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私には常識しか通用しません

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私には常識しか通用しません

209 - 第209話・はじめての ぎょじょう

2026年01月31日

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二組の新郎新婦が公都に来て、それからちょうど

ひと月も経った頃―――


私は王都・フォルロワへ来ていた。


「えー、それでは……


 今では誰もがその名を知っているでしょう、

 『万能冒険者』―――


 シン殿から、お祝いの言葉を頂こうと

 思います!」


拍手が起こり、私は立ち上がる。

相変わらずこういう場は慣れないが、


「シンー、頑張って!」


「ちゃんと練習したし、大丈夫じゃ」


「ピュー」


家族が同じテーブルから私を励ます。


ここはグレイス伯爵家とドーン伯爵家、

レオニード侯爵家とモルダン伯爵家……

四家の合同結婚式の会場。


ニコル・グレイス伯爵様と―――

アリス・ドーン伯爵令嬢、


シーガル・レオニード様に、

エリアナ・モルダン伯爵令嬢。


その結婚式の祝いのスピーチを頼まれて

いたのだ。


それに『試し』と言っては何だが、この四人には

いろいろと初めての事をしてもらった。


例えば『お色直し』。

和風と洋風、二つの衣装を着るために途中で

着替える事だが、


天人族からもらった着物は、特に参加していた

女性客の目を引き……

あちこちから男性陣へねだる声が聞こえてきた。


また、新郎新婦による親への感謝の手紙、

それにカップル自らが各テーブルを挨拶に

回るというイベントは、


高齢者もいる中で、負担が少なく大変喜ばれる

事となった。


そして私のスピーチの順番となり、


同時に、各テーブルにそれぞれ二つずつ、

料理が置かれていく。


「これは―――ミソスープか?」


「うむ、落ち着く香りだ……」


私がスピーチに入るからか、誰も手を付けずに

いるので、


「どうか食べながら、お話を聞いてください。

 このお味噌汁はそのために作られたので」


私の言葉で、あちこちからすする音が

聞こえてきた。


そこで私はやや緊張しながら、拡声用の魔導具に

向かってスピーチを続ける。


「なぜ今回、2つずつお味噌汁を用意したのかと

 言いますと―――


 実はこのお味噌汁は、今回の新婦である

 お二人、アリス様とエリアナ様が作られた

 ものなのです」


すると各所からどよめきが起こり、


「味噌は大豆を発酵させて作るのですが、

 そのためのこうじから、実際に味噌に

 なるまで……

 お二人が手ずからご自分の手で作られました」


『おお』『これが』と、方々から驚く声がして、


「この味噌はそもそも、鬼人族の食品で

 ありまして―――

 彼らの生活に非常に密着したものであります。


 そんな彼らの風習で、男性が意中の人に

 プロポーズする時……

 『自分のためにお味噌汁を作って欲しい』、

 というものがあるそうです」


そこで私は一息入れて、


「鬼人族の里では、ほぼ毎日お味噌汁を

 飲みます。

 つまり、一生共にいて欲しい、という意味にも

 なるのです。


 そしてアリス様、エリアナ様にこれを作って

 頂いたのは、もう1つ理由がございます」


会場はすでに静まり返って、私の話に聞き入って

くれているようで、


「料理には為人ひととなり、人柄が出ると私は思って

 います。


 そして今日、新たに夫婦となられた4人は、

 どのような家庭を築いていくのか。


 それぞれ、理想の家庭はあると思います。


 明るく笑顔が絶えない家庭、

 いつまでも仲睦なかむつまじい家庭―――


 これはあくまでも私の価値観ですが、

 私が一番と思う家庭は、


 『安心して、落ち着ける場所』だと思って

 おります」


長くなったので、呼吸と共に間を置き、


「このお味噌汁のように、ホッと一息つける、

 安心して落ち着ける……


 お二人なら妻としてそんな家庭を築ける。


 彼女たちが作られたお味噌汁を味わって頂き、

 実際にその為人を感じてもらえれば幸いで

 ございます。


 このお味噌汁と、今の話をもって―――


 若い彼らの門出を祝う言葉に代えさせて

 頂きます」


私が頭を下げると、パチパチとどこからか

五月雨さみだれ的に拍手が聞こえ、


やがて時間と共に、パーティー会場全体に

それは広がっていった。




「はー、緊張した。

 いつやってもこういうのは慣れないなあ」


スピーチを終えた後、私は自分の席に戻り、


「シン、お疲れ様ー」


「鬼人族のプロポーズか。

 うまくまとめたのう」


「ピュウ」


アジアンチックな、少女のような顔の妻と、

対照的に西洋モデルのようなプロポーションの

ドラゴンの妻が出迎え……

ねぎらいの言葉をかけてくれる。


「シン、良い話であったぞ」


「あ、ライオネル様」


冒険者ギルドのトップにして―――

前国王の兄、ライオネル・ウィンベル様が

自分のテーブルにやって来て片手を挙げて

挨拶してくる。


ドーン伯爵家とは縁続きになっているので、

王家代表として来たらしい。


「今回も面白かったな。

 まさか、新婦を主役にしてスピーチするとは」


「そうなんですか?」


小声でフランクに話すライさんに聞き返すと、


「ああ。よほどの事でも無けりゃ主役は男だ。

 そしてどれだけその家がすごいのか……

 下手すりゃ自慢演説になっちまう。


 それにあれも良かった。

 新郎新婦に、両親への感謝の手紙を

 読み上げるってヤツ―――


 多分、後で感謝の品が届くぜ。

 アリス令嬢とエリアナ令嬢、両方の父親

 からな」


あー……

新婦のお父さん、二人ともアレで涙を

流しまくっていたからなあ。

ドーン伯爵様も―――


関係改善もしていたし、やはり父親としては

娘の言葉はくるものがあるか。


「じゃあ俺はこれで。

 いろいろと挨拶に回らないといけないしな」


「お疲れ様です」


彼は立ち上がると、ふと思い出したように

振り向き、


「あ、そうだ。

 後でギルド本部の本部長室まで来てくれ。


 例の件についてちと、相談したい事が

 あるからよ」


「わかりました。

 どのみち、泊まっているのは本部ですので、

 先に戻ります」


そしてライさんが去った後、自分も挨拶責めに

なるよりはと家族と共に動き、


今回結婚した四家の他、ロック前男爵様や

シィクター子爵様、ブリガン伯爵様……

サイリック大公家にフォス子爵家、

メギ公爵家、デイザン・ジャーバ両伯爵家と、


これまでに関わった王侯貴族に挨拶して回り、

結婚式場を後にした。




「はー……

 これで貴族関係の結婚式は一段落かな」


冒険者ギルド本部で割り当てられた部屋に

帰ってきた私たちは、一息ついていた。


「あとはあの3人組?

 カート君、バン君、リーリエさんの」


「まああちらは平民でもあるし―――

 今回ほど大がかりにはならないと思うがの」


二人の妻が着替えながら、今後の結婚式について

語る。


ちなみにラッチはギルド本部到着と同時に、

サシャさんとジェレミエルさんに拉致された。

まあもう少し王都に滞在するので、面倒を見て

もらえるのはいいけど。


「そういえば、この引き出物も人気だったねー」


「アラガント・シープの毛で作った首巻きか。

 シンの言葉で『まふらー』だったかの?」


メルとアルテリーゼが、その布を首に

巻き付ける。


結婚式の相談に来られた時……

ニコル様・シーガル様と協力して倒した

魔物だが、


引き出物を何にするかも困っていたようで、

その毛皮を使う事を提案したのだ。


本来ならまず公都の子供たちのために

優先的に使うべきところ、今は綿の生産量も

上がっており、防寒には事欠かないという

事情もあったので、


肉は公都で消費する代わりに、毛皮は二人へ、

という事になり―――

その件についても非常に感謝された。


「さてと……

 2人とも、着替え終わったら何か軽く

 食べに行こうか?

 まだライさん戻っていないみたいだし」


「そだねー。

 結婚式でも食べたはずなんだけど、

 ホッとしたのか小腹がすいてきたわ」


「ココはあれがあるからのう。

 ちょうどよいわ」


そうして私は妻たちと共に、この施設の

食堂へと向かった。




「んー、コレコレ。

 お醤油とお魚、この組み合わせは反則……♪」


「まったくのう。

 ドラゴンの時は生で肉も魚も食していたが、

 この野性味、比べものにならぬ」


食堂で私たちが注文したのは―――

ネギトロ丼や海鮮丼だ。


去年の暮れから、公都『ヤマト』で囚人たちに

協力してもらって実験していたのだが……

安全確認が取れたので、その結果を王都にある

王家直属の研究開発機関と共有。


それでまずはここ、冒険者ギルドでも確認試験と

称して、生魚を使う料理を出してもらっている。


「おう、ここにいたか。

 すまねぇな、遅くなって」


「あ、ライさん」


すっかり王族からギルド本部長の格好に戻った

ライオットさんが、私たちのテーブルへと

やって来た。


「オーイ! 俺にもネギトロ丼頼むわ!


 しかし、去年から話は聞いていたけどよ。

 実際食ってみて―――

 なかなかイケると評判だぜ」


ライさんもテーブルに座って注文する。


『例の件』とはこの事で、生食はこれから

普及していくだろうが、それについて相談

したいと以前から言われていたのだ。


そこで結婚式に出る機会に、直接会って

話をしようという事になったのである。


「取り敢えず食い終わったら、本部長室に

 行こうか。

 話はそこでする」


「わかりました」


私は返事をすると、お味噌汁を口につけた。




「すまねぇな、座ってくれ」


結局はライさん、メル、アルテリーゼと一緒に

本部長室へ行く事になり、


中に入るとあの秘書風の二人……

サシャさんとジェレミエルさんがいて、


「ピュー!」


「あぁん、ラッチちゃん~!」


「やっぱりお母さんにはかなわない

 ようです……」


童顔だが腰まで伸びたブロンドを持つ女性と、

眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の女性が、

アルテリーゼの胸に飛び込んでいくラッチを

残念そうに見つめる。


「それでお話というのは―――」


「おう、あの生魚の料理についてだが。


 おおむね好評で受け入れられている。

 まあ中には、生臭いのがダメだというヤツも

 いるが……


 どちらにしろ魚の消費量は跳ねあがるだろう。

 それで、シンの世界での扱いや注意点などを

 聞いておきたい」


これが相談の主題だ。


身内だけでの導入であれば、その波及範囲も

限られていたけど、


国に関わる立場としてはそうもいかない。


予め前例や問題点を知っておけば対応も楽だし、

情報が増えるに越した事はないだろう。


そこで私は、実際にどのような運用が行われて

いるのか、知識の限り答える事にした。




「乱獲をすれば当然減る、か。

 そのため国として制限する必要もあったと」


「大型の船で、さらに網を使って漁をするように

 なれば、その心配も出てくるでしょう」


現状、船の技術がまだ未発達なのでその恐れは

無いだろうが……

生態系もろくにわかっていない以上、うかつに

話は勧められない。


「ただ新たな産業になりえます。


 今のところは釣り竿がありますし、

 それを使って魚を獲る事が推奨すいしょうされれば」


「働き口の確保か。


 そういや公都、もう人口が5千人に

 迫っているんだろ?」


「そうなんですよね―――

 かなり増えています。


 しかも今や公都だけでなくその周辺に、勝手に

 掘っ立て小屋やテントみたいなのを張って、

 住む連中が出て来た事も地味に問題化しつつ

 ありますし……」


いわゆるスラム問題だ。

そして妻たちも話に参加し、


「亜人も人外も人間も、今赤ちゃんいっぱい

 見かけるよー」


「安全な場所に―――

 美味い食い物があるのじゃからな。

 当然というべきかの」


「ピュウ」


そう。公都はベビーラッシュとでもいうべき

状態になっているのだ。


彼らが成長する前に、何としてでも就職口や

仕事を増やしておかねばならないという事情も、

背景にあったのである。


「おおう、そんな状態とは」


「それはぜひこの目で確かめなければ……!」


それを聞いて、サシャさんとジェレミエルさんの

目が妖しく光る。

二人とも無類の可愛いもの好きだからなあ。


「王都も似たような感じだぜ。

 本格的に、児童や子育て支援に乗り出した

 からな。


 ドーン伯爵領の真似だが、人口が増える、

 つまり国力が増えるってのは大歓迎だからな」


実際、日本も少子化が叫ばれるようになって

久しいが……

人口が減るという事は、税収基盤の崩壊と

労働力の壊滅を意味する。


極端な人口増加も問題が無いわけではないが、

その逆もまた然りなのだ。


「今後、食糧事情に関する産業は増えていく

 でしょう。


 ただこちらの世界では、食事は絶対では

 ありません。

 それを差し引いて考えなければ」


子供はともかく、成人して魔力制御が出来る

ようになれば、魔力を生命維持に回す事で

食事は要らなくなる―――

水も魔法で作り出せるし、考えてみれば

こちらの方がよっぽどチートだ。


「だなあ。

 極論すればなくてもいいって事だし。


 ただ、シンの世界でいうところの公共事業か?

 それで暮らしを保証させて安定させる事が

 出来るのなら、確かに安上がりだ」


つまり、職にあぶれて反社会的な存在に

なられるより……

ある程度食い扶持ぶちを保証して、生計を

立てさせる事で、治安を安定させる。


これはピケティという経済学者の論だが、


格差を広げ過ぎるとまっとうな手段で、

上を目指す事を諦めてしまう者が出て来る。


それに対して治安対策費などで、結局は

国家予算に跳ね返ってきてしまう。


だからその前に、ある程度配分はしておけ―――

という理論だ。


大学時代に経済学も学んでいたので、

ある程度そういう知識も自分にはあり、

それらを余すところなくライさんを通じて、

ウィンベル王家に伝えていた。


「てゆーかさー、シン。

 本当に向こうでは『一般人』だったの?」


メルが会話の途中で話に割って入り、


「う~ん……

 平均か、中の下ってところじゃないかなあ」


「シンでその立場か。

 恐ろしい世界よのう」


アルテリーゼの言葉に秘書二人がうなずき、


「シンさんから教えて頂いた『簿記』という

 方式でしたっけ?

 あれは衝撃でしたよ」


減価償却げんかしょうきゃくという考えも―――

 使用年数に応じて価値を下げていく、

 アレで今後必要な予算とかの見通しが直感的に

 わかるようになりましたからね。


 ギルドの会計担当が『革命だー!!』って

 叫んでいました」


これも聞きかじりの知識ではあったが、

伝えておいた。


耐用年数などを予め設定し、少しずつ分割して

価値がゼロになっていくという意味で、


建物の建て直しとか、いきなり大きな予算が

必要になる前に、あとどれだけ持つのかが

わかるだけでも、財政を把握するのに役立つ

だろう。


そしてそれを聞いているメルとアルテリーゼは

『???』と首を傾げていて、


「あー、それについては後で説明するから……


 他に何かご質問はありますか?」


私が話を元に戻すと、


「いや、だいたいはもう済んだ。


 で、ここから先は『依頼』なんだが―――」


今度は私が首を傾げる。


「今までの話とは別枠ですか?」


「いや、関係はある。


 カリュブディスの貝殻を飾ってある

 漁村があるだろ」

(■77話 はじめての さいだー参照)


確か今でも昆布や海草を取り引きしている

村で……

今は鬼人族にも出向いてもらって、

カキの養殖とかを頼んでいるけど。


「でな、そこの鬼人族にも協力してもらって、

 漁場の選定をしているんだ。


 依頼というのはそこの調査、そして何か

 脅威とかあれば取り除いて欲しい」


なるほど。

大がかりに漁をするとなれば、場所の選択も

重要になってくる。


「漁はどういう形にするんですか?」


「以前、ランドルフ帝国の連中が来た時、

 船に乗ってみんなで釣りに出かけたって

 話を聞いてな。


 当面はそういう形を考えている」

(■192話

はじめての かいなんきゅうじょ参照)


そこで話を聞いていた妻二人が、


「あー、またクラーケンとか出て

 来ないかなー」


「久しぶりにあの、焼いた上に醤油をかけたのを

 食べてみたいのう」


「ピュイ」


私は微妙な顔になって、


「討伐依頼じゃないんですから―――

 本来は何も出て来ないに越した事は

 無いんですからね」


そう言うと、室内の全員が苦笑した。




「おお、シン殿!


 誰かを応援に寄越すとは聞いてましたが、

 まさかシン殿直々じきじきにとは」


二日ほど後……

正式に依頼を受けて、あのカリュブディスを

討伐した漁村に向かった私たちは、


そこでいろいろと技術指導している、鬼人族の

青年に出迎えられた。


「お久しぶりです。

 頼んでいたお仕事は順調ですか?」


「ええ、今のところこれといって困った事は

 起きておりません。


 地元の方々も協力的で、牡蠣の養殖も

 すっかり覚えてくれました」


二メートルはあろうかという長身の彼と、

私は見上げながら話す。


「それと、タラコが出来ました。


 シン殿が鬼人族の里の物で再現出来る物は

 可能な限り、と仰っていましたので」


「えっ!?」


思わず声が出てしまった。

魚卵ぎょらんは多分あるだろうとは思っていたけど―――


「たらこ?」


「とは何じゃ?」


メルとアルテリーゼが話に入ってくる。

(ラッチは冒険者ギルド本部預かり)


「魚の卵の塩漬け、とでも言えばいいかな。

 もしかしてスジコとかも?」


「おお、よくご存知で。

 ただあれは寒い土地にいる魚なので、

 こちらの大陸では、もう少し北の土地で

 なければ難しそうですが」


まさか魚卵まで再現出来る日が来るとは……

寄生虫対策はすでに冷凍技術があるし、

その魚を使えば安全なはず。


「ありがとうございます!

 しかし、いいんですか?

 そこまでこちらに教えて頂いても―――」


すると彼は首を左右に振り、


「何を仰いますやら。

 鬼人族以外でも生食を可能にする方法を、

 シン殿は見つけてくださいました。


 我が母も人族でございましてな。

 これで家族一緒に同じ物が食べられると

 思えば、これくらいで恩は返せませんよ」


どうやらあの生食技術に対する鬼人族の期待は、

予想以上に高かったようだ。


「それじゃ、そろそろ行こっか?」


「うむ。

 『乗客箱』を持ってきておるでな。

 そなたも乗ってくれ」


「はいっ!」


そして案内役の鬼人族の青年と共に、

私たちは空から、選定場所の見回りに

飛び立った。




「あまり沖合には出ないと言われましたので、

 その条件下で、なるべく魚がいそうな場所を

 選びました。


 ここを含め、三ヶ所ほどになります」


海上を飛びながら、案内役の彼が説明してくれ、


「そういえば鬼人族の里では、どんなふうに

 漁をしているんですか?」


ふと疑問に思った事をそのまま質問してみると、


「網が中心ですな。

 小さな船に乗って、個別で海に出るのです。


 川や湖なら、釣りもいたしますが」


鬼人族が漁業を営む漁村では、それこそ

牡蠣かき海苔のりの養殖、それに干しアワビ、

みりん干し、干し昆布、かつお節―――

寒天やいろいろな魚の干物など、多種多様な

海産物があったが、その取り方までは

見ていなかった。

(■195話 はじめての ついせき

(どらせなれんぽう)参照)


日本がルーツなら釣りも網も当然あるだろう。


「それより、こちらの釣り竿には驚きました。

 魔力を流す事で疑似餌が動くとは……


 私もしてみましたが、魚の食いつきが

 いいような気がします。

 これも早く里に持ち帰りたいものです」


そこが、魔力至上主義というか魔法前提の

この世界とは異なる点だ。


鬼人族は私と同じく、先祖が魔力・魔法の無い

世界から来たので―――

魔法無しで道具を使う事に抵抗は無いのだろう。


話をしながら、次々と漁場の場所へと飛び続け、


「さすがに飛んでいると早いですな。


 ここが最後の漁場候補です。

 おそらく、一番漁獲を見込める場所に

 なるかと」


自分は素人なのでよくわからないが、

鬼人族の彼がそういうのであれば、

そうなのだろう。


「何か脅威とやらはなさそうだねー。

 ちぇっ、クラーケンのフライはお預けかぁ」


メルがつまらなさそうに話し、亜人の同行者が

やや困ったような表情になる。


『いや、そうでもなさそうだぞメルっち。

 クラーケンかどうかはわからぬが』


伝声管からアルテリーゼの声が伝わり、

何事かと海面をのぞくと、


「何だ!?

 いきなり海がうずを巻き始めたような……」


それまで穏やかだった海面が、鳴門の渦潮の

ように流れで円を描き始め、


「まさか、竜巻貝トルネード・シェルが!?」


青年の言葉に視線を向けると、


「巨大な貝で、海中で強力な渦巻きを作ると

 言われている魔物です。


 ここが一番理想的な漁場だったのに―――」


無念そうに彼は海を見つめる。

そこでまた伝声管から、


『脅威というわけだな、シン』


「そうだね」


外のドラゴンの妻と『脅威』発見を確認し合い、


「討伐は可能だろうけど、どうやって

 引き上げるかだなあ」


「ねーねー、その竜巻貝とやらって

 食べられるの?」


人間の方の妻の質問に、彼はきょとんとして、


「は、はあ。

 まだ成長しきっていない、小さいものなら

 食べる事もありますので……

 大丈夫とは思いますが」


「それなら、なるべく岸までおびき寄せ

 たいなあ。


 アルテリーゼ、なるべく水面近くを

 飛んで、誘導してみてくれないか?」


『りょー、やってみる』


そして『乗客箱』は高度を下げ始めた。




「おー、ちゃんとついてくるな。

 こちらを獲物と認識しているのかな?」


『海に落ちたら、渦に巻き込もうと

 しているのであろう』


海上からおよそ三メートルほどを飛び続け、

今のところ誘導には成功していた。


同時に水深も浅くなり始め―――

その全容が明らかになりつつある。


地球でいうところのサザエ。

その巨大バージョンというところだ。

それがかなりの速度で移動し、『乗客箱』の

下をついて来ていた。


『おっ?』


その時、海面から水鉄砲のように飛沫しぶき

飛び出して来た。


「あちらさんも焦ってきたみたいだねー」


「おお、落とそうという事では!?

 は、早くこの場を離れなければ……!」


単純に驚くメルと、対照的に顔を青ざめさせる

鬼人族。


あまり長引かせるのも彼の心臓に悪そうだ。

そこで私は伝声管を通じ、


「海岸近くまで来たから、これくらいで

 いいよ、アルテリーゼ。


 このまま真上に飛んでくれ。

 私が飛び降りるから」


『りょー』


アルテリーゼが答えた後、メルが、


「私は?」


「メルは少し遅れて飛び込んでくれ。

 出来れば獲物を運んで欲しいけど、

 ダメならいいから」


「りょー」


と、同じ答えを発した後、


「んじゃ行ってきます」


口をパクパクさせる鬼人族の前で、

私は渦巻きに向かって飛び降りた。




渦の直径はおよそ十メートルほど―――

そして視覚で認識している相手は巨大サザエ。


意外と移動速度が早いのも厄介だ。

そのへんも含めて無効化しなければならない

だろう。


「外殻の殻を持つ軟体動物で……


 それだけ巨大で、かつ渦を引き起こし、

 移動速度が早い事など、

 ・・・・・

 あり得ない」


すると、水面直前で渦が弱まるのが確認出来、


私の後に続けてメルが飛び込んだ時には―――

水中で完全に動きを止めた、巨大サザエと対面

する事が出来た。


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