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二日後、爆薬など装備を充実させたシャーリィ達『暁』幹部衆は夜に紛れて密かに農園を出撃。『エルダス・ファミリー』の根拠地であるシェルドハーフェン十六番街へと移動、潜入に成功する。
「俺は顔が割れてる。単独で動くぜ」
ベルモンドが先に別れる。
「では、各自怪我などしないようにお願いします。シャーリィを泣かせたら私がもう一度殺すのでお忘れ無く」
「お嬢様、どうかご無事で。爺めも務めを果たさせていただきます」
カテリナ、セレスティンも分離した。
「目印は、赤い鉢巻きです。それを腕に巻いているのが『エルダス・ファミリー』の証です」
「分かりやすいな、カタギを巻き込まなくて良さそうだ」
「アスカは私達の支援をお願いします。頼りにしていますよ?」
「……任せる。ちゃんと見ておくから安心する」
シャーリィ、ルイス、アスカは三人で行動する。
「けどよ、変装くらいはしといた方が良いぞ。シャーリィは面が割れてるかも知れねぇからな」
「変装ですか、スパイ小説みたいで、年甲斐もなく心が踊りますね」
「……楽しみ」
尚、二人共無表情である。
「で、一番怪しまれないのは商人じゃないか?少しでも大きな組織と繋がりを持とうとしてる奴は多いからな」
「それはダメです、ルイ。今の『エルダス・ファミリー』は落ち目です。そんな連中にわざわざ接近する商人なんて相手を警戒させるだけですよ」
「ならどうするんだ?俺頭良くねぇから他には浮かばねぇぞ?」
「……新聞記者なんてどうですか?」
「は?新聞記者ぁ?」
シャーリィの提案を聞いて怪訝な顔をするルイス。
「そうです。むしろ今の『エルダス・ファミリー』はある意味ネタの宝庫なんです。それを追いかける命知らずの新聞記者なんて珍しくもないのでは?」
シェルドハーフェンの新聞社、正確には帝国日報シェルドハーフェン支社の記者たちは文字通り命懸けでネタを追い求めている。死人が絶えない職場ではあるが、ネタを掴めば一攫千金も夢ではない。
「俺達で新聞記者やるのかよ!?」
「ルイが記者、私が助手。アスカは見習いと言うことで」
「マジかよ」
「マジです。アスカ、これを被りなさい」
「……ん」
帽子を被せて犬耳を隠せば人と変わらないアスカ。頭の犬耳以外は獣人らしい特徴が一切無いアスカならば変装も容易い。
「それらしい服を手に入れますよ、ルイ」
「どうやって手に入れるんだよ?」
「それはもちろん」
シャーリィの視線の先には、『帝国日報』の記者クラブがあった。
「マジかよ、カタギに手を出すのか?」
「シェルドハーフェンに住んでいる以上、真っ当なカタギなんて居ないでしょう」
「まあ、連中のしつこさは良く知ってるけどよ。ネタを作るために抗争まで起こしたって話もある」
「なら問題ありませんね」
「あんまり気が進まねぇが、やるしかないかぁ」
「……頑張る」
端から見れば緑髪の青年と金髪の小柄な少女、黒髪の幼女にしか見えない三人組が行動を開始する。
皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。一ヶ月の休暇で私は帝国を、異世界を思う存分堪能してきました。また戦果を挙げて長期休暇をいただきたいものです。
さて、休暇から戻ってみれば我が『オータムリゾート』は臨戦態勢に移行していました。協力関係にある『暁』と『エルダス・ファミリー』の抗争を利用して勢力拡大を目指すのだとか。
これまでお金稼ぎにしか興味がなかったリースさんが、新しい野心を持つとはお世話になっている身として嬉しい限り。
彼女を軽視する連中の度肝を抜いてやるまたとない好機です。当然のことながら私にも召集が掛かりました。
「良いか?『エルダス・ファミリー』の全部を根刮ぎ奪ってやるんだ。『暁』は十六番街の利権には興味がないみたいだからな」
リースさんの執務室で話を伺います。
「それはまた無欲なものですね」
「自分達で町を作ろうとするような連中だからな、常識は通用しねぇよ。もちろんレイミにもしっかり活躍して貰うからな?」
「リースさんに勝利を捧げるだけですよ」
恩返しはまだまだ終わっていませんからね。
「おう、楽しみにしとく。それで、先ずは手紙を『暁』に届けてくれねぇか?具体的な連携の話が書いてあるから、その辺の奴に任せたくはない」
「分かりました、お安いご用です。郊外にある教会でしたね」
「おう、よろしく頼むよ」
私は手紙を受け取るとそのまま『暁』の本拠地がある郊外へ向かいました。もちろん愛馬であるダッシュに股がって、です。
今日も絶好調ですね、ダッシュ。車にも負けていませんよ。
愛馬を走らせること一時間、郊外にある教会へと辿り着きましたが、これは驚きました。教会周辺の広大な土地を複雑な塹壕と鉄条網、更にあれはトーチカですか。それらが縦横に張り巡らされているのですから。
なにこの近代的な陣地。ここは西部戦線ですか?戦車が必要になりそう……あっ、野砲があった。これ突破するの無理だ。少なくとも帝国の技術じゃ無理ですね。なにこれ?
私が帝国ではあり得ない近代的な陣地群に戦慄していると、これまた近代的な装備を有した兵士が近づいてきました。
えっ?三八式歩兵小銃?間違いなく制作者の趣味ですね。『ライデン社』の会長は転生者だとは思うのですが、それを軍隊ではなくて裏社会の一組織が装備していることに驚きましたよ。本当になにここ?
「止まれ!ここは『暁』の私有地である!何者か!」
「私はレイミ、『オータムリゾート』より書状を届けに参りました」
『オータムリゾート』所属の証である金の和紙を象った襟章を見せて名乗ります。
「しばらく待て!」
待たされていると、隊長らしき人物が現れました。まるで軍隊ですね。
「『暁』戦闘部隊を任されているマクベスだ。『オータムリゾート』からの使者殿とお見受けする。なにやら書状を携えておられるとか?」
現れたのは如何にも軍人な身形をした男性でした。
「はい、我が『オータムリゾート』支配人リースリット=カイゼル直筆のものです。お取り次ぎをお願いします」
「残念ながら、現在作戦中のため幹部の大半が留守なのだ。詳細は語れないが、留守を任されている方と面会していただきたい」
「分かりました」
作戦中、また何かするのでしょうか。こんな組織を作り上げた方に興味はありますが、不在ならば仕方ないですね。
私は広大な農園と巨大な『大樹』を見ながら敷地内を案内されて、教会にある応接室へ通されました。
「ロウ殿、『オータムリゾート』からのお客人です」
「これはこれは、はるばる良くお越しくださいました」
えっ……この如何にも好好爺と言わんばかりのおじいさんは……。
「ロウ……?」
「ーっ!まさか……レイミ……お嬢様……!?」
目を見開いて驚くロウを見ながら、レイミもまた硬直する。
シャーリィ十七歳レイミ十五歳。惨劇から八年、姉妹を引き裂いた運命は、再び二人をつなぎ合わせようとしていた。