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「ふたりっきりのときに、しゅっと一噴き、ご自身の首元に付けてみてください」
真帆さんから貰った香水を眺めながら、私は頭の中で真帆さんの言葉を反芻した。
本当にこんなものにそんな効果があるんだろうか、と疑いながら、下駄箱の前で大夢くんが来るのを待つ。
次々に帰宅していく他のクラスメイトや学生を横目に見ながら、手の中でキラキラ光る小瓶を軽くもてあそんだ。
魔法なんて――
そんな思いも、もちろんあった。
なにしろ、あの茜が今は魔女の修行中だという。
そんなこと言われたって、普通に考えて信じられるはずもなかった。
魔法なんて童話やファンタジー、ゲームの世界だけのもののはずだ。
それが現実に存在するだなんて、そんなことって……
「――ヒトミ」
声がして振り向けば、そこに立っていたのは、
「……あ、上柳くん」
てっきり大夢だと思ったのに、上柳が複雑そうな表情でそこにいた。
「いま、帰り?」
「……うん」
「大夢を待ってるのか」
「そう、だね」
「じゃぁ、大夢が来るまで、一緒に待ってていい?」
「えっ」
「迷惑だったら、このまま一人で帰るよ。けど、できることなら、オレは少しの間だけでもヒトミと一緒に居たいんだ」
そんなふうにはっきりといわれてしまっては、ヒトミも断ることができなかった。
どことなく大夢に対する罪悪感を覚えつつ、
「……うん、いいよ」
「……ありがと」
寂しそうな微笑みを浮かべる上柳くんの、けれど嬉しそうな声が心に刺さる。
少しでも私と一緒に居たいと思ってくれる彼の気持ちと、付き合っている彼氏のいる私。
なんともいえない空気が私たちふたりの間を流れる。
「大夢とはどう? うまくいってる?」
「え?」
いきなりの言葉に、私は驚く。
なんだか本音を覗かれているような気がして、一瞬身構えてしまった。
それが彼にも伝わったのだろう。
上柳くんは慌てたように両手を振って、
「あ、ごめん! ぶしつけすぎたね!」
「う、ううん、そんなことは、ない……」
「やっぱり、そういうの、気になるから、つい……」
私は「あはは、そうだよね」と軽く笑って見せてから、
「たぶん、うまくいってるよ」
「……たぶん?」
しまった、と私ははっと我に返るように、
「ううん、大丈夫。うまくいってるから」
「あ。あぁ、そっか。それは――複雑な気分」
それをいわれると、私だって……
大夢くんとの関係をうまくいっているかと聞かれたなら、正直なところ自信はない。
あのそっけない態度を思い返すと、やはり本当に私のことを愛してくれているのか、好きでいてくれているのか、全然わからない。
それを見透かされているような気がして、私は気が気じゃなかった。
――気が気じゃない?
それって……
「ヒトミ」
すぐそばの階段の上から声がして顔を向ければ、そこには大夢くんがいつものあまり表情のない顔で立っていて。
そんな大夢くんの姿を目にした上柳くんは、「あっ」と小さく声をあげると、
「じゃぁな、ヒトミ。また明日」
「え? あ、うん」
そそくさと逃げるようにして、下駄箱で靴を履き替えて出ていってしまうのだった。
それを見送るようにしてから、大夢くんが私のところまでやってくる。
「……? なにかあったの?」
え、と私はどう答えたものか一瞬悩んで、
「う、ううん。なんでもないよ、ちょっとだけ、話をしてただけ」
「……ふうん?」
大夢くんは首を傾げて、それからすぐに、
「じゃぁ、帰ろうか」
私よりも先に、下駄箱に向かう。
「あ。うん」
私も、そんな大夢くんのあとを追うのだった。
やっぱり、大夢くんの気持ちがよくわからない。
そう思いながら。
コメント
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読み終えました。第3回、すごく好きな回でした。上柳くんの「少しでも一緒に居たい」という言葉の重さと、それに対してヒトミが抱く罪悪感や迷いが、とても丁寧に描かれていて。大夢くんが現れたときの「察しの良さそうな反応」も気になります。最後の「やっぱり大夢くんの気持ちがよくわからない」という一文が、タイトル「ふたりめ」の意味を改めて考えさせてくれました。次が待ち遠しいです。