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「……さっくん」
「ん?」
「あの、ごめんね」
「何だよ急に?」
「だって、我侭言っちゃったから……」
「我侭?」
「その、部屋で一人は嫌だって……」
「ああ、その事か。別に怒ってねぇよ。寧ろ、俺の方こそごめんな。お前の気持ち考えたら一緒の部屋にした方が良かったよな」
「さっくん……」
朔太郎は同じ部屋で過ごすのが嫌だったから別の部屋に咲結を泊めようとした訳では無い。
本音を言えば、初めから同じ部屋で過ごしたいと思っていた。
ただ――
「……別々の部屋にしたのはさ……好きな奴と一晩同じ部屋で過ごすってシチュエーションは、俺的に緊張っつーか……何も出来ねぇ事がもどかしいっつーか……色んな感情があって、身が持たねぇなって思ったから……なんだよ。だからさ、本音を言えば、俺だって初めから咲結と同じ部屋が良かったよ」
入院は免れたと言えど、怪我を負っている朔太郎は安静を強いられている状況。
そんな中、大好きな咲結と一晩同じ部屋で過ごすのに何も出来ない事がもどかしく、男としてどうなのかと思っていただけなのだ。
「さっくん……」
「けどまぁ、かえって良かったのかもしれねぇな。怪我してなかったから俺、何もしねぇ自信……無かったかも」
「え……?」
「だってそうだろ? 大好きな奴がすぐ傍で眠るんだぜ? 我慢なんて……出来ねぇよ」
「!」
朔太郎の言葉の意味を理解した咲結の頬は熱を帯び、一気に紅く染まっていく。
「……悪い、こんな事口にするのってダセェよな。けどさ、俺……それくらいお前の事が好きだよ。本当に大切なんだ。今までもそう思ってたけど、今日でその気持ちがもっと強くなった。馬宮に攫われたって分かった瞬間、気が狂いそうになった。本当、無事で良かった――」
「……さっくん……っ」
麻酔が切れ、痛み止めは飲んでいるものの少し痛む身体で朔太郎は咲結に近付くと、優しく包み込むように彼女を抱き締めた。
「……っ、ひっく……っうう」
「咲結、どうした?」
「……っご、ごめ、……さっくんに、ぎゅってされたら、あんしん、して……っ、なみだが……っ」
朔太郎に抱き締められた事で再び安堵した咲結の瞳から大粒の涙がポロポロと溢れ落ちていく。
病室では、自身の体験した数々よりも朔太郎の容態ばかりが気掛かりだった咲結。
お風呂に入り、ほっと一息吐いた時も涙が溢れそうになっていたもののそこでは泣かなかった。
けれど、大好きな朔太郎の温もりを肌で感じられた事で我慢していた数々の感情が一気に溢れ出てしまったのだ。
「咲結、大丈夫だよ。もう怖い事は無いから。今日はずっと一緒に居る。だから、安心していい」
「……っ、さっくん……ッ」
泣きじゃくる咲結の頭や背を優しく撫でながら、朔太郎はこれから先、もう二度と咲結を危険な目に遭わせない事を改めて誓う。
それから暫くして、ようやく落ち着きを取り戻した咲結は「さっくん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」と言って一旦朔太郎から身体を離した。
「そっか。なら良かった」
「ごめんね、身体、痛くない?」
「平気だよ。それじゃあ、そろそろ寝るか」
「うん」
そして、気付けば時刻は午前三時近くになっていた事もあったのでひとまず布団に入る事にした。
リモコンで明かり消した朔太郎は隣の布団に入ろうとする咲結に「こっちに来いよ」と手招きをしながら呼び寄せる。
「え? で、でも……さっくん怪我してるし……」
手招きされた咲結は、朔太郎に寄り添いたいものの怪我の事を考えると躊躇ってしまうけれど、
「怪我はどっちも右側だから、左なら平気。ほら、来いって」
銃弾を受けたのは右肩と右脇腹辺りなので左側なら平気だと言って再度咲結を呼び寄せる朔太郎。
そんな彼に咲結は、
「それじゃあ……失礼します……」
恥ずかしそうに頬を紅く染めながら朔太郎の布団に入っていった。