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砂埃を一気に巻き上げあらわれたのは、とてもモグラとは思えない大きさの魔物だった。
(手が、ショベルカーみたいじゃん!)
まじまじと、観察している暇もなく、私はアルベドに引っ張られ、何とか、モグラの攻撃を受けずにすんだ。あの双子はというと、戦闘態勢に入ったヒカリによって抱きかかえられ、モグラの攻撃を何とか避けているようだった。もし、ヒカリが合流しなければ、あの双子はどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。
「アル……」
「んだよ」
「あ、ありがとう……助けてくれて」
「……しっかし、でけえな。災厄でもねえって言うのに、あんな大きさの魔物久しぶりに見たぜ」
私のありがとう、という言葉に対しては何も反応せず、空中からモグラの魔物を見下ろすアルベドは、完全にスイッチが入れ替っているようで、魔物に対して、鋭い目を向けている。
確かに、大きさは異常だったし、動物のモグラとは似ても似つかぬ容姿をしている。
(こんなのに、さっき追われてたって事だよね!?)
ルクスとルフレはサラッと言ったけど、この巨大なモグラに追われていたんだ、という事実は、私達が想像するよりも恐ろしかった。だって、こんなの踏みつぶされそうだし、何よりも、その大きな爪で引っかかれたら、肉なんて避けてしまうだろうから。
アルベドの風魔法は、相変わらず便利だなあと思いながら、ずっと脇に抱えられている状態でもいけないと思ったので、私はアルベドに離してくれという意思だけ伝え、同じく自分に風魔法を付与した。
実際に見たことは無いけど、モグラって可愛いサイズだったきがするから、あんなに大きな(湖よりは小さいけど)モグラを目にして、可愛いなんて言う感情は抱けなかった。黒いけは逆立っているように見えたし、隠れている瞳は血色に輝いている。
地中を掘って進む生き物だから、こうして地上に出てくるのが、珍しいんだけど……
「ど、どうするの。討伐すればいいわけ?」
「モグラなんて、食えねえだろ」
「食料じゃないのよ! というか、こんなのが、暴れ回ったら被害凄いでしょ。それに……」
「凶暴化した魔物が暴れてるって知ったら、くるかもなあ。まあ、あの皇太子殿下がかり出されるかは知らねえけど、何かしら情報がラスター帝国の騎士にいくと」
「そ、そう言うこと」
援軍、とかでもし鉢合わせちゃったら……また、面倒くさいことになるなあと思ったのもそうだし、さすがに、このモグラが、帝都まで行って暴れるなんてこと無いけど、この森が荒らされるのは嫌だと思った。
そもそも、まず、こんな大きなモグラが、地中にいたっていう時点で、どうかしているんだけど。
「……」
「気になることがあるのか?」
「アルベドは気にならないの?」
「……かすかに、他の奴の魔力を感じる。誰かが、凶暴化させたっていうのは考えられなくもないな」
それが、ラヴァインだったら? と、私は一瞬思ってしまった。そして、無意識のうちにアルベドの方に顔が向いていたようで、彼の満月の瞳と目が合ってしまった。
「ちげえよ。俺が、彼奴の魔力と他人の魔力を見分けられねえと思うのか?」
「う、そうだよね……でも、故意に凶暴化させたんだとしたら、何のために……ってなるから……ヘウンデウン教が絡んでいるとか」
「まあ、考えられなくもねえよ。それも……だが、まず、この状況を何とかしなきゃな」
と、アルベドは、手に魔力を集め始めた。見えないはずの風が、彼を中心に集まっていると感じ、私の髪の毛も吸い上げられるように靡く。
さすがは、アルベドの魔力だなあと思った。まあ、その魔力にこの間まで気づかなくて、ラヴァインのものだって思っていたんだけど。
(雲泥の差かも……)
いや、そこまでは行かずとも、アルベドは、攻略キャラの中でも魔力量がある方だと分かった。はじめは、ブライトかなあ何て思っていたんだけど、闇魔法と光魔法は別物だし……考え方も、見方も色々あるから一概に……とは言えないんだけど、まあ。
これだけ集めれば、あのモグラも一発で倒せるんじゃないかと、私は目を輝かせる。相変わらず、凄い魔力で……と、感心していると、地上で大人しくしていたモグラの目がぐるりと動いて、アルベドを捉えた。さすがに、突っ込んでくるなんてことしないだろうけど……と、思っていれば、モグラは、その爪で地面を抉り、抉られ飛び出した岩や木々が上空へと舞い上がる。ミサイルのように、私達に襲い掛かってきた。
まずい、と、私は光の盾を自分の目の前に、そして、アルベドにと発動させようとしたが、それよりも早く、アルベドが風魔法を放った。その魔法は想像以上に凄まじく、飛んできた岩や木々を地上に打ち返す。しかし、それらが壁となり、モグラにはダメージが入っていないようだった。
「う、うそ……っ」
そんなはずない、だって、アルベドの攻撃だよ? と、明らかに、ノーダメージといったモグラを見ていれば、私達の背後に、不穏な魔方陣が浮かぶ。もしかして、と私は咄嗟にアルベドにタックルし、その魔方陣から飛び出した攻撃を間一髪の所で防いだ。紫色の魔方陣から飛び出したのは、アルベドの魔力に似た風魔法。いや、もしかしたら……
「っ……エトワール」
「大丈夫?アルベド」
「あ、ああ……お前のおかげでな……つか」
アルベドもパニクった様子で、地上にいるモグラを見つめていた。
モグラは、私達を挑発するように、早く来いとその大きな爪を動かしている。
「エトワール様、大丈夫ですか」
「ひ、ヒカリ」
先ほどの攻撃を見ていたのか、何処かに隠れていた、ヒカリが私達の元に飛んでくる。その両脇腹にはルクスとルフレが挟まっている。二人とも不満そうなかおをしているが、致し方ないといった感じで、甘んじてその状況を受け入れているようだった。
まあ、それは良いとして。
「ヒカリ……もしかして、あのモグラ、相当強い?」
私の質問に対し、ヒカリは、間髪入れずこくりこくりと頷いた。
予想は出来ていたけど、これまた予想以上のものだった。ルクスと、ルフレ、そしてヒカリがいるのに何故、逃げるという手段を執らざるを得なかったか、それがよく分かった攻撃だった。
グランツの魔力無効化、とまでは行かずとも、あのモグラは、自分に向けられた魔法をワープホール的なものを使って他に放出しているのだと。カウンター攻撃みたいな……また、ちょっと違うかもだけど。
だから、魔法に長けた三人がいても、あのモグラから逃げないといけなかったのだ。攻撃が通らないどころか、自分たちのぶつけた高火力の魔法に焼かれてしまうかも知れないから。
(じゃあ、どうやって倒すのよ!)
剣術に長けたグランツも、リースもいない現状、あのモグラに近付くことは出来なかった。魔法で作った剣じゃ、きっとモグラの身体には傷をつけることが出来ない。となると、私達に出来るのは、やはり逃げることしか出来ないのか。
(でも、あのモグラと目が合った……)
小さな目ではあるんだけど、ヒカリのいったように、魔力のあるものを標的にするという感じは何となく伝わってきた。そして、多分この五人の中で最も魔力を持つのが私だろう。モグラは、目が見えにくいから、魔力を感じ取って向かってくるんだろうって。
(逃げても、何処までも追いかけてきそうね……)
それももの凄く迷惑な話である。ずっと、あのモグラに追われながら生活するなんてとてもじゃないけど考えたくない。でも、標的にされてしまったからには、きっと倒すまで追いかけてくるだろうし……
まあ、あのモグラは、飛べないようだから、空中にいれば問題ないのかも知れないけど。
「けどなあ……」
「何が、けどなあ、なんだよ。エトワール」
「空中にいても、さっきみたいに攻撃してくるわけでしょ?何処も安全地帯じゃないし」
あのモグラ、有名な映画の祟り……みたいに見えてきた。別にうにゅうにゅしているわけじゃないんだけど、フォルム的に。
気がそぞろになってしまったこともあり、あのモグラを倒す解決策が全然出てこなかった。でも、このままあれが暴れ回ったら、ラスター帝国の騎士達が討伐に来ることになるだろうし……別に、指名手配されているわけじゃ無いけど、鉢合わせるのはどうにかして避けたい。だから、ここで叩くしかないと。
(魔法が効かないんじゃ……どうしようも……)
「……あ」
「何か、いい案でも思いついたのかよ」
「え……あ、うん。何となく」
私が、そう答えると、アルベドは教えろというように目で訴えかけてきた。でも、果たしてそれが許して貰えるだろうか。危険だっていわれるかも知れない。
「ヒカリ」
「は、はい、はい!な、何でしょうか」
「モグラって、人間食べると思う?」
「へぇ?」