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「全部、あいつを倒すためだろ?家族を殺された復讐、仲間を殺された復讐。これ以上犠牲者を増やさないために」


「だから何だと言うんだ」


月城さんは、淡々と答えている。


そうか、最初から優しくしてくれたのも、すべて私を信用させるための演技だったのか。


街へ行ったのも、敵が私のことを見つけやすくするため。好意と思えたことをしてくれたのも、敵を倒すための策の一部。私は、彼らにとって敵を倒すための手段でしかない。

「守る」と言ってくれた言葉も、もちろん私が殺されたらあいつが力をつけるからだけの言葉。


そんなこと、わかっていた……。

わかっていたつもりだった。

彼らが私に優しくしてくれるのは、あくまで私が殺されたらもっとたくさんの犠牲者が出るから。彼らの任務として、それは死守しなければならない。

わかっていたのに、それでいいと思わなきゃいけないのに、大勢の人の役に立てればいいと思っていたのに。


どうしてだろう?


いつから樹くんに大切にされたいという感情が芽生えてしまったんだろうか。


彼らの話を聞き、現実を突き付けられたショックからか、自分が建物のどこの位置にいるのかもわからないのに、私は走り出してしまっていた。


「ねえ、樹。なんで反論しなかったの?小夜ちゃんが一番大切なんだって。早く決着をつけたいのも、彼女が安心して元の暮らしに戻るためだってなんで言わなかったの?」


「それは……」


言葉を言いかけた時、人が走り去る気配を感じた。その気配をたどる。


「まさか……」


「樹にしては、珍しいね。感情が感覚を上回るなんて」


「俺が小夜ちゃん一人にするわけないじゃん。一緒に連れて来たんだよ。なんで言わなかったんだよ、大切なこと……」


彼の言葉を待たずして、扉が勢いよく開いた。


「あーあ、話の途中で行っちゃったよ」


はぁとため息をつき

「俺、策士には向いてないかも。樹の気持ち聞かせて小夜ちゃん安心させたかったし、樹にも言葉に出させて自覚させたかったのに……」


誰もいない部屋で彼はポツリ呟いた。


どこを走っているかわからないが、出口を捜す。

一層のこと、窓から出てしまおうか。

いや、そんなことをしたら不審がられるだろう。


ただでさえ、今一人でいるため不審者だと思われかねない。


走りながら涙が零れる。

涙で視界が悪くなったため、立ち止まり、涙を拭いた。


着飾った自分が一気に惨めに感じられた。


「馬鹿みたい」


自分の気持ちが言葉として現れる。


その時一一。


「んん!」


後ろから羽交い絞めにされた。口を布のようなもので塞がれる。その次は、目隠しをされた。

誰だろう、敵に見つかった?

いや、さすがに危険を侵してまで、ここまで追って来ないだろう。


月城さん?小野寺さん?


それも違う、もし二人だったらこんなに力任せに連れて行かない。


でも、一瞬口を塞がれた時に隊服が見えたような気がした。

痛い、口を塞がれていて声が出せない。腕を強く引っ張られる。何も見えないが、抵抗をした。


「チッ」

舌打ちが聞こえ

「大人しくしろ。殺すぞ」

首を抑えられた。


恐さで身体が硬直する。

助けてと叫びたくても、叫べない。


「うう゛」

うめき声しか出せない。

ここはどこだろう、強引に座らされた。


「おいお前ら、着物は汚すなよ。高値で売れそうだからな」


先ほどとは違う声だった。


何人かいるんだ、そう思った時だった。

目隠しが外された。

月城さんたちと同じ隊服を着た男が三人立っていた。口は塞がれたままなので、何も言えない。


「はい、わかりました」


ここはどこだろう、さまざまな刀がたくさん置いてある。

武器を保管して置く部屋なのだろうか。

建物内のどこか、感覚的にそんなに遠くへは行っていないはず。


「良いんですよね、殺しちゃっても」


「ああ、司波《しば》様からの依頼だ。殺してしまって構わない。死体は持って来いって話だがな」


司波とは、私を狙っている人のことだろうか。


この人たちは、隊士なのに雇われているの?


「殺す前にこの女で遊んでいいですか?あの鬼隊長のせいでイライラしちゃって。訓練、自分は何もしないくせに散々いろいろと言ってきて腹が立つんですよね」


「隊長って本当に強いんですか?戦っているところ見たことないんですが」


口々に月城さんの愚痴を漏らしている。


「いや、強くないだろ。上官たちに媚を売るのが上手いんだよ。あの男は」


そんなことないと声を出したかったが、うめき声しか出せない。

私は、まだ月城さんのことを信じたいという気持ちが残っているからか、彼のことを悪く言われると腹が立った。


「殺す前に遊んでやれ。もう一度言うが、着物は汚すなよ。脱がしてからやれよ」


二人の男が近づいてきた。


いやだ、死にたくない。


私がここで殺されて、司波って人のところへ連れて行かれたらもっとたくさんの人が亡くなることになる。


死にたくない。どうすればいいのだろう。

両手と口は塞がれている。


この人たちは、私を殺す前に、自分たちの快楽の道具として扱うつもりだ。なんとか時間が稼げたら、誰かが見つけてくれるかもしれない。


一人の男が私の着物を脱がそうとする。

男を足で蹴って抵抗をした。


「おい、やめろ」


一人の男が私に馬乗りになり、足の動きと縛られている手の動きを止める。

すると、もう一人の男が着物を胸元から脱がせてきた。


嫌だ、やめて。


「死ぬ前に、気持ち良くしてやるからな」


そう言って男たちは笑っている。


助けてと何度も心の中で叫んだ。


その刹那ーー。


急に「ドン!!」という音が近くから聞こえた。


男たちの動きも止まる。


「おい、見て来い」


中心と思われる人物が命令をすると、一人の男が部屋の出入口と思われる方向へ向かった。


姿が見えなくなったと思った瞬間。


「ぎゃあああああ!!」


男の叫び声が聞こえた。


声を聞き、一気に男たちは警戒をしている体勢に入った。


コツンコツンと誰かが歩いてくる音が聞こえる。


「何をしている」


そこには聞き覚えのある声がした。


月城さん。樹……くん。


刀を持った彼の姿が見えた。


「隊長?なぜここに?」


「それはこっちのセリフだ」


私を抑えている男と今まで指示をしていた男が目を合わせる。


「いくら隊長でもこんなところを見られたら、生かしておくわけにはいきませんね」


そう言って中心になっていた男が刀を抜いた。


「実は俺、気に入らなかったんですよ。実力のないあなたが隊長なのが……」


男の言葉はまだ途中だった。


しかし私が瞬きをした瞬間、男は倒れ動かなくなった。腹部から出血をしている。

月城さんの刀には微量の血が付いているように見えた。


「ひっ!」


私を抑えていた男は、小声で悲鳴を上げた。


「その子から離れろ。どけ」


あまりの威圧感にその言葉通りに男は従った。

腰が抜けたのか、這ってその場から逃げようとしている。


そんな男に目もくれずに、月城さんが私に近寄った。


「小夜、大丈夫か?」


着物が半分脱げかけていたため、見えないように自分の羽織を被せてくれ、座っている私に膝をつき、目線を合わせ、手と口の布を解いてくれた。

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