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あれから、嫌がらせはエスカレートする一方だった。
「ねぇ……さすがにこれ、酷すぎない?」
奈々子が私の引き裂かれたノートと教科書を見て言った。
昨日はうっかりロッカーの鍵を閉め忘れちゃったから、次からは必ず閉めよう。教科書は出費が痛いけれど、また買うしかないかな……。
「ましろ、そろそろ先生に言ったら? こんなの卑怯すぎる! これ撮って見せよう」
奈々子は怒りを露わにしながら、証拠写真を撮っていく。伊代は慰めるように、軽く私の頭を撫でた。
「そうだよ、言いにいこう。ついていくからさ」
「でも犯人誰だかわからないし……」
王子候補達のファンだとはわかってる。でも、ファンの子達はたくさんいて犯人が誰だかわからない。
「ましろせんぱい、おはよー」
背後から聞こえてきた声に慌ててロッカーを閉めた。
「み、実里くん! おはよう!」
実里くんは不思議そうに首を傾げている。そして、私の頬に手を添えてきた。
「そんなに慌てちゃって、どうしたの?」
「ちょ! 実里くん……っ!」
一歩後ろに下がり、彼の手から逃れた。実里くんは不満そうに口を尖らせている。
奈々子や伊代を横目で見ると、二人は実里くんをうっとりと見つめて頬を染めている。ミーハーなんだから……!
実里くんの人気はかなり高いようで、こうしている間にも女子達がキャァキャァ言っているのが聞こえてくる。
「せんぱい、どうかした?」
「う、ううん! なんでもない!」
一緒にいるところを見られると嫌がらせが悪化しそうで怖い。
「じゃぁ、またね! 実里くん」
「え、ちょっと……!」
実里くんはなにか言いたげだったが、伊代と奈々子の腕を引っ張り足早にその場を立ち去った。
さらに翌日、教室に行くと私の机の中にも手紙が入っていた。
いつもの暴言や脅しではなく【放課後、裏庭に来い】という内容だった。
「ましろ、こんなの無視しなって!」
伊代や奈々子には行くのを止められたけれど、このままではただ見えない相手の嫌がらせに耐えているだけで悔しい。
それに行けば誰が犯人なのかがわかる。それだけでも私にとっては収穫だ。
「大丈夫。なにかあったら連絡するね」
巻き込みたくない。だから二人にはなにかが起こっても連絡はしない。だけど少しでも安心してもらうために、心配している二人に笑ってみせた。
放課後、画面に表示された赤いマークを押してスマホをポケットの中に入れる。準備は完了。
裏庭に行くと、既に四人の女子がいた。
メイクが濃い目だけど容姿が可愛くて目立っているため、私も何度か見かけたことがあった。
……この子たちが私にシンデレラ役を降りろって言っていたんだ。
「へぇ、逃げずに来たんだ?」
彼女たちは蔑むような目つきで私を見てくる。
「シンデレラ役にどうやって選ばれたの?」
「私も突然決められて、」
「どう考えても目立つわけでもない人が選ばれるとかおかしいでしょ」
茶髪の巻き髪の女子に壁に良く押しやられる。その衝撃で背中を勢い良くぶつけた。
「しかもアンタが選ぶ側とか笑えるんですけど」
地味で目立たない人間が選ばれたことへの不満もあるだろうけれど、きっと彼女たちは誰が選ばれていても不満を抱いていたはず。
結局、自分が選ばれないことがおもしろくないだけ。
それに私はなにも悪いことはしてない。俯く必要なんてない。
「なに、その目」
金髪ショートの女子が私の髪の毛を掴み、力強く持ち上げた。
「……っ」
頭皮が引き上げられ、頭を揺らされる。視界が揺れて、耐えるように眉根を寄せた。
揺れる視界の中で歪みながらも見えるのは、敵意を向けている四人の女子の敵意。私を睨んでくる人、蔑む目で笑っている人、怒りを吐露して感情をぶつけてくる人。
「やめて……!」
私は髪の毛を掴んでいる手を無理矢理引き剥がした。
「っ、痛」
金髪の女子が手を抑えながら私を睨みつけてくる。
「私にこんなことしてなにになるの」
「あんたみたいなのが選ばれたせいで、私たちが影でどれだけ馬鹿にされてると思ってんの?」
金髪の女子に胸ぐらを掴まれる。そしてもう片方の手で私の頬を掴んできた。長く伸びた爪が頬に食い込む。
「今まで私たちの機嫌をとっていたような奴らなくせに! 手のひら返してきて、本当ムカつく」
——候補にすら上がらないらしいよ。
——九條くんたちに相手にされていない。
日頃から内心彼女たちに不満を抱いていた人たちが言っているのを、私も耳にしたことがある。だけどそれは彼女たちが、目に余るような言動を今までしていたせいだ。
でも彼女たちは見下していた人たちや、劣等感を抱いていた人たちからの発言に悔しさを覚えているようで、それは全て私のせいだと責任転嫁をしている。
「それになんで実里くんとあんなにべったりくっついてるわけ?」
「……え?」
朝に会ったときの件だろうか。あれは単に彼の人との距離が近いだけで、特別な意味なんてない。
「今朝のことを言っているなら、実里くんとはただ話していただけで」
「あんたは選ばれて浮かれてるかもしれないけど、周りの人の気持ち考えたら?」
「——っ、それは自分たちでしょ!」
反論した直後、頬に痛みが頬に走る。数秒遅れて、頬を引っ叩かれたのだと気づく。
「嫌がらせされても、ここに来ちゃうとか悲劇のヒロインぶりたいんでしょ?」
金髪の女子がポケットからハサミを取り出した。それを見つめながら、私は唇を震わせる。
「な、に……」
「そんなに悲劇のヒロインぶりたいなら、もっとしてあげる」
「は……?」
周りの女子達もさすがに驚いているようで目を見開いている。
「ちょっと、それはさすがに」
「は? ここまでやっておいて、なに怖気づいてんの」
私の長い髪の毛は、金髪の女子によって再び掴まれた。そして髪の束を銀色の刃が挟んでいく。
「やめて! 離して!」
はらりと、髪が地面に落ちていく。
「じゃあさ、ちゃんと約束してよ。役おりますって」
辞退なんてきっと私の意思ではできない。権限は九條くんにある。
「礼奈、そろそろヤバイって」
「そうだよ、髪まで切るのはやり過ぎ」
「実里くんに近付かせなければいいじゃん」
三人の女子が宥めるように金髪の女子に言っても、彼女は怒りを鎮める様子はない。
「辞退するって言うならいいけど?」
シンデレラ役に選ばれたことも気に食わなかったけれど、一番は今朝実里くんと親しげに見えたことが彼女にとっては腹が立つことだったみたいだ。
……多分この子は、実里くんのことが好きなんだ。
地面に落ちた髪の毛を見下ろしながら、私は下唇を噛み締める。
「ほら、早く」
「……っ」
「辞退しますって言えよ!」
正直髪の毛まで切られるとは思っていなかったけれど、彼女たちは本気で私がなにも対策をせずにきたと思っているのだろうか。
嫌がらせを行なっている人物の正体を知るために、録音機能をONにしてブレザーのポケットに入れている。これを教師に提出したら、彼女たちの言動が問題になるはずだ。
だけど、どんどん髪の毛が切られていく。
伸ばしていた真っ黒な髪が、無惨に落ちていくのを見ていることしかできない。
今抵抗したところで無駄なのはわかっている。私は諦めて目を閉じた。
「言えって言ってんだろ!」
「なにを言えって?」
その声はここにいる女子たちのものとは違っていた。
間を開けると、私を囲んでいた女子達が一気に青ざめている。