昼休み。
胡々がいつものようにお弁当を広げていると、佐倉が当たり前のように彼女の隣の席に座った。
「お前、今日も卵焼き入ってんのな。」
「うん、好きだから。」
「ふーん。」
佐倉は何気なく胡々のお弁当を覗き込む。
「……食う?」
「お、いいの?」
「ちょ、冗談だって!」
胡々が慌てて弁当を遠ざけると、佐倉はニヤリと笑った。
「反応おもしれぇな、お前。」
「もう……!」
そんな何気ないやり取りをしていた時、ふと周囲の視線を感じた。
(ん?)
気のせい……ではない。
クラスの何人かが、こちらをちらちら見ながらヒソヒソ話している。
「ねえ、なんで佐倉くん、神山さんと仲いいの?」
「わかんない。でもさ、神山さんって地味じゃない?」
「ねー、佐倉くんなら、もっと似合う子いるよね。」
(……え。)
ひそひそ声とはいえ、聞こえてしまったその言葉に、胡々の手がぴたりと止まる。
(私、そんなふうに思われてるんだ……。)
確かに、胡々は目立つタイプではない。
クラスの中心にいるような派手な女子と比べれば、地味に見えるのかもしれない。
「……どうした?」
佐倉がふと胡々の顔を覗き込む。
「……ううん、なんでもない。」
気にしてないふりをしたけれど、なんだかお弁当の味が薄く感じた。
* * *
放課後。
「お前、さっきの気にしてんの?」
帰り道、佐倉がポケットに手を突っ込みながら、ぼそっと言った。
「えっ?」
「昼休み、ヒソヒソ言われてたやつ。」
胡々はギクリとする。
「聞こえてたんだ……。」
「そりゃな。てか、気にするなよ。バカバカしい。」
「でも……私、地味って思われてるし……。」
「それがどうした?」
佐倉が立ち止まり、真っ直ぐ胡々を見つめる。
「別に地味だろうがなんだろうが、関係ねえだろ。」
「……。」
「俺は、お前と話してるのが楽しいから、一緒にいるだけ。」
それは、あまりにも真っ直ぐな言葉だった。
「そんなもん、他のやつにどうこう言われる筋合いねえだろ。」
胡々の胸が、ぎゅっとなる。
(……佐倉くんって、やっぱりずるい。)
シンプルなのに、ものすごく響く。
「……ありがとう。」
そう小さくつぶやくと、佐倉は「おう」とだけ返した。
そして、ふとニヤリと笑う。
「てか、お前が ‘地味’ なら、俺は ‘地味好き’ ってことか?」
「ちょ、違うでしょ!」
「ははっ、なんだよその反応。」
胡々はムッとしながらも、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
(やっぱり、佐倉くんといると楽しいな。)
その気持ちは、誰に何を言われても、揺らがない――。