっと笑う
でもその笑顔
「感情」が感じられなかった
ただの“意思”だけがそこにあった
──それが、いちばん怖かった
なつは一歩、反射的に体を引いた
でも壁がある 逃げ場はない
ー
暇72、(なんだよ……こいつッ、……)
ー
身体が震えた
何かが、腹の奥から這い上がってくる
ー
こさめ、大丈夫。こさめ“命”奪うのなんて
慣れてるから
それはお互い様だろうけど
……でも、奪わなくて済むなら
そのほうが好き だからね──
次、“その目”でいるまくんを見たら
君を殺すと思う
ー
その言葉を最後に
扉が、静かに閉まる音がした
──ガチャ
沈黙
その音だけが、部屋に残された
なつは拳を強く握りしめたまま、俯く
目の奥が熱い
痛みでも怒りでもない説明のつかない感情が喉元までせり上がる
……少しだけ
ほんの少しだけ涙がこぼれそうになった