Side蒼
蓮の家から帰ってきた俺は、腹立ち紛れに家中のレトルト食品を食い漁って、そのままふて寝を決め込んだ。
着替えはしたけど髪を乾かすのすら面倒で、風呂にも入らなかったのが悪かったのかもしれない。
翌朝起きてみると、ひどい倦怠感に襲われて体温計で測ってみると、38℃近い熱。
完全に風邪をひいていた。
ああ、もう踏んだり蹴ったり…。
あちこちひっかきまわして、ようやく風邪薬を飲むと、最後に風邪を引いた数年前のうろ覚えの記憶をたよりに、寝込む準備をする。
最後に学校に連絡をすると、俺はベッドに倒れ込んだ。
あーしんどい…。
昨晩のイタイ行動で心がしんどいのに、その上身体までしんどいとは…神様、これは罰かなんかですか??
なんで俺、あんなことしちまったんだろう…。
どんなに思いつめても、キス以上はしないって誓ってたのに…。
けど、蓮も蓮だ…。
思いの外抵抗が弱かったから、つい堪えられなくなって、しかも、あんなに気持ちよさそうに受けるから、どんどん歯止めがきかなくなってしまった。
絶対に初めてなはずだろうに、俺のリードについてこようと健気で…、それでいて、一回一回ついばむごとに、いちいち初心な反応してきて…。
あーもう、思い出しても、可愛すぎて死にそうになる。
蓮は完全に俺とのキスに夢中になってた。
次第に大胆に重ねていっても、拒むどころか俺の腕に身をゆだねてきて…。
それが嬉しくて、やっとあいつの頑なな心をほだすことができたのかと、期待してしまったのに、灯りがついて驚いた拍子に、我に返ってしまったらしい。
せっかく溶かしかけた意固地さが、またあいつの心を固めてしまった。
むかつく。
あんなにガクブル震えて、本当は俺なしじゃいられないくせに。
あんなに気持ちよさそうに、俺に抱かれていたのに…。
どこまでツンデレなんだよ。
むかつく。
覚悟していたことだけど、
あそこまで頑なに拒否されると、やっぱしんどい。
でも。
こんな凹んで、身体もダルいのに、それでも俺は蓮を求めてしまう。
今ここに蓮が来てくれたらな、なんて。
きっと、ただの幼なじみでいたなら、
『あんたバカ?』なんて呆れながら、それでも一生懸命に看病してくれたんだろうな。
諦められない。
ただの幼馴染じゃ、嫌なんだ。
そんなツンデレなところもひっくるめて、俺は蓮のすべてが好きだから。
だから、そのすべてを手に入れて、俺だけのものにしたくて仕方ないんだ。
振動が伝わってきた。
枕元に置いていたスマホに着信が来ていた。
岳緒からだ。
しんみり気分をすっ飛ばしてくれそうな人物からの着信は素直に嬉しくて、すぐにタップした。
「もしもし」
『あ、蒼?なんだよおまえ、ズル休みしやがって』
意外にも、その第一声は暗く沈んでいた。
「風邪ひいたんだよ。担任言ってなかったか」
『はぁ?昨日無断でサボるから罰当たったんだろ。先輩はキレていつも以上に厳しくなるし、俺たちとんだとばっちり食らったんだからな。あーあ』
「なんか岳緒、元気ないな?」
『わかるぅ!?はぁーさすが蒼…!気づかいはそこいらの女子以上…っ』
さてはこいつ…。
俺を心配してじゃなくて、愚痴吐きたかったから掛けてきたな…。
まぁいい…。
黙って寝込むのもつまらねーと思ってたところだ。
暇つぶしに付き合ってやるか。
長くならないことを願うが…。
「なにがあったんだよ?」
『実は俺、フラれたんだよね』
「彼女に?」
『そう。本当は私のことなんか好きじゃないんでしょ!?なんてキレられて…』
それは自業自得だろ。
と言いかけて止める。
けどそうとしか言いようがなかった。
とにかくこいつは節操がない。
彼女がいるのに他の女に目移りすることなんて日常茶飯事だ。
特に蓮に対する執着度と言ったら…。
悪いが、心の中では『いい気味だ』と言っておくぞ、岳緒。
『デートしてたら突然ビンタしてきて『私のことなんかホントはなんとも思ってないんでしょ!』って騒いでさよなら…。
なんか寂しくてさー、人肌が恋しくてさぁ…。ああ、蒼、今すぐ来て哀れなこの俺を抱き締めてっ』
「きも」
このチャラ男には、俺の爪の垢を煎じて飲ませてやればいいんじゃないだろうか。
って言っても、俺が幼なじみに何年も片想いしてるなんて言ったら、絶対バカにしてくるだろうけどな。
「まぁそう凹むなよ。おまえならまたすぐに次の女できるって」
けど、岳緒の落ち込み方は、少し深刻度が強かった。
『俺さ…今回のコはけっこう本気だったんだよね…。大事にしていたつもりだったんだけどな…。『岳緒には、他に好きな人がいるんでしょ?』って言われちまって…。どゆこと?』
他に好きな人?
「…知らねぇよ。自分で考えろよ」
『冷たいなぁー。そーいうーおまえはぁ、彼女つくらねぇの?』
「あ?」
『いっつも謎なんだけどさぁ、蒼ってモテんのにどうして彼女つくんねぇの?…もしかして、ホモなの?』
「あ!?」
『実は…親友の俺にずっと片想いだとか…!はぁあ…!!ごめん…蒼は綺麗だけど…やっぱヤルなら柔らかい女の子のほ』
「死ね」
…電話でなきゃよかった。
頭が余計にグラグラしてきた気がする。
切ってやろうか、とスマホを耳から離したけど、
『ま、そりゃ冗談だけど…。でも、羨ましいよ。そういうの』
不意に真面目な声が聞こえて、留まった。
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