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2020年2月10日


私には3日前に彼氏ができた。楽しい高校生活の中でのきっと一生忘れない思い出として、将来も輝くんだろうな。私は彼のことがすごく好き。想いを伝えられなくて遠くから見るだけだったけれど、彼が…凛君が私を見つけてくれた。

「叶(かのう)。」

凛君の私を呼ぶ声が好き。目線を外すのもぶっきらぼうなのも、恥ずかしいからなんだよね。君のことならわかるよ。付き合って3日経った今も君は恥ずかしそうにする。居心地が悪そうにする。でもきっと慣れたなら、私たちの距離は近づくよね。君が逃げ出したそうにしているのを見る度、告白のこと思い出すよ。放課後屋上に私を連れ出した。

「…好き。」

君は言葉が少ないけれど、その分言葉が優しい。そういうところが好きで、愛おしい。嬉しすぎて泣いてしまった私を見て、戸惑いながらもずっと横にいてくれた。

こうやって一緒に帰ってる今も、車道側を歩いてくれて、私の歩幅に合わせてくれる。好きだなって思う。言いたくなる。だけど私は話せないから目線で全部伝えたい。君が私を見ていなかったとしても。ずっと続いて欲しかった。この時間だけがずっと続いて欲しかった。欲張りと思われてもなんでもいい、優しいこの人のそばにいたかった。だけど叶わない。願っても縋っても叶わない。時間がないから、あと1週間をきった私には、この人に何かしてあげられることも無い。この人は知らずにそばにいる。私の時間が残りわずかなことも、告白されて泣いた理由も全部知らない。それでいい、それで終りたい。これが正解で他なんてないのだから。



2020年2月14日


いよいよ先生が言う私の最期の日の前日になった。実際ここ数日で体調が著しく悪い。今日は休日で、私は最後のつもりで凛君と会った。意識を保つのに必死だ。だけど張り付いたような笑顔で平気なふりをする。まだ生きてる。生きてるから、冷や汗をかくんだ。生きてるから脈が響く。生きてるから、凛君を見れるんだ。

「…叶。」

凛君は相変わらず俯いていた。だけど声のトーンがいつもより低かった。凛君は自分の家にいるくせに居心地が悪そう。

「叶、今日なんの日か知ってる…?」

そういえば今日はバレンタインデーだ。今に必死で言われるまで用意したお菓子をあげることを忘れていた。

「バレンタインだよね…これ、もらってほしい。」

いつも通りの声で話せたはずだよね。

「ありが、とう…。開けていい?」

「作っ、たんだけど、失敗してしまって…」

「もらえることが…嬉しいよ。」

小声でそう言った君は包みを開けて驚いたような顔をした。

「なんで、これにしたの。」

低い声で私に聞いた君。私は舌が回らなくなった。怒ってたから。

「えっ、と…嫌いだった…?」

「違う、これは…っ」

辛そうな君を見る私に君は初めて目を合わせて言ったよね。

「この間の帰り話してただろ!バレンタインの意味の話を…!叶は言葉で伝えづらいだろうから、それ調べて、自分の気持ちに合ったお菓子を頂戴って…!」

私は覚えてなかった。君の必死な様子を見ても、思い出せなかった。酷いよね。謝りたくて、やり直したくて、どうしようも無い。

「なんで…嫌い…なんだよ…。」

嫌い?そんなわけない。私は君が好きだと思って買ったのに。君を思って選んだものが、嫌いの意味だったなんて。…本当に自分が嫌になる。何もできなくなる体も大切な人に想いを伝えられない口も、全部嫌いだ。泣くしかない。勝手に目から溢れる涙が幾つも自分の服に滲んだ。でも君からしたら私は、嫌いでごめんって言ってるように見えたんだよね。仕方ないよ、そう思われても仕方がなかった。

「もういい、」

君は包丁を持って私の方に寄った。

「好きすぎて、ごめんね。」

そう言って君は私を刺そうとした。だけど私は逃げた。凛君が追いかけないのを見て、呼吸するのに精一杯の体で、病院で先生に運動は控えろって言われたくせに必死で走った。凛君の家を出て、道を何度も曲がって、そうしたら病院の見える交差点に着いた。このまま病院へ行ってしまおうか。信号を待っている間呼吸を整えようとした。うるさい脈。痛む体。飛びそうな意識。でもそれが刺されたから、だなんて気づけなかったよ。

バレンタイン_シンドローム

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