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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「急いで。遅刻しちゃう」


「ハァ、ハァ……腰が痛い」


「同じく」


妹と2人して駅を目指して走る。両親は揃って車出勤なのでスタート地点から別行動。いつも登校は切羽詰まったレースに近い。寝坊助のせいで時間に余裕を持てなかった。


「ふぅ……どうにか間に合ったぁ」


「私の日頃の行いのおかげだね」


「いや、誰かさんがいなければもう一本早いヤツに乗れるんだが」


「またまたぁ。女の子と一緒に通学出来て嬉しいクセに」


「今まで何人の男子に告られた事ある?」


「一度だって無いよ! 悪かったね!!」


駅へと到着すると足を止めずに改札をくぐる。タイミングよく車両が停車していたので慌てて乗車。通勤ラッシュなので人は多い。席に座るどころか立っている事さえ困難な混雑具合だった。


「ねぇ、今日の私どう?」


「何が?」


「可愛い?」


「いつも通りだけど」


「ならいつもはどう思ってくれてるの?」


「なんとも思ってないよ」


「じゃあ可愛いって事だね」


「思考回路どうなってるの?」


2人してドア付近を陣取る。普段はもう1名加えての3人登校なのだが今日はいない。どうやら先に行ってしまったらしい。


「ぐぐっ…」


満員電車の中で望んでもいない押しくらまんじゅうを展開。息苦しい状態のまま数十分の時間を費して目的の駅へと到着した。


「授業中に居眠りしないように気を付けなよ」


「まーくんこそ暴れたりタバコ吸ったりしたらダメだからね」


「香織こそお漏らししたりしたらダメだよ」


「ならまーくんは…」


「この争い、不毛だからやめない?」


外へと飛び出すと駅から近い校門をダッシュでくぐる。無駄なやり取りを繰り広げながら。


「お~い、雅人」


「ん?」


昇降口付近までやって来た後は妹と解散。入れ違いに何者かが名前を呼びながら近付いて来た。


「え? 君、誰?」


「ふざけんなっ! 俺だよ、俺!」


振り返った先にボサボサ頭の男子生徒を見つける。中学時代から付き合いのある友人だった。


「おはよ、|颯太《そうた》。今朝も自転車とばしまくったみたいだね」


「おう、まぁな。ところで雅人も今来たのか?」


「そうだよ。家出るのが遅れちゃってさ」


「あぁ、俺もだ。強烈な金縛りのせいで寝坊したから全力でペダル漕いできたわ」


「凄いね。もう高校入ってから80回ぐらい金縛りにあってるじゃん」


彼は先生に遅刻の理由を聞かれると毎回『金縛りにあった』と返答。そのせいでクラスでのアダ名が悪霊マンになった事がある。もちろん一連の発言内容は全てジョーク。金縛りはただの言い訳だった。


「そういえば英語の宿題やってきた?」


「ちゃんとやってきたよ。辞典で調べながらだから時間かかったけど」


「あ、なら後で写させてくれよ」


「また?」


友人が重ねた両手をこちらに向けてくる。悪びれる様子の無い態度で。


「な? 良いだろ?」


「ダメだよ。宿題なんだから自力でやりなって」


「お前、俺が先生に叱られてもいいって言うのか。親友の俺が困ってるというのに見捨てようっていうのか、えぇ!?」


「なら昨日は宿題やらないで何やってたのさ」


「エロゲやってた。家庭教師のお姉さんとイチャイチャしてた」


「イチャイチャしてないで勉強教えてもらいなよ」


彼はあまり成績がいい方ではない。ついでに素行も。ただ気が合うのでいつも共に過ごしていた。事情により通学は別だがクラスは同じなので。


「あ~あ、今日もまた退屈な1日の始まりか」


「目新しいイベントでも起きてほしいよね」


「エロい転校生が来たり、エロい教育実習生が来たり、エロい悪霊に取り憑かれたりな」


「え? 金縛りって本当の話なの?」


教室に着くとほぼ全員のクラスメートの姿が目に入ってくる。どうやら自分達2人が最後の登校者だった様子。


「うおりゃあっ!! お前ら席に着け、うおりゃあっ!!」


更にやかましい掛け声と共に担任が教室に入って来た。鞄を机に置くのとほぼ同じタイミングで。本当にギリギリで辿り着く事が出来たらしい。


「ちっ、もう来やがった」


教師の登場にクラスメート達が一斉に自分の席へと散っていく。そのままホームルームへと突入した。


「ふぅ…」


学校はあまり好きではない。友人の存在以外に何一つ楽しみが無いから。好きと問われて肯定する人間の方が多いかは疑問だが。


「うおりゃあっ!! 英語の授業始めるぞ、うおりゃあっ!!」


ホームルーム後は授業が始まる。1時限目は大嫌いな英語。先生の訳が分からない掛け声と共にスタートした。


「ふあぁ…」


寝不足だったので座っているのが辛い。欠伸が止まらない。


「……ん~」


気分転換に窓の外に広がる景色を眺める。宇宙の暗さを感じさせない水色の世界を。


頑張れば浮かんでいる雲に乗れるだろうか。いつも幼稚な現実逃避ばかりを繰り返していた。


「うおりゃあっ!! 数学の授業始めるぞ、うおりゃあっ!!」


2時限目は数学。苦手な科目。その後も実験が楽しい理科や体を動かすのが楽しい体育をこなし、いつも通りに1日の授業が終わった。


「うおりゃあっ!! じゃあお前らまた明日な、うおりゃあっ!!」


担任が訳の分からない掛け声と共に退散する。帰りのホームルームが終わり自由時間へと突入した。


「居残り……だよね?」


「……あぁ、無念だぜ」


教科書やノートを鞄に仕舞って席を立つ。そのまま最後尾の机に近付くとグッタリと項垂れている友人の姿を発見。


「くそぅ、生徒の貴重な放課後を奪いやがって」


「颯太が宿題やってこないからじゃないか。自業自得だよ」


「せっかくミサキちゃんとイチャイチャ出来るかと胸ワクワクさせて喜んでいたのに…」


「え? 彼女作ったの?」


「家にいる子だけどな」


「エロゲのキャラ? もしくは悪霊の方かな」


彼はいつもこんな感じ。酷いサボり癖のせいで一緒に遊べない事が多々あった。


「ならまた明日ね」


「うおぉおぉおっ、Yeeeeeeeeeeahっ!!」


「本当にお祓いしてもらった方が良いのかもしれない…」


名残惜しいが別れる事に。奇声を発する友人を背に単独で教室を出発した。

アナタ以外への姫事

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