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ドキッとしながら見上げると、そこには甘く微笑む彼の姿があった。
「柊……」
呼びかけに胸が高鳴る。
その瞳に吸い込まれそうになりながらも、期待に満ちた気持ちで彼の次の言葉を待つ。
「なに……?」
問いかける声が少し震えた。
晋也さんは微笑んだまま俺の頬に手を添えると、
そっと唇の方へ指を滑らせていく。
「柊の唇……」
触れるか触れないかの距離で指先が止まり、
そのまま親指の腹で俺の下唇をゆっくりとなぞるように撫でた。
その感触に背筋がぞくりと震える。
(まさか……キス……される……?)
恥ずかしさと期待で全身が熱くなる。
目を閉じるべきか、そのまま開いておくべきか悩んでいるうちに
「……乾燥してるな」
予想外の一言に思考が停止した。
「え……?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
晋也さんは眉をわずかにひそめて、俺の唇をじっと見つめる。
「男だからってちゃんとリップクリームぐらい塗っとけよ?」
呆れたような口調に、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
(まさかの唇の乾燥チェック……!!)
勘違いしていた自分が猛烈に恥ずかしくなり、
顔から火が出そうなほどの羞恥に襲われる。
「う、うん」
慌てて手の甲で唇を隠そうとするが
「ちゃんとケアしないとダメだぞ」彼はそう言って苦笑いを浮かべる。
「……わかってるってば」
拗ねたように答えると
「ほら」
晋也さんは立ち上がってキッチンの方へ行ってしまった。
そして戻ってきた彼の手には小さなリップクリームが握られていた。
「俺が使ってるやつの新品ひとつあったから、柊にやるよ」
それを差し出してくる。
「え?いいよ別に……」断る俺に
「いいから使っとけ」と半ば強引に手渡してきた。
「……ありがと」
受け取りながらも内心複雑だった。
さっきまでのあの雰囲気は何だったんだと思いつつも
でも
(そんなところも晋也さんらしいかも)
なんて思ってしまう自分がいた。
結局のところ、この人の全部が好きなのだ。
そう思うと、さっきまでのドキドキも
今はどこか微笑ましく思えてくるのだから不思議だ。
そしてリップクリームを指で回しながら
そっと唇に当てると微かに甘い匂いが鼻をくすぐった。
◆◇◆◇
PM11時
晋也さんと一緒に布団に入った俺は、隣で横になる彼の肩にそっと頭を預けていた。
「晋也さん」
「なんだ?」
「俺たちってさ、付き合ってるんだよね」
「ん?あぁ」
さらりと肯定されてしまった。
あんなに緊張して告白したのに
改めて聞いたら普通に返された。
(なんであんなに緊張してたんだろ俺……)
そんな俺を察したのか、晋也さんは優しく髪を撫でてくれた。
その大きな手のぬくもりに安心して
ゆっくりと目を閉じる。
(あ……眠くなってきた……)
そのまま深い眠りに落ちてゆく
「おやすみ」晋也さんが最後に呟いた気がした。
──────────
翌朝──……
目覚ましの音が部屋中に響き渡り
薄目を開けるとそこにはすでに起きていた晋也さんの姿があった。
「おはよ」と言われてまだ寝ぼけ眼の俺は「んぅ……」と生返事をする。
布団の中で伸びをする俺を見て
「ふっ、猫みたいな奴だな」なんて笑われた。
朝食を済ませて仕事へ行く支度をする晋也さんの姿をぼんやり見つめながら
ふと昨夜のことが鮮明に蘇ってきた。
「ね、ねぇ晋也さん……」
布団から起き上がりながら呼び止める俺の声に、すでにネクタイを締め終えた晋也さんが振り返る 。
朝の日差しを浴びた彼の横顔は今日も眩しくて、その端正な輪郭線に見惚れてしまう。
「なんだ?柊」
柔らかな声で返されるだけで、昨日の告白が夢ではなかったことを実感できて
胸がぎゅっと苦しくなる。
でも同時に、「恋人」としてこれからどう振る舞えばいいのか全くわからない。
付き合い始めたばかりの初々しさが溢れて止まらない。