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#探偵
橘靖竜
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紗良にゃん
47
38
「社会に居場所がなくなった気分はどうだ? 堀口課長……いや、堀口氏」
「副会長と手を組んだのですか?」
「副会長と手を? 何のことだかわからんな。証拠でもあるのか?」
「私は知っていました。一定額の手数料が、所長の口座に流れていることを。私はそれを知っていて、何も言わなかったのです!」
「聞いたよ。会社の金を横領したんだってな。サラリーマンは誠実さが売りであるはずなのに、よくも私の顔に泥を塗ってくれたな」
「私の言ったことを聞いているんですか」
堀口は震える手を押さえた。
「手数料は君の口座に流れたんだろう? ただ不思議なんだが、あの書類はどのようにして副会長の手に渡ったのだろうな。まさか君、色んなところから恨みを買っていたんじゃないのか」
「そんなはずが! 私はただ会社のために……」
「会社のため? なんだ、そのおとぎ話のような名言は。会社が君に命令でもしたのか? 我々のために命を削って奉仕してくれと?」
相手を嘲笑するような口調が続いた。
堀口の内側は火であぶられたように熱くなり、視界が不規則に揺れた。
「ビスタに関わるすべての人に、少しでも幸せになってもらいたいと――」
「だから、誰がそれを望んだ? 具体的な実体を述べてみるんだ。君の、その、なんだ、スポーツなんたらを推進せよと、いつ会社が要請した? 望まれてもいないものを自己満足のために進める人間がいなくなって、ようやく私の肩の荷が下りたよ」
堀口はそれ以上立っていられず、その場にひざまずいた。
「所長、本当の理由を教えてください。仮に私が実現もできない提案をしたとしても、また仮にあなたに対する態度が礼を失していたとしても、ここまで冷酷な仕打ちを受けなければならない理由がありますか。教えてください。お願いだ……なぜここまでされなければならないのか、教えてくれ!」
ふん、と谷川が鼻を鳴らした。
「ああ、そうか。もう君は組織にいない人間だから、教えてやってもいいかもな。副会長は、長い間探していらっしゃったんだよ」
「探していた?」
「スケープゴートを」
——スケープゴート。
その一言に、堀口は絶望した。
どのみち、誰かひとりが公開処刑に遭うことは決まっていた。
偶然、自分が選ばれただけだったのだ。
多くの社員の中で谷川という上司に出会ったことが、運命の岐路だったのか。
「どこかの正義の騎士が、副会長に羊を一匹差し出したのかもしれんな」
「あなたが私を売ったんだ」
両足に力を込め、堀口はなんとか立ち上がった。
それは怒りの力であり、後悔の力ではなかった。
「覚えているか? ビスタの前に立ち上げた神奈川県の商業施設のことを。すでに決まっていた計画を、君は最後に覆そうとしただろう。私はその行動によって、多くの人々に頭を下げて事態の収拾に奔走した。まったく、クソみたいな気分だったな」
「あれもあなたが邪魔したのか」
神奈川の商業施設は、今も赤字が続いている。
「君は有能だ。だから非常に目障りだった。私ももう50代半ばに入ったんでね。健康に留意しながら、安らかなサラリーマン生活を送らなければならない」
「管理者としての責任はどこへいったんだ」
「どうして慈善活動をやろうとばかりする? 社会奉仕がしたいなら、勝手に募金活動でもして国に寄付でもしろ!」
谷川はカッと目を見開いて叫んだ。
「あなたは会社にいてはならない人間だ! 社員が守るべき道理はどこへいった!」
「道理? それは利益をもたらしてくれるのか? 私には家族と過ごす時間や、週末にゴルフにいそしむ時間が必要なんだ。君のように、妻と娘を失ったひとり者じゃないんでね」
その言葉を聞いた瞬間、堀口の視界が真っ白に光った。
「殺してやる」
「おい、車を出せ! 早く!」
谷川を乗せた乗用車が、逃げるように去っていった。
「犯罪者め」
その一言を残して。
消え去る車を見つめながら、堀口の全身から血の気が引いていく。
私はもうひとりだ。
副会長がああ判断したからには、もう誰も味方にはなってくれないだろう。
吾妻建設を訴えようにも、何からはじめるべきか見当もつかない。
反論するための証拠を集めなければならないが、もう会社に入ることもできない。
数時間前まで当然のようにあった権利が、もうこの手にはない。
堀口は気の抜けたまま、駅に向かって歩いていった。
一歩一歩があまりに重い。
それなのに、自分が歩いているという感覚もなかった。
もう二度と見ることのないかもしれない東京の空。
堀口は色彩を失った空を一瞥し、地下へと入っていった。
*
はぁ、はぁ……。
堀口を探して道路に出たポジティブマンは、荒い息を吐きながら携帯電話を握りしめた。
通りは平和そのものだった。
絶望を背負った男を必死に追ったが、結局見つけることはできなかった。
「周りを探してみたんだが、近くにはいないようだ」
『なら誰かひとり、しそね町に送らなければならないな』
「このままにしておくわけにはいかない。誰が適任だと思う?」
『私に任せろ』
あまのじゃくが答えた。
『あまのじゃく以外なら誰でもいい。いや、沈思熟考も危ういぞ』
「同感だ。ブルースはどうだ?」
『誰を送るかはこっちで考えておく。とにかくもう少し探してみてくれ』
ポジティブマンは携帯電話をポケットに入れ、地下鉄の駅へ入った。
多くの店が立ち並ぶ地下は、地上よりも多くの人で賑わっていた。
この群衆の中から、たったひとりを見つけるなど不可能だった。
結局、ポジティブマンは堀口を見つけることができなかった。
吾妻勇信と、堀口ミノル。
その後、ふたりは思いもよらない場所で再会することになる。
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