九州の空は、どこまでも青かった。
その空を見上げた。列車の窓越しに流れてゆく畑と山並み。
まだ見ぬ基地への不安と、心に生まれた小さなざわめきに耐えきれずにいた。
熊本の農家の三男坊である。
兄たちは戦死した。
長男は海で。次男は硫黄島で。それを知った母の泣き声は今も耳にこびりついて離れない。
「立派に死なねばならぬ。」
そそう繰り返し自分に言い聞かせてもずっと頭では
と思ってしまう。
基地についた時は空から小雨が落ちて来ていた。
出迎えた上官は、疲れきった目をしていた。
挨拶を済ませると兵舎に通された。畳は擦り切れ布団は薄い。
だが誰も文句は言わない。皆わかっているのだ。
ここは死にゆく者が過ごす場所なのだと。
隣に寝ることになった男は鈴木という優しげな、とても女に好かれそうな人と岡部という
無口で無愛想な男だった。
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