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#探偵
橘靖竜
4,950
紗良にゃん
47
38
如月 未澄斗
216
会社を追放された。
堀口は、一夜にして犯罪者になったような気分だった。
東京の中心を走る大通り。
何度も見たことのある道のはずなのに、そこを歩く全員が冷たい視線を向けているように思えてならなかった。
——この犯罪者め。
誰かの声に驚き、堀口は周りを見回した。
しかし道を歩く誰も、堀口を見てはいなかった。
人々はそれぞれ、自分の行くべき方向へただ歩いているだけだった。
堀口はひたすら歩いた。
とにかく頭の中を整理しなければならなかった。
何かの間違いだろうか。
なぜ私は犯罪者になり、いきなり会社から追い出されたんだ。
どう理解しようとしても、答えは見つからなかった。
会社のため。
利益のため。
チームのため。
自分のため。
ただ一生懸命働いただけなのに。
これからもっとがんばろうとしていただけなのに。
「スポーツ振興事業」
たくさんの人を幸せにできるプロジェクトだと思っていた。
数か月にわたる調査と徹夜を繰り返して作り上げた企画書は、満足のいくものだった。
プロのアスリートでも使えるような専門的な施設。
プロ選手や全国のアマチュア選手たちが練習する風景が、目に浮かんだ。
全国大会を間近に控えた若手選手。
オリンピックを目指すベテランのアスリート。
それだけではない。
いつか日本で開催される国際大会の公式練習会場にも選ばれ、周辺施設は休む間もないほどの盛況を迎える。
夢は大きく膨らんでいた。
何百ものアスリートが商業施設ビスタに集まり、従業員に迎えられる。
その従業員の中には、昔から知る友人たちもいる。
貧しかった友人たちが、幸せそうに働いている。
ビスタには、多くの夢があった。
付帯施設と人的資源の雇用。
それこそが、しそね町を活気ある地方都市に発展させるものだと思っていた。
しかし、すべては泡と化した。
私はもう、ビスタとは何の関係もない。
いや、ビスタだけではない。
吾妻グループの一員ですらない。
こんなことがあっていいのか。
少なくとも社会には、常識というものがあるはずだ。
堀口は足を止めた。
少しここで待ってみよう。
10分ほどすれば、本社の誰かがやってくるはずだ。
「堀口課長、本当に申し訳ありませんでした。社内文書に誤りがあり、課長に多大なご迷惑をおかけしました。吾妻副会長が謝罪をしたいとおっしゃっています」
「誤解が解けて幸いです。今後はより尽力し、大きな成果を副会長にご報告できるよう努めます」
「ありがとうございます。ではすぐに副会長のもとへお連れしますので、こちらへ――」
堀口は高級ブランド店の前に立ち、自分を探しに来る社員を待った。
5分。
10分。
15分。
誰もやってこなかった。
会社の誰ひとりとして、今日の出来事に疑問を持たない。
書類の再検討を訴える者もいない。
ただ、会社にとっての有害物を切り取っただけ。
解雇。
時間が経つにつれて、自分の置かれた状況が現実味を帯びてくる。
信じられない。
信じられるはずがない。
——この犯罪者め。
再び誰かが自分を罵った。
しかし通りには、何の変化もなかった。
堀口は、街を構成する建物をじっと見つめた。
さまざまな色彩であふれている場所のはずだった。
しかし今は、ほとんど白と黒で作られているように見える。
世界的な人気を誇るハンバーガーチェーンの前を通り過ぎた。
シンボルである赤と黄色が溶けてしまったように、その店も色を失っていた。
一台の黒い車が、堀口のそばを通り過ぎかけて止まった。
後部座席に座る誰かが、堀口を見ている。
東京にいるはずのない人物が、その車に乗っていた。
「谷川所長!」
堀口は無意識にその名を叫んでいた。
「なぜ東京にいるのですか?」
後部座席に座る谷川は、何も言わなかった。
その表情からは、何かを達成したような充足感が垣間見えた。
その顔を見た瞬間、堀口の直感がささやいた。
過去の出来事がひとつにつながり、明確な答えが浮かんだ。
——この人間が私を売った。
いつも否定的な視線で自分を抑えつけてきた人物。
直属の上司であり、企画書を幾度となく却下してきた最大の壁。
谷川の不正行為は知っていた。
無能な個人が会社の会計を操作し、少しずつ懐を温めていたことを知っていた。
謝礼費。
販売手数料という名の犯罪。
しかしそれを暴露し、告発する考えなどなかった。
上司の小さな不正を告発するために、時間を浪費したくはなかった。
堀口が持つ時間は、ビスタと故郷の復興に捧げるためのものだったからだ。
無意識に手が震えはじめた。
吾妻副会長の姿と、スクリーンに映し出された、偽装された口座明細。
すべて谷川の財布へ流れた金だ。
あのとき告発すべきだった。
私は、奴が犯した罪を、身をもってかばったことになったのだ。
もう一度、自分の手を見た。
震えは後悔によるものか、それとも谷川への怒りによるものか。
全身の血が逆流するような気分だった。
「なぜ私をここまで追い込んだんですか!? 答えてください、谷川所長!」
谷川は反応しなかった。
ただ勝ち誇ったような目で、堀口を見ているだけだった。
安全な車の中で、椅子にもたれたまま。
「私が何をしたから、ここまでなさるのですか! 答えてください!」
気づくと、堀口は足もとを見ていた。
窓を割るための石を探していた。
はっとして、再び車を見た。
厚いガラスに守られた谷川が、口角を上げていた。
「ドアを開けて説明してください!」
谷川は面倒そうに、窓を10cmほど開けた。
隙間から見える表情には、堀口に対する軽蔑だけがあった。
「社会に居場所がなくなった気分はどうだ? 堀口課長……いや、堀口氏」