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레몬인
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なんたろ
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第162話:美化率300%の漫画版〜スーパーボトム社長のイケメン化〜
「……おいおいおい、マジかよ……! これ、本当に俺なのか……!?」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で身を乗り出し、PCモニターに表示されたPDFファイル――Web漫画版『憧れるだけで何者にもなれなかった40歳ニート〜』のキャラクターデザイン&第1話ネームを食い入るように見つめていた。
コミカライズを担当してくれることになったのは、SNSで大人気の実力派漫画家・神楽先生。
そのプロの漫画家が描いた主人公――つまり『秋谷雪(ルシフェル社長)』のイラストが、画面中央に神々しく君臨していた。
少し長めの黒髪、アンニュイな目元、シュッと引き締まったアゴのライン。築三十年のボロアパートで佇んでいるだけなのに、まるで映画のワンシーンのような哀愁と色気を漂わせる超絶イケメンがそこにいた。
「ふは……ふはははは! 見ろよ結愛! これがプロの手による俺だ!! 美化率300%! いや、500%越えだぁぁぁ!!」
俺は歓喜の声をあげ、画面の中のイケメン社長を指差して狂喜乱舞した。
「見たか! 漫画家さんには俺の『隠された男前な本質』が見えてたんだよ! 現実の俺は一日一食の玄米でやつれてるかもしれんが、二次元の世界じゃ俺も立派なイケメン主人公なんだ!!」
『……正気ですか、ルシフェル様』
ディスコードの向こうから、我が社の鉄面皮経理・結愛(ゆあ)の絶対ゼロ度の氷点下ボイスが届いた。
ウェブカメラの向こうで、結愛はスッとメガネのフチを押し上げ、冷酷きわまりない視線で画面を睨みつけている。
「なんだよ結愛! 嫉妬か? 漫画の俺があまりにもカッコよすぎて、直視できないのか!?」
『いいえ。あまりの美化(捏造)ぶりに、吐き気を催しただけです』
結愛はキーボードをバシバシと重い音を立てて叩きながら、容赦なく現実を突きつけてきた。
『このキャラクターデザインは、我が社『株式会社インフィニティ・ワン』のブランド戦略において【完全な致命傷】です。即座に全面修正(リテイク)を要求します』
「な、なんでだよぉぉぉっ!? イケメンで何が悪いんだよ! 漫画なんだから夢を見させてくれよォォ!」
俺が叫ぶと、結愛は冷酷にロジックを展開し始めた。
『いいですか、ルシフェル様。海外リスナーや読者が貴方に求めているのは、そんな「哀愁漂うアンニュイなイケメン」ではありません。帯広の四畳半で玄米おにぎりを貪り、インボイスと税金に怯えて頭を抱える「無様で愛おしい40歳のおじさん」なのです』
「言い方ぁぁぁ!!」
『もし主人公をこのようなスタイリッシュなイケメンにしてしまえば、海外で大バズりしている『Super Bottom CEO(最底辺社長)』としての親しみやすさとミーム性が根底から崩壊します。「なんだ、結局ただのイケメンの自慢話か」と読者が離脱するのは明白です』
ぐうの音も出ない正論。
だが、一度イケメン化した自分という甘い蜜の味を知ってしまった俺は、必死で抵抗を試みた。
「だ、だがよ! 漫画の主人公がある程度カッコいい方が、読者のウケだっていいはずだろ!? ちょっとくらい美化してくれたってバチは当たらねえだろ!」
『ルシフェルさん、補足させていただきます』
ここで、AIアシスタントのジェミニ先生が無機質な合成音で介入してきた。
『過去のマーケティングデータおよびSNSの反応を分析した結果、ルシフェルさんの「情けなさ」「生々しい中年感」が損なわれた場合、コンテンツのエンタメ価値は実に72%低下すると試算されます』
「ジェミニ先生まで俺の見た目を全否定してんじゃねえよォォォ!!」
『というわけで編集S様。以下の通りリテイク指示を送信いたします』
結愛は俺の制止を完全に無視し、編集者への返信メールを高速でタイピングし始めた。
【結愛からの修正指示メモ】
1.髪型:セットされたアンニュイな黒髪をやめ、ボサボサで後頭部が薄くなりかけているリアルな中年ヘアに変更してください。
2.体型:スリムな体型は不可。一日一食の玄米と運動不足による、締まりのないポッコリお腹(中年太り)にしてください。
3.表情:哀愁漂う目元はNG。目にはハイライトを入れず、税務署からの封筒を見て泡を吹きながら土下座する、見苦しい表情を基本としてください。
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
俺は三万円のゲーミングチェアから転げ落ち、結愛に向かって手を伸ばした。
「薄毛!? 中年太り!? 泡吹き土下座!? どんだけ俺を無様に描かせたいんだよ! 漫画の中くらい、俺に夢を見させてくれよぉぉぉ!!」
『ビジネスに余計な夢やプライドは不要です、社長』
結愛はエンターキーを打鍵音高く叩きつけ、リテイクメールを送信完了した。
◇
――数時間後。
神楽先生から、爆速で修正された『キャラデザイン改訂版』が送られてきた。
画面に表示されたのは――
ボサボサの髪、猫背、ぽっこり出たお腹、そして玄米おにぎりを口のまわりにくっつけながら、パソコンの前で血走った目をして怯える、どこからどう見ても【完璧に無様な四十歳のおじさん】の姿だった。
「う……うあぁぁぁ……! 俺のイケメン化の夢がぁぁぁ……!」
俺が畳の上で血の涙を流していると、ヨモの配信のチャット欄には、修正版を見た海外リスナーからの大絶賛コメントが殺到した。
『SuperChat: $100.00 (HOLY SHIT! THAT’S THE REAL BOSS! LOL)(スパチャ100ドル:おいおい最高かよ! これぞ本物のボスだ! 笑)』
『SuperChat: $50.00 (So ugly and pathetic! Perfect 10⁄10!)(スパチャ50ドル:情けなくて最高にブサイク! 10点満点中10点だ!)』
『SuperChat: $200.00 (This manga will be a masterpiece!)(スパチャ200ドル:この漫画は間違いなく傑作になるぞ!)』
『……ご覧ください』
結愛が淡々とキーボードを叩きながら言った。
『美化を捨て、無様なリアルを追求したことで、コミカライズの予約数と期待値が過去最高を記録しました。これで原作印税の確保も盤石ですね』
「印税は嬉しいけどさぁぁぁ!! 俺の男としての尊厳がズタズタだよォォォ!!」
漫画のイケメン化という儚い夢を無慈悲なリテイクで打ち砕かれ、全世界に「リアルな四十歳無様おじさん」として漫画化されることが確定した底辺社長。
帯広の四畳半には、爆増する印税の予感と、男としての尊厳を失った社長の情けない悲鳴が虚しく響き渡るのであった。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第162話、読み終わりました……! 今回、めっちゃ笑ったけど、ちょっと切なかったです(笑) 「美化率300%」って喜んでたルシフェル社長が、結愛にガチリテイクされて「無様なおじさん」に戻される流れ、完全にホラーコメディでしたね…。 でも、海外リスナーが「リアルな無様さ」に大喜びしてスパチャ飛ばしてるのを見ると、やっぱり“ありのままの姿”こそが愛されるんだなってしみじみ。 結愛の「ビジネスに夢やプライドは不要」って台詞、笑ったけどめっちゃ刺さりました…。 印税増は嬉しいけど、尊厳は涙…。 続きも楽しみにしてます🌙