テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第13話:おぼえてない、でも投稿されてる
ミユはそのレビューを見て、息をのんだ。
──《最近ハマってるのは、あんバターサンド。
中学のとき、放課後に毎日食べてた味に似てる。
売ってるのは、あの商店街のはしっこのパン屋さん。
名前は……なんだっけ? 水色の看板のとこ。》
投稿者は「ユメ」だった。
でも、ユメはそんなこと——言ってたっけ?
スマホを手に、ミユは思い出す。
1年前の春、たまたま寄ったパン屋の帰り道、
ふたりで歩きながらミユが話したのだ。
「ここさ、昔ユメが好きだった味に似てない?
あんバターって……ほら、あの水色の看板のとこで買ってたやつ」
ユメは笑って「えー、そんなのあったっけ?」と返していた。
記憶に残っていたのは、ミユの方だった。
「……これ、私の言葉じゃん……」
NaPointのレビューは、まるで“ふたりの会話”を覚えていたみたいだった。
ユメは隣で、スマホを見つめていた。
何も言わない。眉が少しだけ寄っていた。
「……覚えてないけど、私が書いたことになってる」
それだけつぶやいて、彼女はスマホの電源を切った。
スクリーンが消える音が、やけに重たく響いた。
その瞬間、ミユは気づいた。
——ユメの“名前”は、ユメ自身よりもユメを知っている。
でもそれは、ユメじゃない。
そう思ったら、
少し、寒くなった。