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海の紅月くらげさん
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「こんなとこで、なにしてんの?」
声が聞こえてきた方向を辿っていくと、そこには——
「あ、ゆむくん……」
顔を顰め、怒りを露わにしている歩くんが女子たちの後ろに立っていた。
「う、うそ」
「……っ、どうしよう」
「日下部くんが、なんでここに」
女子達が口々に言う。その瞳は潤んでいて動揺しているのがわかる。
「お前らの顔覚えたからな」
歩くんは酷く冷たい視線で泣きそうな女子を見下している。普段の彼からは想像がつかない表情だった。
「ち、違うの、これはっ」
「そういう言い訳は後で聞くから、今は消えて」
彼女たちを歩くんが苛立った様子で追い払うと、逃げるように去っていく。やっと終わったのだと、私はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か!?」
慌てて歩くんが駆け寄ってきて、心配そうに私を見つめてくる。歩くんの瞳は先程のような冷たいものではなくて、優しさを感じた。
「……どうして、ここに?」
「廊下ですれ違ったお前の友達が、事情を話してくれた」
きっと奈々子か伊代が歩くんに伝えてくれたんだ。歩くんが来てくれなかったら……もしかしたらもっとエスカレートしていたかもしれない。
「髪……」
歩くんが散切りになっている私の髪の毛に触れた。
胸元まで伸びたロングだった黒髪がセミロングくらいになってしまっている。
「ごめんな、もっと早く来てればこんなことにならなかったのに」
歩くんが苦しそうに言った。眉間に皺がよせられ、悲しそうな眼差しが私の瞳を捉える。
歩くんが悪いわけではない。いくら証拠として録音をしたり、犯人の顔が知りたいからって自らここへきた私が悪い。
「ましろ」
名前を呼ばれて顔を上げると、歩くんが真剣な瞳と視線が交わった。
「もうこんな思いさせねぇから」
歩くんが震える私の手を掴む。その温もりに堪えていた涙が溢れ出した。
「ご、ごめ……っ、気が抜けたみたいで」
「我慢しなくていいよ。こんなん怖いに決まってるよな。……嫌がらせのこと、全
部俺たちが巻き込んだせいなのに。……気づけなくてごめん」
そっと、抱きしめて背中をとんとんと軽く叩いてくれる。まるでそれは泣いている私をあやしてくれるみたいで、余計に涙が溢れてきた。
「泣き止むまで傍にいる」
「あり、がと……」
歩くんの腕の中はとても落ち着けて安心できる。
シャツからはふわりと柑橘系の爽やかな匂いがして、私の傷ついた心を癒してくれてるみたいだった。