この作品はいかがでしたか?
100
この作品はいかがでしたか?
100
黄side
ピーンポーン。
軽快な音と共に扉の向こうからパタパタと小走りに近づいてくる足音が聞こえる。
ガチャリ。と扉を開き、ひょこっと顔を覗かせたのは青い髪の青年。
『こんにちは』僕はにこりと微笑んで挨拶をする。
「こんにちは~」青い髪の青年──青ちゃんもニコッと可愛らしい笑顔で返してくる。
『隣に越してきた黄です、これ粗品ですが…』そう言って、引っ越しの手土産としては珍しいであろう小さめの熊のぬいぐるみの入った紙袋を手渡す。
「わざわざありがとうございます!あっ、僕は青っていいます!引っ越しの手伝いとか何かあったら頼ってください!」
『ふふ、ありがとうございます。心強いです』まぁ、僕の部屋にはまだ上げられないかなぁ…。もう少し仲良くなってから…。なんて考えていると、部屋の奥から青ちゃんの携帯が鳴った。
「あっ、すいません…!今日はこの辺で…!」
『…はい、また!』
『もうちょっと話したかったなぁ…。急いでたけど誰からの電話だろう?…まぁ、青ちゃんの隣の部屋になれたしいっか』独り言を呟きつつ、自室の扉を開けた。
よし、早めに片付け終わらせないとなぁ。段ボールの1つを手に取り、開く。大量の写真と4冊にわたる分厚いアルバム。パラパラとページを捲る。中身は全て青ちゃんの写真。笑顔、泣き顔、真剣な顔、寝顔。全部可愛い。
流石に青ちゃんにこのアルバムを見られるのはマズいかなぁ…。
『あ、そうだ』先程の手土産に仕込んでいたカメラと盗聴機の事を思い出し、パソコンを立ち上げた。
パッ、と映し出されたのはリビングだろう。白と青を基調とした家具がお洒落に配置されている。
そして、ソファで電話をしている青ちゃんの姿が見えた。凄く楽しそうに話している。電話相手は「桃くん」というらしい。
「桃くん」かぁ…。僕と青ちゃんの話す時間を邪魔した挙句、青ちゃんと2人で遊ぶ約束までして。……邪魔だなぁ。それに青ちゃんも青ちゃんでなんであんなに嬉しそうにしてるのかなぁ。僕が一番青ちゃんの事を考えて、理解してあげれるのに…。
…青ちゃんを誑かす「桃くん」も、僕以外の人と喋って楽しそうな青ちゃんも許せない。青ちゃんに僕が一番だって分からせなきゃ…。それと「桃くん」にはもう僕達に近付かないようにさせなきゃ。
来週の土曜、「桃くん」が遊びに来るらしいし、その日までに色々準備とか計画とかしなきゃなぁ。
大変だけど、これで青ちゃんが僕のものになるんだから安いもんだよね。
『ふふっ♪』自然と口角が上がり、笑いが溢れる。あぁ、楽しみだなぁ。
────
────
────
桃side
久し振りに青の家に来た。最近忙しくて遊べていなかったから楽しみにしていた。
ピーンポーン。チャイムを鳴らすと、待ってましたと言わんばかりの笑顔で青が出てきた。
その嬉しそうな笑顔に胸がうるさいくらい鼓動する。
青とは幼馴染みで、好きだと自覚したのは中学生の頃だった。卒業式で告白して、OKをもらった。それから今まで関係は続いている。
「─もくん、桃く~ん?」青の呼び掛けにハッとする。
『あ、ご、ごめん』
「も~、大丈夫?笑」
『大丈夫!久し振りに会ったから見惚れてただけw』
「 ~~ッ!?…急にそういうこと言わないでよ!」
『耳まで真っ赤ですけど?w』
「うっさい!もう!ゲームするよ!」
『はいはいw』
───
───
楽しい時間はあっという間に過ぎるものでいつの間にか20時を回っていた。
『ごめん、俺明日仕事だし帰るわ』
「え、マジ?…ってもう、20時か~」残念そうに肩を落としている青の頭をぽんぽんと軽く叩くと青は照れくさそうに笑った。
『まぁ、また来るわ』
「約束だからね!」なんて言って小さい頃みたいに小指を差し出してくる。
『いくつだよw』そう言いつつ自身の小指を絡め、指きりをする。
「やってくれんじゃんw」そうからかいつつも嬉しそうに笑う青が可愛くて。
いつまでもこんな時が続けばいいなと本気で思った。
帰りは青がエントランスまで見送ってくれた。
───
青side
桃くんをエントランスまで見送り、部屋に戻った。
リビングでゲーム機やお菓子の袋を片付けようとした時だった。
バチバチッと身体に電流が走った。
『ぁ”ッ…!?』
床にうつ伏せに倒れこんでしまった。
意識はあるものの身体が痺れて動かない。声も上手く出せない。
何が起こったの?誰かいるの?理解しようにも出来なくて必死に身体を動かそうともがいていると、頭上に影が射した。
視線だけでそちらを見ると、見覚えのある顔が見えた。──黄さん。
なんで黄さんが?僕に何かしたのは黄さん?なんで部屋の中にいるの?
疑問符で頭がいっぱいになる。
黄さんと目が合った。
「こんばんは」出会ったときと同じ柔らかい笑顔だったが目は笑っていない。怖い。目を逸らすと黄さんの手にスタンガンが見えた。
『ヒッ…』
「…あぁ、これ?」僕の視線に気付いたのか、黄さんは笑顔でスタンガンを掲げる。
「このスタンガンの電流を青ちゃんに流しました…ふふ、「なんで?」って顔してますね」
「…まぁ、詳しい理由は後で説明しますね…まずはお仕置きです♡」
『…!?』うつ伏せのまま、服の中に冷たい手が入ってきて、背中、お腹、脇腹、胸…。色々な所を撫でられる。
『ふ…ぅ…』触られた箇所がゾワゾワして気持ち悪い。
『っ、んぐ!?……ん、んん!』身体を触る手を止めないまま強引にキスされる。抵抗できずされるがままになってしまう。
『ん、ぷ、は…っ』やっと唇が離れた。
恐怖と気持ち悪さに涙が溢れてきて、嗚咽が漏れる。
狂ってる。怖い。助けて。助けて、桃くん…。
ピーンポーン。「お~い、青いる?忘れ物したみたいなんだけど…」
桃くんの声が玄関から聞こえてくる。今しかない。今を逃したら駄目だ。スタンガンの効果が切れかかってきたようで掠れるが声が出るようになっていた。意を決して声を出す。
『たす、むぐっ…!?』後ろから手で口を塞がれてしまった。必死にその手を退けようともがいていると、首筋にカチャリとスタンガンをあてがわれる。
「大人しくしないと今度は直に流しますよ?」そう耳元で低い声で脅され、恐怖で身体が硬直した。
「あれ、いねぇのかな…」足音が遠ざかっていく。嫌だ。行かないで。そう願っても届くはずはなくて。
『ふ、ぅ…ぐすっ、うぅ”~~…』涙で視界が歪む。みっともなく子供のように泣いて涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになる。
「泣かないで下さい、もう大丈夫ですよ…僕が一生守ってあげますから」黄さんはぎゅう、と優しく抱き締めてくる。先程の低く冷たい声とは違う優しい声だったが、怖くて怖くて仕方なかった。
「さっきは邪魔されちゃいましたから、改めてお仕置きしましょうね♡」
『っ、や、やだッ…!』
「…悪い事したらお仕置きしなきゃダメなんですよ?」
『僕、何もしてな…「さっき来てたの桃さんですよね」…なんで?なんで、黄さんが桃くんの名前知ってるの?
「僕がいるのに桃さんと浮気してたんですよ?そんなの許せるわけないでしょう?ずっと見てましたよ、2人が楽しそうにしてるのもキスしてるのも」
「ねぇ、青ちゃん?今、桃さんに電話して別れるよう言って下さい」
『な、なんで、やだっ…』
「良いんですか?桃さんに危害が及ぶかもしれませんけど」
「青ちゃんが別れないって言うんだったら、桃さんの事消すしかないですもんね?」
『っ、…わ、分かった、から!桃くんには、何もしないで…』
「じゃあ、僕の言うこと聞けますよね?」
『……は、い…』震える手でスマホを取り、桃くんに電話を掛ける。
〈もしもし、青?〉
『……』桃くんの声に少し安心する。
〈…おーい、聞こえてる?〉
『…桃くん、話、があって』
〈…うん、どした?〉
『っ、…ひぐ、僕、と別れて、ください…』まだ桃くんの事愛しているのに。もっと一緒にいたいのに。また涙が溢れてくる。
〈……は、青?どうしたんだよ、急に…別れたいとか、それになんで、泣いて…〉
『ぐっ…ぅ、ごめん、ごめん…桃くん…もう、僕、に関わらないで…お願い…』今までの桃くんとの思い出が脳裏に浮かぶ。桃くんと笑い合った日も、喧嘩した日も、全部全部大好きだった。幸せだった。
〈っ、青…!ちゃんと説明しろよ…俺、別れたくないよ…!〉電話越しでも桃くんの声が震えているのが分かった。
『ぅ、…桃くん…ごめんなさい、自分勝手で、ごめんなさい……じゃあね…』
〈おい、青…〉ブツッ。
桃くんがまだ何か言おうとしていたけど無視して切った。これ以上桃くんの声を聞いているのは辛かった。
「よく出来ました、良い子ですね」黄さんは微笑んで頭を優しく撫でてくる。本当に嬉しそうに微笑んでいた。
この人は異常だ。そう思ってももう遅い。
コメント
1件
好きです(´。✪ω✪。 ` )