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私は少し海辺に行きたい気持ちでした。

海は嫌いです。でも綺麗だとは思っているんです。勉強しなきゃと思いつつ、いつも勉強が出来ません。気晴らしに散歩するのもありですが、時間が勿体無い…散歩する時間があれば勉強に専念すべしと思うものの中々出来ません。…ので、今日は海辺に行こうと思います。どうせ勉強しないのなら散歩して気晴らしだ!切り替えるぞ!…ので、今日から一日を振り返るというノートをつけます。結局続かないのだろうけど…


久しく海辺へ行きました。

私はそこで不思議な少女に会いました。

びっくりしました。こんな出会いがあるのかと。いつもみたく繰り返し続く…いや、悪化する憂鬱の一日を過ごすとばかり思っていたのに…たまには散歩もいいですね。


海辺に着き、私は海を広く眺めました。景色を眺めて…..はい、終わり。気恥ずかしい気持ちがあったので、そのまま家に戻ろうと思いました。少しばかり清々しい気持ちになりましたが、家に帰ればいつも通りの気持ちに戻るでしょう…収穫はこんなもんです。まあ、最初はめんどくさくても続ければきっと、いい気晴らしに….


しかしその瞬間私はぎょっとしました。

腰辺りまで海に浸かり、制服のスカートをワカメみたく漂わせ…深い、深い…海の沖の方へと向かう、ある女の子を見つけたのです。

最初は何か物でも落としたのだろうか

それともイカか何かを捕まえようとしているのか

よく分からず、助けるかどうか躊躇しました。

しかし、私の足は、腕は…一番最悪の事態を予想し、なんの躊躇いもなく走り出していました。


「危ない危ない危ないぃっ!」


私は彼女のもとへとじゃぶじゃぶと水を踏みつけ、できる限り速く進もうと努めていました。

どこでもいいはやく彼女のどこかを掴まきゃ…

肩は海に沈み、頭上までもを海中に潜らせようとしている。私の声は聞こえている筈だろう?無視しているのか。


「危ないって!ねぇ!ねーえ!」


海は本当に嫌いだ

溺れたことがあるから

助けられた時、

本当に口から水がびゅーびゅーとでたんだよ

こんなにも深くまで進みたくない…怖い、海は青くなんてない…黒いんだ….どうかっ、どうかこれ以上進みたくない….!!


それでも私は進んだ…足がつくうちはジャンプだ!ジャンプして…ジャンプして…進みがだんだん鈍くなる…水邪魔!!!手を伸ばす、できる限り長く!長く!指先をより遠くに…制服どこでもいいから!どこか….どこか掴めよおおお!!!!


白く細かい泡が視界を覆った….。




「ごめん聞こえてた」

「最悪」

「ごめん本当…溺れたこと…あったんだ…本当ごめん知らなかった。凄く無理させたよね…ありがと..ね。引き上げてくれて…」


私は靴と靴下を脱ぎ、足を乾かしていた。

ねたつく制服は諦めた。彼女の制服を見て中学生だということが分かった。学校は違いましたけど。

彼女は潮水にされるがままの状態だ。砂を払うそぶりも濡れているのを乾かそうとするそぶりも何もしなかった。

話は飛ぶが、どうやら彼女は気の迷いで海に入った訳ではないらしいことが分かった。彼女は…海に帰ろうとしていたのだとか。

なるほど。ではあなたは人魚ですか?と問うてみれば、はい。そうです。とのこと。ああそゆことか!

なあんて、誰が思うか!


「あのあなっ…“君”は誰ですか?」


できる限り、正しくその子の正体を暴こうとした。…持ち前のコミュ障を活かして…


「”君”って…へへへ。だから私人魚だよぅ」


少し照れくさそうに彼女は答えた。しばらく間ができる。…あっ。ここは私がリアクションを取るべきだったのだろう!しまった。何か返答を!と思った。が、彼女から言葉は続けられた。


「ねぇ、魚になりたいと思ったことはある?」

「えっ、あんまりぃ…かな…」


魚になりたいから私は人魚だなんて言ったのかな?


「こんな場所から離れたい、遠くへ行きたいと…思ったことはある?」

「えっ…うん。まぁ思う人は思うかと…」


違う。やはり彼女は気の迷いがあって海に向かったのかも、相当魚になることに執着して…


「ファンタジーなお話は嫌いかな?」


むむむと一人思考を巡らせていると、ふと….突然何かを突かれた。

私はおそるおそる彼女を横目でみる。いつしか彼女は砂浜をあるいていた。私は慌てて後を追いかけることにした。


「私さ、人に憧れてたんだ。海を見て誰かが綺麗って言った。私にとっては海の何がそんなに綺麗なのか全然わかんない。誰かが海は青いって言った。別に青くないだろうと私は思った。私は凄く不思議だった。どうしてそんな感性を抱くのだろう。って….」


彼女は空を仰ぐ。今日は快晴だったので、足は既に乾いていた。しかし私はもう少し彼女とお話していたいと思ったんだ。足の指の隙間を砂がくぐり抜け、下手なクッションの上でも歩いているようだった。


「…どうしてそんなにもきらきらした目で見るのだろうって…私そんなの海で過ごしてて思ったことないからさ…その場所に一番近くに居るのにね。…」


彼女は海を見つめながら何処か懐かしそうに言葉を続ける。


「…それにね。私さ…青好きなんだ。空の色でしょ。その色が海の色だって誰かが言ったんだ。嬉しかった。だって私の好きな色だから…」


前を歩いていた彼女が突撃立ち止まり、ばっとこちらを振り向く。その時はにこにこと笑顔を浮かべていた。

しかし、それは何かに耐えきれなくなったのか、一瞬のうちでたちまちほころび始め、くしゃりと顔を歪めてしまった。目からは涙がぽろぽろと落ちてしまう。

私は慌てて白いふわふわのハンカチを彼女に渡す。ついでにティッシュも…

大丈夫?大…大丈夫??私はそれしか言葉が出ず、つくずく自分にうんざりする。


「私の名前ねぇ”空”って言うの。」


しばらくして落ち着いた頃、おどおどと彼女の周りをうろついていた私に名前を教えてくれた。

動揺が行動に出過ぎ面白すぎだと彼女は言い、ふふっと笑みが溢れる。私もつられて笑っちゃった。


「空っていい名前じゃん。」


結局私は日が沈むまで彼女と遊んでいた。

主に貝殻やシーグラスを拾い集めて。


私はこの日、また遊ぼうと言いました。彼女は砂を探る手を止め、それもいいねと答えました。けれど彼女は自信がないと言いました。また遊びたい気持ちは確実にあるが、またここに来れるのか自信がないと。私は承諾しました。人にはそれぞれ事情があるのだから。是非ともまた会おうねと彼女は私の手を握りました。本当に楽しかったのだと。私も大きく頷きました。


不思議な一日を過ごしました。

振り返りノートなんて書きなれていないから何故か敬語になっちゃいました。気持ちは今でも温かいです。貝殻もシーグラスもしばらく飾ります。次会ったらファンタジーのお話について語りあいたいものです。なので今日から本を読みたいと思います。また会いたいなと私は思ったのです。


20☓☓年○月○日 青い硝子

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