「グッバイ、レッサー」
そう言って、善悪は銜(くわ)えていたロングピースを指で弾いた。
火が点いたままの煙草は綺麗な放物線を描いて、ボシェット城の入り口前に陣取って、攻め寄せる下位悪魔達を待ち受けていた一行から十数メートル先の地面に着地した。
ゴウっ!
激しい音を響かせて炎が立ち昇ると、緩やかな斜面を下りながら延焼し続けて行く。
結構近くまで迫っていた、様々なレッサーデーモンたちが炎に包まれ、ギャーギャーと騒ぎながらその身を炭に変えていった。
「ケホ! ケホ! やっぱり体質に合わないのでござる、みっちゃん、良くこんなの吸ってるでござるよ」
善悪は先日会った際に、従兄弟(いとこ)の光影がタバコを吸っているのを見て、ちょっと格好良いな、なんて思って真似してみたのだが、咽(むせ)てしまった様だ。
オルクスが作務衣に縋り付いて背中まで登り、トントンと心配そうに叩いている。
「善悪様の作戦が見事に図に当たりましたな、お見事でございます」
モラクスが惜しみない賞賛の言葉を口にした。
「そうであろ? 灯油は爆発の心配も無いし、この坂を上ってくるレッサー達ならイチコロだと思ったのでござるよ♪」
相変わらず汚い手、いや策略と言うべきだろうか、戦い方に拘(こだわ)らない善悪、聖魔騎士であった。
もうお分かりだとは思うが、一応説明しておくと、コユキを城の中に送り出した後、善悪達はここ、ボシェット城に繋がる緩やかな坂道に、たっぷりと灯油を撒いたのだ。
そして、坂の下の平原まで充分に灯油が行き渡ったのを確認した後、吸えもしないロングピースで着火したのである。
どこにそんな大量の灯油が? ご都合主義かよ! そんな批判は当たらない。
何故なら、その大量な灯油は、幸福寺の本堂からお馴染みの合体スキルで取り寄せたんだからね。
勿論、多少の改良を施した上でだが……
「「ウーバー○ーツ(即時配達)、ベクトル反転(配送先変更)」」
善悪とオルクスの二人が同時に口にした直後、灯油入りのポリタンクが何個も、一縛りにロープで纏(まと)められて現れた。
タンクの上には、新たにパーティーミーティングで決定した『聖女と愉快な仲間たち』のロゴマーク、PとLの合体したマーク、まんま冥王星(プルート)の天体サインが書かれた、ピラピラのピンクの付箋紙が貼り付けられてあった。
この付箋紙をマーカーとして、いつもとは逆に物品をこちらに引き寄せたのである、因み(ちなみ)にクールタイムは通常より長く二日である。
これで、押し寄せていた悪魔達を一掃出来たと安心した一行は、後で魔核だけ集めようね、うんそうだね、なんて和やかに話をしていた、が!
「ちょっと! アナタ等(ら)いい加減にしなさいよ!」
突如、抗議の声が響き渡ったのであった。
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