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「ふむふむ、なるほど」
真帆さんは――茜に連れていかれた『魔法百貨堂』という如何にも怪しげなお店の店主さんである美人の女性は――顎に指をあててわざとらしく考え込むような仕草を見せてから、
「なかなか贅沢な悩みですね!」
あっけらかんとそう口にした。
「……贅沢」
私にそんなつもりは微塵もないし、そんなふうに思ったことは全くない。
なんだかムッとした思いで真帆さんを見つめていると、
「真帆さん! 真面目にしてよ!」
茜が珍しくぷんすか(いや、そんなに珍しくもないか)腰に手をあて唇を尖らせた。
すると真帆さんは「あはは、ごめんなさい!」と柔らかい笑みを浮かべてから、
「そうですね、悩みますよね。その気持ち、私にも経験ありますから」
そんな真帆さんに、「えぇっ!?」と茜は目を丸くした。
「真帆さんにそんな悩みがあったの?」
「あるに決まってるじゃないですか。私を何だと思っているんですか?」
「イジワル小悪魔年齢不詳女」
「……茜ちゃん、意外に口が悪いですね」
「いや、今のはもちろん冗談だけどさ」
と茜は居住まいを正すようにしてカウンターの向こう側に身を乗り出しながら、
「もしかして、相手はシモフツさん?」
「いいえ? 違いますけど」
「ほんとに~? 結局シモフツさんとはどういう関係なわけさ」
「どうもこうも、シモフツくんが私のことを愛してやまない、ただそれだけのことですよ」
「付き合ってあげたりは?」
「今のところ考えていませんね」
小首を傾げるような仕草で口元に笑みを浮かべる真帆さん。
シモフツさん、という人がどんな男性で真帆さんとどういう関係なのか私にはよくわからないので、正直どう反応していいかわからない。
そんな戸惑いう私を見て、真帆さんは「えへん」とひとつ咳払い。
「とにかく、ヒトミさんはそのヒロムくんの気持ちを知りたいわけですよね?」
「え? あ、はい、そういうこと……になるのかな?」
自分で相談しておきながら、実際のところどうなのかよくわからなかった。
いや、よくわからなかったというよりも、ヒロムくんの本当の気持ちを知るのが怖いという気持ちも確かにあった。
もしかしたら、彼は私のことを愛してなんてくれていないのかも知れない。
だとしたら、私は――
「それじゃぁ、こんな魔法のお薬はどうですか?」
そう言って真帆さんがカウンターの向こう側から取り出したのは、小さなスプレー式の小瓶だった。
キラキラと煌めくピンク色のクリスタルカットがまるで香水か何かのようだ。
「……これは?」
「相手の気持ちが素直になる香水です。デートの前にでも使ってみてください」
はいどうぞ、と手渡されたそれを、私は恐る恐る受け取ってから、
「……魔法の香水、なんですよね?」
「はい、といっても、かなり薄めてありますからご安心を。自分の気持ちに素直になり過ぎて、野獣さんになったりすることはありませんから」
「はぁ、野獣……?」
真帆さんの言っている意味はよく解らないけれど、一応試してみようと私は思った。
なにより親友である茜の紹介で来たお店だ。
本当に魔法なんてものがこの世にあるのかいまだに信じ切れないのだけれど、藁をもすがるような思いであることにかわりはない。
ヒロムくんの気持ちが知りたい。
そして、彼の気持ち次第では、私はもしかしたら……
「ありがとうございます」
私は軽く頭を下げる。
「あの、お代のほうは……」
すると真帆さんは、軽く首を横に振って、
「茜ちゃんのお友達からのご依頼ですから、お代はいただけません。その代わり、ヒロムくんの気持ちがわかったら、是非私に教えてくださいね! 私、人のコイバナって大好きなんですよ!」
そう口にして、ぷぷっと噴き出すように笑ったのだった。
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コメント
1件
うわぁ、今回もすごく好きな空気感でした……! 真帆さんの「贅沢な悩みですね」って言葉にちょっとムッとするヒトミさんの気持ち、めっちゃわかる。でも真帆さん自身にも同じような経験があるってわかって、ちょっとホッとしたよ😌 それにしても、魔法の香水って……💄 使うのかな、ヒトミさん。ヒロムくんの本当の気持ちを知るのが怖いって気持ちもすごく響いた。私も知りたいけど知りたくない、その揺れ、すっごく共感するよ……。 続き、気になる〜!