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最悪だ。
もう何度目の死に戻りか分かりゃしない。
俺はベッドから体を起こし手の平に小さな光の玉を浮かべ姿見の前に立った。
やはり。姿見に映るのは5歳の幼い姿。
色素の薄い髪は日に当たればキラキラ光る白銀。瞳も髪と同じ色。外はまだ暗い。
あと数時間もすれば執事が起こしに来る。
小さな洗面器に水魔法で水を出し顔を洗ったあとタオルで拭き、着替えを済ませ髪を整える。ベッドメイキングを済ませた後は再び姿見の前に立ち、映る自分の顔をなぞりくしゃりと顔を歪めため息をついた。
「また首を切られた…これで何度目かな…」
俺の最期は惨いものだ。時に斬首、時に火あぶり、時に魔物の餌、時に毒殺、時に魔法による拷問、ありとあらゆる処刑を経験したのではないかと自嘲する。
俺はただ愛されたかった。
フィリヴィッツ侯爵家の次男として生まれ両親からは愛されとても大切に育てられ兄と2人の弟とも仲は良かったと思う。何十回と繰り返してきた所為でそれが本当かどうか分からなくなったけれど。
そして必ず婚約者が俺にはいた。
この国の第一王子ルノ・ラズファル。誰もが見惚れる程の美貌の持ち主で漆黒の美しい髪はこの国を龍から守った初代の王と同じということで幸運をもたらす色とされている。
黒は王家の者しか持たない色らしくまた何物にも染まることがないため王家の者たちは総じて一途とされ伴侶は生涯ただ一人、一夫多妻制が多い他の国からはとても奇異な目で見られている。
が国力は馬鹿みたいに高い。その一端を担う我がフィリヴィッツ家の私兵たちの強さによるものが大きく、特に国や人々を脅かす魔物討伐の戦果は国に大きく貢献したとして莫大な富と金が褒美として与えられた。
そんな家の者と国の将来の王となる者が婚約関係になるのは至極当然のことだった。
お互いに男であるのにと最初こそ思ったがそれも繰り返されれば些細なことだ。
だって必ず俺は断罪され殺される。愛されることはない。
最初は優しかったルノ王子も成長と共に変わっていき、学園で出会った平民の男と恋に落ち俺は婚約破棄され殺される。
婚約者ルノに一目惚れした俺は隣に立つに相応しくあろうと勉強も運動も魔法も政治のことも王家のマナーもどんなに厳しくとも頑張った。ルノの負担を減らしたくて俺が婚約者で良かったと笑ってほしくて愛してほしくて頑張ったのに、なのに、平民の男に奪われた。悔しくて悲しくて平民の男に当たり散らしたし嫉妬心から様々な嫌がらせもしてきた。そうしてそれらのことがルノの耳に入り、断罪され処刑された。
気付いたら5歳の頃に戻っていた。
夢かと思った。夢だと思いたかった。でも夢ではないと本能が告げていた。
「マリノアル?どうしたの?」
兄であるユア・フィリヴィッツ、双子の弟で三男ノール・フィリヴィッツ、四男ベルファト・フィリヴィッツの3人が心配そうに顔を覗き込んできた。
「何でもない」
「ノア兄様、嘘言ってる」
ノールにそう言われ本当に何でもないと笑えば無言でノールとベルファトが抱きついてきた。
「…マリノアル、何か心配事があるならちゃんと言ってくれ。私たちでは頼りにならないかもしれないが話を聞くことは出来るから」
悲しげに笑う兄ユアは俺の頭を優しく撫でながらそう言った。
そんな表情も絵になるんだなこの人は、なんて場違いなことを考えてしまう。
「……ありがとうございます…」
未だ離れず抱きついたままの双子の頭を撫でながら俺はそう一言だけ答えた。
姿見に映る自分を見ながらふとそんな日があったなと思い出す。そう言えばあの頃は確かに幸せで愛されていた日々を送っていたんだっけ?それとも繰り返すたび心も体も疲弊し壊れかけている俺の妄想が作り出した幻想がさも現実として存在していたと脳が誤認しているのか。
改めて己の姿を確認する。今俺は5歳。ルノと婚約が結ばれるのは10歳になる俺の誕生日。これは何度繰り返しても変わらない確定されている未来。ルノに処刑されたのは覚えている限り7回。1番多い。今回で何回目の死に戻りか分からないがおそら今回もルノに処刑される未来なのだろう。何度回避しようと行動を変えても相手が違っても処刑される。
俺はあと何回恨まれ憎まれ殺されなければならない?あと何回苦しみ悲しみ絶望しなければならない?
神が本当に存在するのなら何故俺を助けてくれない?
俺は何故安らかな死を与えて貰えない?
俺はいつの間に神の怒りに触れたのだろうか。
気付かずに神の怒りに触れたから何度も死に戻り何度も殺されるのだろうか。
これは神罰なのだろうか。
もう分からない考えたくない。
家族も使用人たちも後に必ず現れる婚約者も親友も何もかも要らない。
俺は俺を知らない所で一人静かに暮らしたい。誰とも関わりたくない。
誰にも愛されないと分かっているのだから一人の方が楽だ。
神罰だとしたらたとえ一人静かに暮らしたいとしても必ず人間と関わりが出てくる。
そうして俺はまた殺され死に戻る。
神が満足するまで本当の意味での安寧は決して訪れないのだろう。
誰とも関わりたくないから俺は10歳の誕生日、家を出たのだ。
コメント
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うわ、重い…! でも引き込まれました。何度も死に戻って「愛されたい」だけなのに処刑される絶望、冒頭から胸に来ますね。5歳の姿で「また首を切られた」と呟くシーンが特に印象的。ルノ王子が一途な王家の設定なのに主人公を♡♡♡矛盾も気になるし、10歳で家を出る決意のラスト、どうなるんだろう。続きがすごく読みたいです。つばのさらさん、素敵な作品をありがとうございます!