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脱衣所に戻り、少女はスクール水着を脱ぎ捨てて、そしてバスタオルで濡れた体をしっかりと拭いた。
そして下着とブラジャーを身に着けてパジャマに袖を通したところで自分の部屋へと戻って行った。
猛ダッシュで。
バタンと乾いた音を立てて部屋のドアを閉めた。そして、床にゴロンと寝転がったところで――
「見られたーー!! 見られた見られた見られたーー!!」
両手で赤くなった顔を隠しながら部屋中をゴロゴロと転がった。あまりの恥ずかしさに悶えながら。
「だけど、なんだろう。憂くんに見られてちょっとだけ嬉しいと思っちゃってるし。でも、最近の私ってほんとおかしいよなあ。情緒が不安定すぎる。さっきも泣くつもりなんてなかったのに」
誰もいない空間の中で、少女は一人そう呟いた。「はあっ」と溜め息混じりに。その溜め息は静かな空間と同化したかのように、すぐに消えてなくなった。
「――はしたない女だ、私」
転がるのをやめ、部屋の中央で大の字になり、天井を見上げる。
「男の子って、よく分からないなあ。恋愛経験もないから分かるはずもないか……」
少女はムクリと起き上がり、ベッドに横たわった。そして体を丸め、ただでさえ華奢で小さな体をより小さくした。そして、また溜め息を付く。
「でも、片想いも立派な恋だよね? 恋愛だよね? ということは、つまり、私ってもしかして、自分で思ってる以上に恋愛経験豊富なんじゃないのかな? いや、それを超越した恋愛マスターだったりして!」
ポジティブ少女らしい捉え方であるが、すぐに肩を落として「いや、ないな。それは……」と呟いた。こんな事態でも、現状把握はしっかりとできているようだ。
「私って、いやらしい女」
『はしたない』から『いやらしい』に変えて、少女は自分をそう表現した。
が、しかし。少女は勢い良くガバッとベッドから立ち上がり、本棚にある少女漫画を一冊手に取った。そしてページを捲る。
「あった、これだ。えーっと、なになに? 素っ裸になって、それで自分の体にラッピンクタイを体中に巻いて『召し上がれ』って言うのか。これならいけそう! ううん、絶対にできる!」
興奮気味に叫び、右腕を天にかかげた。が、すぐにまた肩を落とす。
「ないな……。ない。全くない。それ、ただの痴女じゃん。憂くんに嫌われちゃうだけじゃん」
少女はよほど情緒不安定なのか、先程からテンションの上がり下がりがやたらと激しくなっていた。
「なんでこんなに焦ってるんだろ、私。憂くんも、クラスの皆んなも、口を揃えるようにして私のことをポジティブだとか言うけど、違うんだけどなあ。ただ、自分の気持ちを誤魔化すために明るく振る舞ってるだけなのに」
皆んな誤解してるんだよ――と、少女は小さく呟く。憂いを滲ませた声で。そして再び天井を見上げ、虚気味に目を細くした。
「私、今夜我慢できるのかな……」
『第30話 とある少女のひとりごと』
終わり