テラーノベル
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※ご本人様・関係者様とは一切関係のない二次創作です。
※『乙女解剖』の曲パロとなっています。
闇夜に溶ける花魁道中。
紅い提灯が揺れ、三味線が湿った空気を震わせる。
その行列の中で、ひときわ静かな光を放つ花がいた。
藤の君――それは本名ではない。
伏せられた睫毛。
微笑みは完璧で、けれどどこか、空虚だった。
その姿を、人混みの端から見つめる旅人がひとり。
名を持たぬ男。
いや、名を“隠した”男――おんりー。
彼は薄く笑った。
「……あれは、面白い」
この街では、若い女が殺されている。
夜更け、路地裏で見つかる骸。
腹をえぐられ、まるで“中身”を探されたかのように。
犯人はまだ捕まらない。
いや――捕まらないはずだった。
なぜなら。
その犯人こそが、おんりーだから。
彼は女たちの腹を裂き、確かめる。
心はどこにあるのか。
愛はどこに隠れているのか。
“乙女解剖で遊ぼうよ”
甘い囁きとともに。
嘘
花魁の店に、ただの旅人が入れるはずもない。
おんりーは柔らかな声で嘘をつく。
「某、とある武家の使いにて。藤の君に密命を」
番頭は疑いながらも、武家には逆らえない
通された。
襖の向こう、香の匂い
藤の君は、そこにいた
豪奢な食事が並ぶ。
金箔の器、艶やかな刺身、甘い菓子。
藤の君は三味線を爪弾き、歌う。
その声は、まるで溶けた蜜。
「旅のお方、近頃は物騒にございますね」
先に話題を出したのは彼女だった。
おんりーは笑う。
「ええ。若い女が腹を裂かれるとか」
盃を口に運びながら、藤の君の指先を見る。
震えていない。
「怖くは?」
「怖い、とは」
藤の君は、微笑みを崩さない。
「心を暴かれるのは、嫌でございます」
その言葉に、おんりーの目が細くなる。
解剖
「貴女は、違う」
ぽつりと、彼は言った。
「殺された女たちは、皆、嘘が下手だった。
甘い言葉を欲しがり、すぐに縋った」
藤の君の瞳がわずかに揺れる。
「だが貴女は違う。
甘い言葉を欲しがっているくせに、飲み込まない」
沈黙。
「……お見通し、でございますか」
「話がうまい相手ほど、嘘が透ける」
おんりーは立ち上がる。
彼女の背後へ。
懐から短刀。
「藤の君。それは名ではない」
静かな声。
「本当の名は?」
襟元に刃が触れる。
彼女は、ふっと笑った。
「知りとうございますか」
「ええ」
「では、教えて差し上げましょう」
その声は、どこか安堵していた。
「――わたくしの名は、藤ではない。
” 綾乃”と、申します」
本当の名。
それは、花魁にとって命より重い。
噂の終わり
その夜。
藤の君――いや、綾乃は死んだ。
だが。
翌朝、街に流れた噂は別のものだった。
「殺人鬼が捕まったらしい」
人々は安堵し、酒を酌み交わす。
その噂を流したのは、おんりー
自分自身を消すために
そして――
綾乃の亡骸だけは、他の女たちと違っていた。
腹は、裂かれていなかった。
短刀は胸に
まるで、心臓を貫くように
彼は最後に、確かめなかったのだ
彼女の“中身”を。
余白
夜の橋の上
おんりーはひとり、呟く
「乙女解剖で、遊べなかったな」
胸が、少しだけ痛む
甘い蜜を吸いきれなかった後味
彼女は最後まで、嘘を抱いたままだったのか
それとも、あの名こそが本当だったのか
わからない。わからないからこそ、忘れられない。
次の街へ向かう足取りは軽い。
けれど
紫の藤が風に揺れるたび、
彼は一瞬だけ立ち止まる。
心は、どこにあるのだろう。
解剖しても、
まだ見つからないまま。
バットエンド
こちら終わり方ハッピーエンドも用意してますので良かったら次も見てください!
解釈不一致だった方すみません、よければ貴方の解釈を聞かせてくれませんか?
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