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サイコーです
「せんせー、おそいですよ!!」
「もう始めてますよ!!」
彼女の最後の授業の日の放課後、生徒達が送別会を開いてくれていた。
「相澤先生、お疲れさまです。」
“本日の主役”と書かれたたすきをかけた彼女がそこにいた。
「相澤先生、隣にどうぞー。」
芦戸に背中を押され、隣に座る。
「先生達は、お互いのこと何て呼んでるんですか??」
上鳴が質問する。ひと息つこうと飲んだジュースを吹きそうになった。
「年上なので、消太さんって呼んでます。」
「…。美樹だ。」
これを皮切りに始まる質問大会。
「あの覆面アーティスト集団に入るんですか??」
緑谷の質問に、彼女はこちらを見る。
「入らないそうだ。」
驚いて、残念がる生徒達。
「私にあんな華やかな場所は、贅沢すぎるの。身近に私の絵を好きでいてくれる、そんな人が1人でもいれば、私はそれで充分よ。」
照れながら答えた彼女に、生徒達も思わずうっとりとしたため息をつく。
「素敵ですわ。」
「オイラもそんな恋愛してー!!」
「そんな先生達に、サプライズ!!」
芦戸を筆頭に、全員が布をかけてある何かのところに集まった。
「じゃーん!!」
とめくられた布から出てきたものに、彼女は息を飲むほど驚いている。
「すごい…!!」
自分も思わず唸る。そこにあったのは、2人向かい合って笑っている絵だ。
「凄いでしょ!!下絵は爆豪、色は上鳴が!!」「お二人が楽しそうに会話しているのをイメージしたんです。」
「爆豪お前、こんな表情豊かな絵描けるんだな…。」
「俺のこと何だと思ってやがる!!」
「私たち、こんな顔して話してた??」
「はい!!絵のまんまです。見てるこっちも幸せな気分になりましたよ。」
「いやはや、照れますね。消太さん。」
「ほんとに。油断も隙もない。」
楽しい時間はすぐに過ぎていく。
「心絵先生、元気でね!!」
「結婚式呼んでくださいね!!」
「絶対行きますから!!」
「お前らその辺にしとけ。」
「誰にスピーチしてもらおうかな??」
まんざらでもなさそうに彼女は言って、笑顔で手をふった。
生徒達に見送られ、彼女を引っ越しした新居まで送る。
「じゃあ今日はこれで。」
「はい、ありがとうございます。」
「美樹。」
「はい。…何で照れてるんですか??」
「今日までほとんど“心絵先生”としかよんでなかったから、改めて名前を呼ぶと、ちょっとな。」
「ほんとですね。これからもう教師同士の関係じゃなくなるんですね。」
彼女は背伸びして、彼の顔を見つめる。
「消太さん。」
「なんだ。」
キスをしようとすると、スマホが鳴った。渋々それを取って、会話しながらそっと彼女の唇にキスを落とした。
「行ってらっしゃい。」
一瞬驚くが、小声でそういって笑顔をみせた。それに頷いて手を振って部屋をでる。
「(結婚式か…。)」
学校に戻りながら、生徒達の言葉を思いだすと口元が緩む。2人の未来は誰にも塗りつぶさせはしない。
「(これからも美樹の隣で。)」
永遠に、永遠に…。
彼女の個性発動のトリガーの言葉を胸に夜の街を駆ける。