(リュシオルが……)
まあ、彼女のことだし、心配してくれているよね……というのは、何となく想像できた。でも、今の職を手放して、私を探しに行くとかは、して欲しくなかった。
だって、お金って大事じゃん。住居だって大事って今この状況になっているからこそ、思ったから……
嬉しくないと言えば嘘になる。でも、リュシオルには、トワイライトを見ていて欲しかったし、聖女殿を託したつもりだったから。
(ううん、彼女なりの思いがあるんだもん、それを否定しちゃダメ)
でも――
「そう……なんだ。ヒカリ、一つ頼んで良い?」
「わ、私でよければ、な、何でも、しますから。エトワール様」
と、いつも通りの挙動不審を見せて、ヒカリは言う。何度か、舌を噛んでしまったようで、痛そうなかおをしている。その顔を見て、何だか緊張が和らいだ。
矢っ張り、リュシオルには、あそこにいて欲しい。転職ってどの世界でも難しいものだと思うし、聖女のお世話をするメイドなんて、これまでにないほど高収入な気がするから。
それに、安全圏にいて欲しい。
「矢っ張り、その、私を探しに行かなくても良いっていうか、ええっと……大丈夫だよって伝えて」
「わ、分かりました。お任せ下さい」
そう言って、ヒカリは、胸をドンッと叩いた。強く叩きすぎてしまったようで、少しむせていたが、まあ大丈夫だろう。
リュシオルの話が出て、会いたくなってしまったけど我慢だ、と私は自分に言い聞かせる。大丈夫、まだ、私は壊れてない。
「そ、それで何だけどさ……気になってたんだけど、三人はどうしてこんな所に?」
私が、そう聞くと、双子とヒカリは、顔を見合わせて、言いにくそうに口ごもった。
何か深い理由があるのだろうかと思ったけれど、ただの迷子だろうし、まあ、なんで迷子になったかっていう理由が聞きたかったんだけど。
(そもそも、ここがどこだか私が把握し切れていないのがあれなんだけどね)
もしかしたら、ダズリング伯爵家の領地かも知れないし……そう思うと、こっちが勝手に、入ってきてしまったっていうことになるし。ダメなのかもだけど。
「そ、それが!」
「ヒカリ」
「は、はい」
ヒカリが、意を決したように、口を開いてくれたが、それを阻止したのは、ルクスだった。ルクスは、自分たちの失態を知られたくないというように、ヒカリに首を振る。そして、その空色の瞳をつり上がらせて、ヒカリに黙ってろと、伝えた。ヒカリは勿論、彼の意志に従って、スッと後ろに一歩下がる。
そう言えば、ヒカリのメイド服はかなりボロボロになっていたし、もしかしたら、私達が思っている以上に、あれな理由があるのかも。
私はそんな風に、少し身構えて、ルクスを見た。ルクスは、それでも、言いにくそうに、でも、頑張って取り繕いましたって言う感を出しながら、咳払いをした。
「ごほん……まあ、何、僕達、ちょっとお出かけしてたんだよ。そこで、魔物にあって、追いかけられて、ここまで逃げてきたって感じ」
「まあ、迷ったって言い方が正しいけど」
「ルフレ!」
せっかく、ルクスが嘘ついてと言うか、色々配慮していったのに、ルフレは、ぽろっとそんなことを零した。きっと、こんなこと嘘ついても仕方ないと思ったからじゃないだろうか。
でも、少し疑問もあった。
ルクスは、ルフレにギャンギャン怒っているけれど、逃げてきたと言うことはつまり……
「その魔物って、まだここらへんをうろついているってこと?」
「さあ?」
「さあって、アンタねえ。というか、アンタ達の魔法……ヒカリもいるんだし、どうにか出来たんじゃ無いの?」
「……」
そこが疑問点だった。
だって、ルクスも、ルフレも魔力はそこそこあって、ヒカリだって、確かにサポート系だけど、そこら辺のメイドと違って力がある。なのに、逃げるという選択肢をとったと言うことは、それだけ凶暴な魔物だったんじゃないかと。
(でも、災厄がさって、魔物の行動もおちついてきたってきくし……)
謎だった。
災厄の間は、魔物が凶暴化して、人が住む地域にまで降りてきて、かなりの災害を起こしていたと聞く。でも、最近では魔物も温厚……凶暴化するという話は聞かないし、何より、そういう討伐の話も聞かない。前までは、魔物のせいで、皇太子がかり出されるなんていう事件もあったわけだし。
だから、そんな凶暴な魔物がいるなんてあまり考えられないし、考えたくもない。
けれど、彼らが、嘘をついているようには見えなかった。
「って、アルベド」
「何だよ、いきなり大きな声出して」
耳がいてえ、とアルベドは、両耳を押さえつつ、私を見る。呆れた、見たいに、目を細めてこめかみをぴくつかせている。
「こ、こここ、ここ、安全っていったわよね」
「いったなあ」
「なら、なんで、魔物の話!」
「結界魔法は張ってある。それに、俺が、その三人よりも弱いって言いてえのか?」
「うぐ……違うけど、何だか、そんな、魔物がでるなんて言われたら、安心できないじゃない」
「まあ、そうだろうな」
「そうだろうなって、アンタ人ごとみたいに!」
私がギャンギャン吠えても、アルベドは、知りませんといった感じで、明後日の方向を向いていた。まあ、アルベドの言葉に含まれたように、アルベドはあの三人が束になっても勝てない存在ではあるって思っているし、アルベドが強いのも認める。だけど、危険と言うことに変わりないところで、野宿をしろって耐えられない。
(そ、そこが、アルベドと私の価値観の違い……)
よくあること。
でも、これからも、ここで過ごせと言われても、私はすぐに首を振れないと思う。
ルクスとルフレが迷い込んだわけも分かった。まあ、未だにここが何処か分かったもんじゃないけれど。
色々考えるのは後にしよう。
「はあ……で、その魔物ってどんなのだったの」
「なんで教えなきゃならないのさ」
「そーだ、そーだ」
「アンタらねえ……」
逃げたけど、今度は倒せるみたいな、感じて見られても、イマイチ説得力に欠ける。それに、どれだけ、危機管理がこの二人は出来ていないんだと思う。結構、この双子といるとろくでもないことに巻き込まれるのは目に見えていて……
(そう言えば、この双子が出てくる時っていつも事件が起きてるんじゃ……)
何だか、嫌な予感がする。
そう思いながらも、私は、この二人に聞いても拉致があかないと、ヒカリを見た。ヒカリは、ハッとしたように私を見る。
「ええっと、大きなモグラです」
「も、モグラ?」
「はい、モグラの、魔物でした。ですが、転移魔法も使えるみたいで、かなり、厄介な魔物です……」
「も、モグラ……」
モグラの魔物って何?
「あ、アルベド、モグラの魔物とかみたことある?」
「見たことねえな。だが、妙だな」
「妙って、何?え、矢っ張り、災厄が去ったのに、魔物が凶暴化しているってこと?」
そうとしか考えられないよね、と自分でも主ながら、アルベドに答えを求めた。アルベドは何か考え込んでいたようだし、私は、直接その魔物を見たであろうヒカリの方を見る。ヒカリは、眉間に皺を寄せて答えた。
「あまりに急な出来事だったので、逃げることに必死だったんですが……魔力の強いものを追いかけるような習性があると思われます。魔法を使ったものに、よっていく……そんな風に見えました」
「な、なるほど」
モグラの習性ってよく分からないけど、そこと繋がっているのかも知れない。ただ、地面を自由自在に潜ってあらわれる……転移魔法が使えるモグラとなると厄介かも。
空を飛ぶ敵とかも、簡便だけど。
そう思っていると、グラグラと地面が揺れ始めたような気がした。フラグ回収があまりにも早すぎる。そんなことを思いつつ、まさか、とアルベドを見れば、アルベドの目つきが変わった。敵を前にした戦士の目……
「エトワール、くるぞ」
「くるって、も、もぐ……」
私がそういった途端、地面が裂けるようにパカリと開き、そこから鋭い大きな爪を持った、モグラのような魔物が現われた。血色の瞳を輝かせたモグラの魔物は、砂埃をまき散らし、地上に這い出てきたのだ。
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