テラーノベル
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店を出ると、激しかった雨は小降りになり、雲の隙間から夕焼けのオレンジ色が顔を出していた。
水たまりに反射する街灯が、キラキラと眩しい。
「……あ、雨上がったね。国見くん、傘ありがとう」
「……別に。……濡れた、肩」
国見くんは自分の肩がびしょ濡れなのも構わず、私の肩をじっと見つめて、また無造作に指で払った。
その指が、今度は離れずに、私の鎖骨のあたりで止まる。
「……ねえ、柚」
「……ひゃいっ!?(変な声出た……)」
「……何それ。……変な声」
彼は少しだけ口角を上げて、意地悪そうに目を細めた。
でも、その瞳の奥には、授業中の冷たさとは違う、熱のようなものが混ざっている。
「……これ、明日から学校で使って。……田中が見る前で」
カバンに大切にしまった、お揃いの消しゴムのことだ。
彼はわざわざ、自分と色違いのそれを使うように念を押してくる。
「……わかったよ。でも、変に怪しまれないかな?」
「……いいよ、別に。……怪しまれても」
「えっ?」
「……俺のものだって、わかればいいし」
さらりと言い捨てて、彼はバス停のベンチに腰を下ろした。
隣に座れ、と言わんばかりに自分の隣をポンポンと叩く。
「……足、疲れた。……バス来るまで、こうしてて」
「……うん。お疲れさま、国見くん」
隣に座ると、雨の匂いに混じって、彼の体温が伝わってきた。
彼は私の肩に、こんと自分の頭を預けてくる。
「……寝る。……起こしてね」
「ええっ、こんなところで……?」
「……柚の隣、……落ち着くから」
規則正しい寝息が聞こえ始める。
肩にかかる彼の重みが、愛おしくて、少しだけ苦しい。
独占されているのは、私の持ち物だけじゃない。
私の時間も、思考も、全部。
この「静かな独占」に、私はもう、抗う術を知らなかった。
昨日の雨が嘘のように晴れ渡った、眩しい朝。
登校して自分の席に座ると、隣の国見くんは相変わらず机に突っ伏していた。
「……おはよう、国見くん」
そっと声をかけると、彼は顔を上げずに、片手だけをひらひらと振って応えた。寝ているのかと思いきや、その手は私の机の上にある「筆箱」を指さしている。
(……あ、昨日の約束)
私は少し緊張しながら、カバンから昨日買ったばかりの消しゴムを取り出した。
白地に青いライン。国見くんが持っているものと、全く同じメーカーの色違いだ。
「……出しておいたよ。これでいい?」
「……ん。……いい子」
彼はようやく顔を上げると、満足げに目を細めた。
しかし、その平穏な時間は長くは続かなかった。
「よっ、柚! おはよ。……お、消しゴム新調したのか?」
前の席の田中くんが、ガタッと椅子を回して話しかけてきた。
「あ、うん。昨日、ノート買うついでにね」
「へぇー、それ使いやすいよな。……あれ? 待てよ」
田中くんの視線が、私の手元と、隣の国見くんの机の上を行ったり来たりする。
国見くんのペンケースの横には、わざとらしく私と同じシリーズの消しゴムが置かれていた。
「国見、お前もそれ……? お前ら、もしかしてお揃いかよ!」
「…………」
田中くんの大きな声に、周囲のクラスメイトが数人振り返る。
私は顔が熱くなるのを感じて、「ち、違うよ! たまたま……」と言いかけたけれど。
「……たまたまじゃないし。俺が選んだ」
国見くんが、遮るように淡々と言い放った。
教室が一瞬、しんと静まり返る。
「……えっ、国見が選んだって……。柚、お前ら昨日一緒に……?」
「……悪い? 文句あるなら、あいつに消しゴム貸すの、もうやめて」
国見くんは、田中くんを冷ややかな瞳で一瞥すると、私の消しゴムをひょいと取り上げた。
そして、自分の消しゴムと並べて、私の机のど真ん中に置く。
「……これ、隣同士の特権。……でしょ、相川」
彼はそう言って、私にだけ見える角度で、意地悪そうに、でも独占欲たっぷりに微笑んだ。
田中くんの困惑した顔と、クラスメイトの好奇の視線。
隠すつもりなんて、最初から彼にはなかったみたいだ。
コメント
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