「だーかーらー……! 俺と神津は、こ、恋人同士なんだよ!」
「何で、明智キレてんだよ……」
こんなこと口にする予定も、誰かに俺たちの関係を暴露するつもりはなかったのに、こんな形でそれも同期にカミングアウトしなければならなくなったのは屈辱というか、恥だった。
別に付合っているのがバレるのがいやというわけではないが、恥ずかしさもあるし二人だけの秘密でいいと思っていたため、こう口にして言う機会がこんなにも早く来るとは想っていなかったのだ。神津は、周囲に俺たちの関係がバレても良いみたいな素振りを前々から見せていたが、俺が恋人だ、と二人の前で明言したことで少し機嫌が戻ったようだった。
「ハルハルいつから? ねえ、いつから?」
颯佐は興味津々と言った感じで、倒れるんじゃないかってぐらい前のめりになって俺に食いついてくる。
颯佐はこういう話が好きなため、高嶺以上に食いついてくるとは予想していたが、俺の恋人があの世界的に有名だったプロのピアニスト神津恭と知ったらそりゃあ、興奮が抑えられないだろうと俺は内心思った。
しかし、高嶺は何故か複雑そうな顔をしてこちらを見つめていた。
何か言いたげな表情をしていたが、俺はそれを無視して神津に向き直ると、神津は俺の肩を抱き寄せて頭を撫でてきた。
見せつけるように、いつも以上にベタベタしてくる神津に苛立ちを感じる。
(いつもそれぐらい引っ付いてくれていても良いのに……)
そういえば、きっと引っ付いてくれるだろうし触れてくれるのだろうが、如何せん恥ずかしくて口には出来ない。それに言ってしまったら、神津の歯止めが利かなくなるだろうから。そもそも俺たちは今、初夜を失敗して倦怠期……みたいな感じなのに。
「いつからって、十……今年で十一年目か」
「何か疑問系だね、春ちゃん。そう、今年で十一年目」
「十一年ってことは、え、は、小学校から付合ってたの? ハルハル達」
両手では数え切れないのに指を折って計算していた颯佐は、あり得ないというように声を上げた。
その拍子にガタンと机に膝をぶつけたらしく、痛そうにしながら俺を見る。
「ま、まあ……だが、神津は十年海外に行っていたわけだし、実際付合いだして恋人らしくなってきたのは、ここ数ヶ月……か」
俺がそう答えると、神津はどことなく寂しげな雰囲気をかもし出し、そうだね。と呟いていた。
「恋人兼、相棒兼、幼馴染みって感じ」
と、神津は先ほどの暗い表情とは一変して明るくそう答えた。
機嫌が直ったような笑顔を見て、俺はほっとしつつ、それが嘘の笑みだと見抜けたからこそ、胸にもやっとした物が残る。
「そうだ、君たちの名前聞いてなかったね。春ちゃんの警察学校時代の同期って聞いたけど、名前、教えてもらって良いかな?」
神津は、そう二人に促すと高嶺と颯佐は顔を見合わせ、何かをひらめいたかのようにニヤリと笑った。
嫌な気しかしない。
そう感じたときには遅く、高嶺は俺の名前を呼ぶ。
「せっかくだ、明智。そっちの恋人さんに俺たちのこと紹介してくれよ。結婚スピーチには友人代表で出てやるからさ」
「余計なお世話だ……なんで俺が」
冗談なのか本気なのか。
どっちにしろ、結婚式なんて挙げられないだろう……と思いつつ、神津と目配せし、俺は二人の紹介に入った。
多分、俺の知る限りそこまで大きく異動はしていないだろうと思っている。
「あーえっと、そっちの赤茶けた髪色の態度がでかくてがさつな男は、高嶺澪。俺の警察学校時代の同期で、運動神経が化けもんで体力お化け。所属は、警視庁刑事部捜査第一課強行犯捜査三係だったか」
と、一応確認のために高嶺を見れば不満そうに「ああ、そうだよ」と答えてくれた。
説明は皮肉交じりで言ったが、事実なので訂正はしない。
「それで、その隣の襟足が跳ねまくってる、俺の事変なあだ名で呼んでくる男は、颯佐空。此奴も同じく警察学校時代の同期で、兎に角乗り物が大好きな男だ。所属は、警察航空隊のパイロットだったよな」
「あってるよ~ハルハル」
一通り説明を終えれば、俺はドッと疲れたように神津の肩に頭を預けると、神津はその俺の髪を優しく撫でてくる。
その光景を見た二人は、唖然とした表情を浮かべていた。
そして、何故か颯佐は立ち上がり、拳を握りしめている。何故だろうか、物凄く殴りたい衝動に駆られているように見えるのは。
「んだよ、颯佐」
「ハルハルが、遠い存在になっちゃった気がして」
「はあ?」
「だって、オレ達ハルハルを誘って合コンに行こうって約束してたのに、ハルハルに恋人がいたなんて!」
「勝手にんな約束してんなよ」
うわーんと、嘘泣きをする颯佐を宥めつつ、高嶺はどうなんだと見てみれば、彼は俺と視線が合うとふいっと顔ごと逸らした。
まさか本当に、俺を今日探していた理由は……
「で、ハルハル。今日、合コンいかない?」
と、颯佐は戸惑う様子もなくそう言い放った。
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