テラーノベル
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一人残された楽屋で、阿部亮平は呆然と立ち尽くしていた。頭の中は、先ほどの佐久間の、諦めに満ちた背中と声でいっぱいだった。
(どうして…?計画では、完璧だったはずなのに…)
『プロジェクト・アパシー』は、佐久間を精神的に追い詰め、阿部への依存を自覚させ、完膚なきまでに叩きのめす作戦。それが、どうしてこんな結末に?
阿部は、自分の『勝利マニュアル』に記された計画が、根底から覆されたような感覚に陥っていた。
その頃。
楽屋を出た佐久間大介は、テレビ局の廊下の角で、スマホを片手に誰かと電話をしていた。その表情は、先ほどの悲壮感あふれるものとは全く違う、楽しそうな笑顔だった。
『さっくん、大丈夫!?阿部と話せた!?』
電話の向こうから聞こえるのは、心配そうな深澤の声だ。
「うん、さっきね。いやー、阿部ちゃん、マジですごいわ。俺、あんな悲しい顔、生まれて初めてしたかも」
『笑い事じゃねーよ!こっちはマジで心配して…』
「あはは、ごめんごめん!でも、もうちょいだからさ!」
そう、全ては、佐久間大介の壮大な“お芝居”だったのだ。
話は、作戦開始初日に遡る。
阿部のあからさまな塩対応。佐久間は、その日のうちに、すぐに気づいていた。
(あ、これ、やってんな〜。笑)
第一次作戦(ブレスレット)、第二次作戦(プレゼン)と、阿部の奇行に付き合わされてきた佐久間だ。今回もまた、阿部が自分を「完敗」させるために、何か壮大な計画を立てていることくらい、お見通しだったのだ。
(よーし、乗ってやろうじゃないの!)
最初の数日は、阿部の計画通り、見事なまでに傷つき、落ち込む青年を演じきった。メンバーが本気で心配し始めたのを見て、これはやりすぎたかな、と少しだけ反省もした。
そして、作戦開始から5日目の夜。
佐久間は、阿部以外のメンバーをグループ通話に招待した。
『さっくん!?大丈夫か!?』
『阿部のやつ、マジで何考えてんだよ!』
メンバーの心配の声を、佐久間は「しーっ」と人差し指を立てるジェスチャーで(画面越しに)制した。
「ねーみんな?阿部ちゃんのこと、気づいてるでしょ?」
その声は、いつもの明るい佐久間のものだった。
「あいつ、また俺に勝負挑んできてるんだよ。多分、俺がいないとダメだって、認めさせたいんだと思う」
『いや、だとしてもやりすぎだろ!』と渡辺が言う。
「うん、それは俺も思う。…でもさー」
佐久間は、そこで悪戯っぽく笑った。
「俺、勝ちたいからさー?」
『は…?』
「だから、お願い。止めないで?もうすぐ、俺のターンだから」
その言葉に、メンバーは呆気にとられたが、同時に全てを察した。
これは、ただの痴話喧嘩ではない。二人の間で繰り広げられる、壮大なプロレスなのだと。
そして、今日。
佐久間の「やっぱ、なんでもない」というセリフ。
これも、もちろん戦略。阿部に「勝利」を確信させ、油断しきったその心の隙間に、最大級のカウンターを叩き込むための、完璧な布石だった。
電話を切った佐久間は、スマホをポケットにしまうと、もう一度、阿部がいるであろう楽屋のドアを見つめた。
「…そろそろ、かな」
今頃、阿部ちゃんは一人でパニックになってる頃だろう。
王手をかけるのは、今だ。
佐久間は、再びドアノブに手をかける。
今度は、悲劇のヒロインとしてではない。
この勝負の、本当の勝者として。
愛する挑戦者に、これが「最終回答」だと教えにいくために。
※あべさくが好きな方はここまでがいいかと思います!!
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続きが知りたい(´。✪ω✪。 ` )