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こんなにもあなたが欲しくてたまらない。
オレをこんなに夢中にさせるのは、あなただけ。
この出会いは偶然だと思う?
ねぇ、あなたに本気だって言ったらあなたは信じる?
オレにはずっとずっと愛しくて仕方ない人がいる。
ずっと憧れ続けているその人は、まだオレのこの気持ちもオレの存在でさえ、まともに知らない。
だけど、どうしても手に入れたい人。
それは、どうしても本気にさせたい恋。
「樹くん。樹くんはこういう結婚とかって憧れないの?」
「全然」
大学時代の友達の結婚パーティーで一緒に出席していた女性にそんなことを聞かれた。
昔からその友達と共にお世話になってる先輩の店での三次会というのもあって、かなり皆テンション上がって出来上がってる状態。
だけど、オレは酒が強いせいか、そこまで酔うこともなく、しかもバカみたいな盛り上がりまではツイていけなくて少し冷静に飲んでいる。
「樹くんモテそうだから、やっぱり結婚願望とかはなく今を楽しむ感じ?」
「まぁ。そんな風に考えた相手これまで一度もない」
こうやって結婚してるヤツを見ると、幸せそうだなとは思うけど、今まで付き合って来た彼女にはそんなこと一度も思いもしなかったし、そもそもそこまで誰にも本気で好きになったこともなかったし。
「じゃあさ、今を楽しむ相手、私なんてどうかな?」
まただ。
こういう場があると、いつもこういう軽い女からのアピールばっかりでうんざりだ。
オレそんな軽い男に見えるワケ?
まぁ確かにもっと若い時は、そういう誘い受けたら拒むことなく乗って楽しんでたけど。
っていうか、誘われたら別に下心しかなかったし拒む必要もなかったワケで。
その雰囲気やイメージがまだ残ってるとか?
だけどあの時からオレはこういう誘いに乗らなくなった。
いや、そういうことにも正直興味がなくなったというか。
誰とでもという気持ちが一切なくなった。
今はただ一人。
その人のことしか頭にない。
今までは適当に付き合う方がずっと楽だったから、オレも必要以上に好きにはならなかった。
正直本気で好きだと思える相手は誰一人いなかったし、この先そんな相手が現れるのかも疑問だった。
だけど今はまともに話したこともない相手に本気になっている自分がいて、昔のオレが知ったら笑われそうなレベル。
なのに今はずっとその人しか目に入らなくて。
その人の名前は望月 透子。
オレよりずっと年上なその人は、きっとこのオレの早瀬 樹という名前さえも知らない。
27にもなってガキみたいなある意味初恋かよと自分で呆れるレベルの恋愛を今更続けて、自分でバカみたいだと思うけど。
だけど、今までのオレはその人に声をかけることさえも出来なかった。
オレよりずっと大人のその人に、8歳も年下の頼りないオレなんかを知ってもらえたところで何も始まりはしないと十分わかっていた。
だから、オレはその人を好きになってから、その人に釣り合う男になることだけをひたすら目指した。
いざ知り合えた時、そんな年齢差も感じさせないくらいせめて形でも大人の男になれるように。
ずっと憧れていたその人と、いざ話すとなれば、どうしようもなく余裕がなくなって情けなくなるのが目に見えてたから。
だからオレは仕事でもそれ以外のことも自信をつけて、いつかのその時を迎えらるように準備をしていた。
なのに年月をかけてようやくその自信をつけたのに、結局そんな簡単に声をかけるチャンスなんてなくて。
こういう場で昔みたいな軽いノリに戻る時があると、昔の自分を思い出すと同時に、あの時から変わったはずなのに、今まだ何も行動出来てない自分がもどかしくて仕方ない。
「悪い。間に合ってるから」
軽く声をかけたその女にそう答えて、煩わしい場から一旦非難した。