(えっ……)
私が何か言うより前に、部長は後ろ手で鍵を閉める。
「え……? あの……」
うろたえているうちに彼はツカツカと私に歩み寄り、抱き締めてきた。
「!? ちょ……っ、待っ……」
私は驚いて身を強張らせ、部長を見上げる。
すると今日も腹が立つぐらい顔が整っている彼は、切なげに笑ってからキスをしてきた。
「ん……っ、む、――――ぅ、うぅ……」
肉厚な舌にねっとりと口内をまさぐられ、快楽を教え込まれた体が発情していく。
(待って……! 駄目! ……会社で駄目だって!)
私は必死に自分に言い聞かせ、両腕を突っ張らせてグイッと部長を押し返す。
「駄目! …………です……っ」
部長は驚いたように目を瞠ったけれど、自身の濡れた唇をペロリと舐めて私を見つめる。
相も変わらず妖艶で美形な彼に見とれてしまいそうだけど、言いたい事が沢山ありすぎる。
「……っ、な、何なんですか! 先日から! 起きたらいないし、高額なジュエリーはあるし、くれるっていうし、受け取れないし、……何なの!」
混乱した私が大きな声を上げると、会議室に声がキンッと響く。
取り乱したのを自覚した私は、出入り口のほうを見て誰も来ないのを確認し、大きな溜め息をついた。
「……勘弁してくださいよ……。一晩だけの遊びなら、もう放っておいて」
弱音じみた声を漏らすと、部長は椅子を引いて座り、長い脚を組む。
「……お前、大きい声出せるんだな」
「はぁ? ……何ですかいきなり……」
困惑した私はまた溜め息をつき、彼から離れた所に腰かける。
チラッと腕時計を見ると昼休みが終わるにはまだ余裕があり、安堵の意味が含んだ、何度目になるか分からない溜め息をついた。
「……とにかく、ヴァンクリは受け取れませんから、誰か仲のいい女性にでもあげてくださいよ」
「女友達なんていねぇよ。……妹からも拒否られたから、お前にやるって言ってるんだ。誕生日なんだろ? 誕生日でクリスマスも近いのに、元彼は結婚するわでズタボロになってるって言ってたじゃねぇか」
「~~~~だからって、これはやりすぎです。私はただの部下で、部長と親しくした覚えもありません。私に『要らなかったら売れ』って言うなら、部長が自分で売ればいいじゃないですか」
部長はテーブルに頬杖をついて溜め息をつく。
「可愛くねぇ女だな。じゃあ、何が欲しいんだよ」
「ですから部長から誕生日を祝ってもらう理由はありません。私の事、好きなんですか? 違うでしょう? 今まで仕事の話以外、ろくに話した事ないんですから」
どうだと言わんばかりに彼を睨み付けると、部長は少し間を空けてから私を見つめて言った。
「好きだって言ったら?」
「えっ!?」
予想外の答えが来て、私は今度こそピキーンと固まってしまった。
「お前の事、ずっと見ていて、ずっと想い続けていたって言ったら?」
目をまん丸に見開いて部長を見つめると、彼は少し色素の薄い目で私を見つめ返す。
それからクスッと笑って息を吐くと、「バーカ」と私の鼻先を指で弾いた。
「いだっ」
両手で鼻を押さえて部長を見ると、彼は立ちあがって資料を各席の前に配り始める。
それから、世間話でもするような軽さで尋ねてきた。
「今週末、飯行かないか?」
今度こそ私は途方に暮れ、ムキになっていたのも忘れて素で答える。
「……何でですか」
「こんだけ関わりができたなら、じっくり話してみてもいいかと思って」
資料を配るにも、部長は仕事がスピーディーで丁寧だ。
私ならさっさと置いて終わりにするのに、彼はフワッと資料を置いたあとの角度も微調整している。
体型に合ったスーツ姿は正直格好いいし、普通、こんな人に迫られたら一発で落ちてもおかしくない。
でも、誰もが「格好いい」と思う人だからこそ、沼ったら最後だと思い、必死に踏みとどまっている。
こんな人が私を好きな訳がない。絶対に裏がある。
女性を弄んで喜ぶ人には思えないけど、警戒しすぎるぐらいで丁度いい。
昭人の事で傷付いたばかりだからこそ、私は急接近してきた部長を好きになって堪るかと、必死に理性を総動員させていた。
コメント
3件
魅力的だもん🫶好きにならずにいられないね🥰
ムリに理性を総動員しなくたっていいのに〜🤭ご飯食べに行って、うーんすぐ好きになっちゃうよ😍ってもう好きだよね⁉️
でも、好きになっちゃうよ。こんなイイ男♥️😘(*´艸`)❤