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第3話: 触れたくても届かない距離

結名が無一郎に話しかけたその日から、少しずつ二人の間には変化が生まれていた。無一郎が時折結名の方を見て、小さな言葉をかけるようになった。しかし、その一言が結名には何よりも大きな意味を持っていた。

「無一郎くん、今日も図書室で勉強しようよ。」

放課後、結名は無一郎に声をかけた。毎日のように無一郎を気にかけていたけれど、やはり心のどこかで彼ともっと近づきたいという思いが強くなっていた。

無一郎はその言葉を聞いて、少しだけ眉をひそめた。「勉強なんて、別にいい。」

結名は一瞬肩を落としかけたが、すぐに明るく振る舞った。「じゃあ、何か他にしたいことある?」

無一郎は黙って結名を見つめた。その視線に少し圧倒されながらも、結名は耐えきれずに口を開いた。

「無一郎くん、なんでそんなに無表情なの?本当はもっと話したいんじゃないの?」

無一郎はまた無言で本を閉じると、静かに答えた。「べっ…別に、話したくはない。」

その言葉に結名の胸が痛む。でも、無一郎の冷たい態度の中にも、どこか彼自身が自分に心を開きたいという気持ちが隠れているのではないかと、結名は信じていた。

「無一郎くん、お願い。もっと話してほしい。」

結名はついにその言葉を口にした。無一郎の冷たい態度に耐えきれず、どうしても彼の気持ちを知りたくて、お願いするような気持ちで声をかけた。

無一郎は少し考え込み、そして静かに言った。

「…本当に話したいなら、結名もちゃんと向き合わないといけない。」

その言葉に、結名は一瞬驚き、そして心の中で何かが弾けたような気がした。無一郎の言う「向き合う」とは、どういう意味なのか。その意味を知りたくて、結名は無一郎を見つめ返した。

「どういうこと?」

無一郎は静かに立ち上がると、窓の外を見つめながら言った。「人の気持ちをわかるためには、相手のことをちゃんと知る必要がある。それを無視して、ただ一方的に接しても意味がない。」

結名はその言葉が胸に深く突き刺さった。確かに、今まで自分は無意識のうちに無一郎に対して自分の気持ちを押し付けていたのかもしれない。

「無一郎くん…わたし、もっと君のことを知りたいと思ってる。」

結名はゆっくりと無一郎に歩み寄った。その目は真剣で、彼の心を少しでも理解したいという気持ちでいっぱいだった。

無一郎は一瞬だけ目を閉じた後、ゆっくりと振り返った。

「…それなら、少しは話してみろ。」

結名はその言葉を聞いて、少し驚いたが、すぐに微笑んだ。「うん、話すよ。」

その後、二人は図書室で静かな時間を過ごした。無一郎は相変わらず無表情だったけれど、結名は彼の側にいることに少しの安心感を覚えていた。無一郎が時折本から目を離し、彼女に何かを考えるような顔でちらっと視線を向けることが、結名には少しずつ嬉しくなっていった。

そして、放課後の時間が終わり、二人は同じ方向へ帰ることになった。

「無一郎くん、今度は一緒に帰ろうか?」

結名が勇気を出して声をかけると、無一郎は一瞬だけ足を止めた。周囲の人々がすれ違う中で、無一郎は何も言わずに、静かに結名の隣に歩み寄った。

その瞬間、結名は心の中で小さくガッツポーズをした。無一郎がようやく、自分の存在を少しでも受け入れてくれた証拠だったから。

二人は並んで歩きながら、言葉を交わすことなく、その静かな時間を過ごした。

無一郎が本当に心を開いてくれる日は、まだ遠いのかもしれない。しかし、結名は諦めるつもりはなかった。彼の心の扉を少しでも開けられるように、これからも向き合い続ける覚悟を決めていた。

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