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コメント
1件
うわぁ…もう読み終わった後のこの余韻がたまらん😭💕 嶺刃が「困らせたくなかった」って言ったところ、グッときたよ…。自分の気持ちより相手を優先するって、めっちゃ切ないけど尊い。汀生の優しい誘導も、照遠が廊下に立ってたのも、全部が丁寧で心に染みた。欲は消えてないけど、それでも理性を選んだ嶺刃、かっこよすぎるよ…!次が待ち遠しい🌸
#🌀🌧️⚡️
低気圧
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第3話 困らせたくなかった
「嶺刃。ここへ座れるか」
汀生に促され、俺は寝台の縁へ腰を下ろした。
背後で扉が閉じる。
照遠の気配が遠ざかった途端、追いかけたい衝動が身体の奥から突き上げた。
だが、動かなかった。
ここへ入ることを選んだのは、俺だ。
汀生は何も尋ねず、棚から香炉を下ろした。香をひとかけ入れ、傍らに置いた小さな調律弦へ指を添える。
「横になれそうか」
「……まだ、無理だ」
「分かった。座ったままでいいよ」
低く澄んだ音が、ひとつ鳴った。
細い余韻が室内を巡り、静かに消えていく。
「音が消えるまで、ゆっくり息を吐いてみようか」
言われた通りに息を吐く。
途中で呼吸が崩れた。
汀生は何も言わず、同じ音をもう一度鳴らした。
一度目より、わずかに長く吐けた。
香炉から立ちのぼる淡い香が、熱を押さえつけるのではなく、その周りへ静かに沈んでいく。
熱は、まだある。
照遠を欲しいと思う気持ちも消えていない。
それでも、荒れていた呼吸が少しずつ自分のものへ戻ってくる。
何度目かの音が消えたあと、汀生が柔らかく言った。
「君はほんとうに、優秀な霊獣だよ」
顔を上げる。
「自分の限界を分かっていて、それでも理性を選べる。それは、誰にでもできることじゃない」
「……優秀だからじゃない」
「うん」
汀生は続きを急かさなかった。
話さなくてもいいのだと分かったからこそ、言葉がひとつだけこぼれた。
「あの人を、困らせたくなかった。それだけだ」
「そうか」
汀生は、それ以上の意味を探ろうとはしなかった。
「なら、今夜はそれで十分だよ」
また一音、静かに響く。
「今は何も説明しなくていい。身体を休めよう」
強張っていた肩から、少しだけ力が抜けた。
汀生が寝台の枕を整える。今度は、横になることができた。
目を閉じても、暗がりの向こうに照遠の姿が浮かぶ。
名を呼んだ時、足を止めた背中。
触れようとして、触れなかった手。
「……照遠は」
そこまで口にすると、汀生は扉の方へ耳を澄ませた。
「まだ外にいるよ」
「帰っていないのか」
「うん。さっきから、ずっと廊下にいるよ」
胸の奥に残っていた硬さが、ようやくほどけた。
「明日になっても、俺の言葉は変わらない」
「そうか」
汀生の声は、眠りを邪魔しないほど静かだった。
「なら明日、自分の声で伝えればいいよ」
最後に弦が鳴る。
その余韻を追って息を吐くと、今度は最後まで途切れなかった。
欲は消えていない。
照遠を選んだ気持ちも、何ひとつ薄れていない。
ただ、そのすべてを抱えたまま、俺は眠りへ沈んでいった。
*
嶺刃の呼吸が深く揃うまで待ってから、汀生は香炉の火を弱めた。
医務室の扉を静かに開く。
照遠は、先ほどとほとんど同じ場所に立っていた。
「よく眠っているよ」
その言葉を聞いて、照遠がようやく息を吐く。
「……そうか」
「今は起こさず、休ませておこう」
「ああ。頼む」
それでも、照遠はその場を離れなかった。
汀生は理由を尋ねず、隣に並ぶ。
しばらくして、照遠の方から口を開いた。
「……汀生。少し、話せるか」