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皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。リースさんの使者として『暁』本拠地を訪ねた私は、お屋敷で庭師をしていたロウと再会することになりました。
「レイミお嬢様っ!よくぞご無事で!ロウめは、うれしゅうございます!」
大粒の涙を流しながら再会を喜んでくれるロウを見ていると、此方も涙を流しそうになりました。私も嬉しいけれど、今は我慢します。先ずは役目を果たさないと。
「ロウ、あなたこそ無事で良かった。またこうしてお会いできて、とても嬉しいです」
「お嬢様っ!」
「後でゆっくりと話しましょう、ロウ。その為には、先にお仕事を片付けないと」
私は微笑みながらロウに声をかけます。いや、あんまり泣かれると私も危ないので。
「ーっ!そっ、そうでしたな。いやはや、歳を取ると涙脆くていけません。お伺いしましょう」
気を取り直したロウは、姿勢を正します。涙目ですが、それはご愛敬。ゆっくりとお話をしたいので、先に用件を済ませてしまいましょう。
「こちらに『オータムリゾート』総支配人リースリット=カイゼルから『暁』への協力体制の詳細が書かれています。今回の抗争に参戦しますので、良しなにお取り次ぎを」
私は書状を手渡します。もちろん羊皮紙ではなく最近『暁』から購入している、私としては慣れ親しんだ植物紙です。
「これはご丁重に。しかしながら、現在作戦中のためこの書状をお届けするのに少しばかりお時間を……ああっ!!」
ビックリした!ロウがいきなり大声を出しました。何かあったのかしら?
「ロウ?」
「なんと運命とは残酷なことか!女神様も、酷な試練をお与えになる!」
「待ってください、ロウ。落ち着いて。話が見えないわ」
何だか女神様に対してまで嘆いていますね。何かしら?
「レイミお嬢様!あなた様が一刻も早くお会いしたいであろう我らが主も作戦に参加されていて、不在なのです!」
「『暁』の代表ですか?確かに興味がある方ですが、今は仕方ないですよ。次の機会を楽しみにします」
興味深い方ではありますが、無理に会うほどでもありませんからね。
「そうではないのです!我らが主は、『暁』の代表はシャーリィお嬢様なのです!!」
…………は?
「ロウ……?今なんと……?」
思考が停止してしまった。まさか、そんな、本当に?
「シャーリィ=アーキハクトお嬢様!旦那様と奥様のご息女で、あなた様の姉君なのです!」
その言葉を聞いて、私は胸の内から溢れる感情を抑えることが出来ませんでした。前世から合わせればもう五十歳が近いのに……ああ、駄目だ。抑えられないっ!
「ほっ……本当に……?おねえさまが……いきてる……っ?」
視界が涙で歪み、言葉も辿々しくなるのを自覚しながら、それでも止まりませんでした。本当にお姉さまが……?
「はい、レイミお嬢様。シャーリィお嬢様は御健在、お元気でございます。いつもレイミお嬢様の事を気になさり、決して少なくない額を用いて捜索を行っております。レイミお嬢様の事をお知りになれば、どれほど喜ばれるか」
「ーっっ!」
私はその場に座り込み、ただ涙を流すしかありませんでした。
前世では愛を知らず、誰にも看取られず寂しい最後を迎えた私。今世で下手をすれば両親以上に愛してくれた、私の大切な人。あの日だって自分も危ないのに、私を守ろうと必死になってくれた。
そのお姉さまが生きているっ!こんなに嬉しいことはない!
「ですが、先ほども申し上げた通りシャーリィお嬢様は作戦のため敵地へ赴いてございます。いつ帰還為されるか……」
その言葉を聞いて、私は涙が止まり代わりに血の気が引くのを感じました。お姉さまが、十六番街に居る!?
「それは本当ですか!?お姉さまは十六番街へ!?」
「そうです、レイミお嬢様」
「それは罠です!確かに『エルダス・ファミリー』は幹部のバンダレスに兵隊を預けましたが、もう一人の幹部マクガラスは『暁』の攻勢を待ち構えています!」
「なんですと!?」
私もそれを知ったのは偶然でした。こちらへ向かう前に幹部マクガラスに怪しい動きがあるとの情報が『オータムリゾート』の情報網から知らされたのです。
「バンダレスの暴発を誘うために『暁』が陽動を行うことは見抜かれています!」
「バカな!」
『エルダス・ファミリー』だってバカでない。幹部のバンダレスは直情型ではありますが、マクガラスの方は残忍で狡猾な男。
むしろバンダレスを囮にして本命を狙いに来た。このタイミングで攻勢を仕掛けるのは自殺行為です!
「直ぐに知らせてください!自分達から罠に飛び込む必要はありません!『エルダス・ファミリー』は備えていますから!」
「しかし、彼等に連絡する手段がございません!お嬢様は隠密性を優先され、察知される危険を減らそうと具体的な作戦内容までは我々も把握していないのです!」
確かに奇襲を仕掛けるなら隠密性を重視するのは分かりますが、今回は相手が備えているっ!お姉さまらしくない下策!
「ならば私が行きます!」
「お待ちを、レイミお嬢様。あなたは今『オータムリゾート』の人間。『エルダス・ファミリー』の本拠地へと乗り込むのは些か面倒なことになりますぞ」
これまで成り行きを見守ってくれていたマクベスさんが意見してくれました。
「既に『オータムリゾート』は『エルダス・ファミリー』との戦いを決断していますから、そこはご心配無く。私はこれからお姉さまを迎えに行きます。ロウ、備えてください。『暁』の攻勢に呼応して『エルダス・ファミリー』が、バンダレスが動いて攻勢を仕掛けてくるかもしれません!」
少なくとも二百人以上の兵隊を任されているのは間違いありません。
幹部連が不在の中攻撃されては『暁』と言えどただでは済まない筈。
「わっ、分かりました!マクベス殿!」
「既に臨戦態勢は整えております。仮に攻勢を仕掛けられようと無惨にやられるつもりはありません。それよりも、潜入している皆様が心配ですな」
「そちらはお任せを、直ぐに発ちますので」
「レイミお嬢様、どうかよろしくお願いします。非力でお役に立てぬこの身をお許しください」
「怒ってなどいませんよ、ロウ。お姉さまを連れ戻したら昔のお話をしましょう」
私はそれを言い残して踵を返して農園を後にします。向かうは十六番街。
折角再会できるんです。お互い五体満足が良いのは当たり前。お姉さま、今参ります!