テラーノベル
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「だから、その……柊が未だに俺のこと好きだって想ってくれてたの嬉しかったよ」
あまりにも現実離れした言葉に、混乱が加速する。
「ちょ、ちょっと待ってよ。冗談でしょ?」
必死で冗談だと決めつけようとする俺に、晋也さんは少し呆れたような
でもどこか嬉しそうな顔で言った。
「冗談でこんなこと言わないよ、ましてや、本気で好きな子に。」
彼の言葉が、ゆっくりと俺の心に染み渡っていく。
俺の手を握っていた手が解かれたと思ったら、そのまま腰を抱き寄せられる。
急接近する晋也さんの体に、俺の心臓は激しく跳ね上がった。
「……っ、だ、だって晋也さんは俺の親代わりなのに…っ、付き合うとか、できないんじゃ……」
混乱のあまり、支離滅裂なことを口にする俺に晋也さんは優しく微笑んだ。
「言ったろ?あれは法的な親子関係が成立するわけじゃないって」
「え?ってことは……」
「法律上他人同士なら、付き合えるってわけだ」
そう言って俺の頭を撫でる晋也さんの手のひらが、とても心地よかった。
優しい温もりが頭から体全体に広がり、そして、嬉しい言葉の連投に俺はもう泣きそうになっていた。
本当に?本当に俺たちは、恋人になれるの?
「…俺……っ、本当の本当の本当に、晋也さんと付き合えるってこと?!」
俺の問いに「そんな疑わなくても付き合えるよ」と、晋也さんは嬉しそうに笑ってくれた。
その顔にキュンとしていると、俺の頬を彼の指が優しく撫でる。
「柊……改めて言うけど、俺も好きだよ」
その言葉は、まるで夢のように甘く俺の心に深く刻まれた。
「……っ、なんか、信じらんない…これ、ゆ、夢じゃないよね?」
テンパって思わずそう聞くと、晋也さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「夢だと思うなら……ここに、そういう仲だって証拠残すか?」
そう言いながら、俺の唇に指先で触れてくる。
ひゅっ、と喉から変な声が出て「へっ?!」顔が真っ赤になるのを感じた。
「ほら、こっち」
目を閉じて、顔を近づけてくる晋也さん。
彼の顔がどんどん近づいてくる。
このまま、キスされるの?!
「ちょっ、と待ってっ!まだ心の準備がっ」
慌てて体を離そうとすると
晋也さんは「ふっ、冗談だよ」なんて笑うから
「もう!からかうなよ!本気にしたのに……っ」
抗議すると、また楽しそうに笑われる。
「ごめんごめん。柊が可愛くてつい、な」
そんなことを平気な顔して言ってくるもんだから、俺はさらにドキドキしてしまう。
心臓がうるさすぎて、破裂しそうだ。
しかし、それにしてもだ。
「晋也さん…も、そんなに俺のこと好きだったの?」
改めて聞くと、晋也さんはたり前だろ、という顔で言った。
「そりゃあな」
そう言われて、安堵の息を漏らしながら、俺は問いかけた。
「じゃあ俺たち両想いだったってこと?」
「……そうなるな」
その返事に、また胸がギュッとなった。
この幸せな感情は、いったいどこまで俺を満たすんだろう。
「どうしよう、なんか幸せすぎて死にそう」
「おいおい…縁起でもないこと言うなよ」
「だって本当に死んじゃいそうだし…」
俺の言葉に呆れたように笑う晋也さん。
その顔も、優しい声も、今はすべてが愛おしい。
「はいはい分かったから」
そう言って、耳で囁かれる。
「でも、俺も嬉しいよ、家に帰るのがさらに楽しみになったしな」
その声に、また心臓が大きく跳ねた。
◆◇◆◇
翌日──……
朝起きると隣に晋也さんがいた。
そのことが当たり前になった日常に、俺は幸せでいっぱいだった。
リビングに行くとすでに起きていた彼は「おはよ」と優しい笑顔で迎えてくれる。
俺も笑顔で「おはよう」と返す。
ふたりで食卓を囲む朝食の時間も、前よりさらに特別なものになった。
学校に着いても昨日のことが忘れられなくて
ずっと晋也さんのことばかり考えていた。
「おーい、お前聞いてる?」
クラスメイトの男子・郷田に話しかけられているのに気づき慌てて謝罪する。
「ごめんなんだったっけ?」
「お前さ、最近なんかいいことあったのかよ?」
「えっなんで?」
「なんつーかいつもよりソワソワしてるっていうか?ニヤニヤしてたから」
「え、ほんと?顔に出てた?!」
「彼女でもできたんじゃねぇだろうな!」
「な、ないって!!」
しかし、その指摘通りだったかもしれない。確かに俺は浮かれていたのだと思う。
放課後──……
学校帰りの電車の中、窓ガラスに映る自分の顔を見るとやっぱりニヤけていた。
家に帰れば好きな人に会える、その期待感で胸が高鳴る。
◆◇◆◇
玄関を開けると同時に「おかえり〜」という声とともに駆け寄ってくる彼。
「ただいま、晋也さん今日早いんだね」
「ああ、だからお前の好きなビーフシチュー作ってたんだ」
「え!めっちゃ嬉しい!!早く食べよ!」
「ふっ、本当に柊は分かりやすいな」
その笑顔を見るだけで一日の疲れが吹き飛んでしまうくらい幸せだった。
◆◇◆◇
その日の夜──……
ソファに並んで座りながらテレビを観ていたら、不意打ちのように晋也さんが俺の髪に触れてくる。
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