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◻︎生活費の問題
「メインキッチンは、麻美さんがメインで使って、お義母さんの部屋にもキッチンを付ける、でどうですか?今使ってる家電もそのまま使えますし」
「私もそのメインのキッチン、使うわよ」
「もちろん、お二人で仲良く使えばいいと思うけど、長く暮らしてるとどうしても顔を見たくない日もあると思うんですよね」
「あら、失礼な。そんなことないわよ、ねぇ、麻美さん?」
「えっ、あ、はぁ…」
不意に振られて、弟嫁の麻美さんは苦笑いで誤魔化した。
「お義母さんと麻美さんならそんなことないと思うけど。でも、責任者的な役割は決めておいた方が便利ですよ」
私は、自分の考えをどんどん説明していく。
「なぁに、それは。すごく他人行儀ね」
お義母さんがなんだか不満げなのがわかる、それでもこれは話しておかないといけないと思う。
「たとえば…そうですね、キッチンの家電が調子悪いとか、何かの設定や手続きが必要になったりしたとき、どちらが手配したり設定したりするか決めておかないと、わからなくて揉めたりしますよ」
うんうんとうなづく麻美。
「あら、それくらい私でもわかるわよ」
またお義母さんの鼻息が荒い。
「よく言うよ、今だって新しいレンジが使えないとか、スマホの操作とかわざわざ電話して訊いてくるじゃないか」
聡が話に入る。
「そうだなぁ、メインのキッチンは麻美さんに任せて、母さんは自分のキッチンを自分なりにアレンジして楽しめばいいんじゃない?お客さんが来た時はその時でさ」
夫の隆一も、加勢してくれる。
「そもそも、誰がどれくらいの割合で資金を出すのさ?それにもよるけど、生活資金もどうするか同居が始まる前にきちんとしておいた方がいいと思うよ」
_____お、私が言いたかったことを言ってくれるとは、さすが!
あらためて、夫と価値観が似ていることにホッとする。
「そんな、水臭いわよ、家族なのに」
「家族だからこそ、ですよお義母さん。どっちかがどっちかに甘え過ぎてしまっては、いつか破綻してしまうから。生活ステージが変わったらまた話し合えばいいと思うし」
「私もそれ、思います。できればきちんと決めておいた方が、気持ちよく暮らせると思うので」
どうやら麻美も賛成らしい。
「お前や父さんはどうなの?」
夫は弟や父親に訊いてくれる。
「俺は、生活費の管理は麻美に任せてるから麻美が納得してくれてれば、間違いないかな?」
「俺も、母さんがよければそれでいい」
男たちはどちらかというと、立場が弱いのか?
「じゃあ、だいたいのプランはできたんじゃないか?個室とキッチン二つ、あとは予算で決めていけば?それだけは俺たちが住むわけじゃないから、なんとも言えないよ」
なんだか他人みたいで水臭いわねぇと呟くお義母さんの声が聞こえてきた。
「家族だからこそ一度、こじれてしまうと、根が深くなるんですよ。怨恨の殺人事件は身内が多いんですから」
「やだわ、物騒なこと言わないで。でも、そうね、そうかもしれないわね。気遣いはいらないけど思いやれる距離というのが、いいのかもしれないわね…」
なんだかんだ言いながらも、私が思っていることは伝わったようだ。
同居が始まった後で、うまくいかないからと我が家に転がり込まれたら堪らない!という本音は隠しておいた。
「それにしても、美和子さん?いくら自分の家だからってもう少しきちんとしてはいかが?」
でたな!と思った。
確かにお義母さんは、年齢のわりにはいつも綺麗にしてると思う、けれど。
「なんだよ母さん、急に」
夫の隆一が私より先に答えてくれる。
「いえ、ね…、美和子さんって昔からあまりお化粧をしないからね、なんていうかもったいないっていうの?お化粧すれば美人なのにと思ってたのよ」
「あー、その話ですか。いいじゃないですか、私は仕事が休みの日は、メイクも、できれば着替えもしたくないですよ。ダメですか?」
_____どうせメイクしたって誰も反応しないし、雪平さんと会うなら別だけど
「そんなんじゃ、隆一も可哀想でしょ?奥さんがそんなに野暮ったいなんて」
「は?ちょっとパパ、そこ立って」
私は夫をその場に立たせた。
「えー、なんだよ、いきなり」
「お義母さん、それを言うならこの人のことも注意してもらえませんか?」
「え?」
「髪も伸びっぱなし、髭も何日かそってないし、歯磨きもしたかどうかわからない。これ、コンビニくらいは平気だけどれっきとしたパジャマですよ?ここまでだらしないと、育てた親の顔が見てみたいとか思いません?」
「まぁっ!なんてこと!」
「あ、親ってお義母さんでしたね、すでに見てました、どもども」
義母の千代が、わなわなと震えているのがわかった。
その隣の隣で、義弟の嫁の麻美が肩を震わせている。こちらはどう見ても笑いを堪えている。
「美和子さん、あなたね!夫の身の回りのこともきちんとするのが嫁でしょ?あなたの役目ですよ」
「えー、子供じゃないんですからいいですよ、別に。私は気になりませんよ。もちろんちゃんとしなきゃいけないときは、ちゃんとしてますし」
そう答えながら、そうでもないか、とも思ったけど。
「まぁまぁ、千代さん、隆一の家庭には隆一の家庭なりのやり方ってものがあるんだし。僕らは客じゃないんだから、ね」
義父が間に入って、とりなしてくれる。
「私はお義姉さんの価値観と同じですよ。家の中くらい、その人の自由でいいと思います。だから私も、家ではメイクしないですよ」
「麻美さん、あなたもなの?どうして最近の若いお嫁さんは…」
大袈裟に頭を抱える義母。
「お義母さん、もう私も若くないですから、残念ですが…」
先に麻美が答えた。
「私はもっと若くないし。だいたい不潔じゃなければいいんじゃないですか?家族ってそんなことより大切なことがある気がするし」
義父母と義弟家族4人で同居するというのに、このままでうまくいくのだろうか?
「そういうことについても、もう少し話しておいたほうがいいよ、4人、いや、子供らも入れて6人でさ」
自分のことをネタにされたのに、そんなことは気にもしていない夫は心が広いのか鈍感なのかわからなかったけど、いいヤツだと思った。