テラーノベル
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航平は大体柚が帰る時間帯にはまだ黒のポロシャツに黒のパンツ、ネイビーの腰巻きエプロン姿の仕事着のままなのだけれと。
予定がある時には少し早く上がったりする。そんな時にはアルバイトである柚の出番だ。
時々戸締りをして帰ったりもする。
そう、その予定が。
優陽の言う『女』であっても。
食洗機から取り出したコーヒーカップを棚に戻しながら柚は航平を見る。
短くもフロント部分にボリュームのある艶やかな黒髪。今日はワックスで少し固められていて。
普段店ではつけてないピアスもつけて。
シンプルに黒のTシャツとジーンズ姿なのだけれど、航平の細く長い脚を強調して際立たせていると思う。
さり気なく見えるシルバーの大きい腕時計は男性らしくて。骨ばった手首を強調させてるから、ついつい見入ってしまうのだ。
……他の誰かに会いに行く姿だとしても。
(明日は週に一回のお休み、日曜だもんね)
「優陽、お前も集中できてないんならここ使えばいいから」
「はいはい、どうも」
ヒラヒラと手を振る優陽を通り過ぎて、キッチンへと入って来た航平は続けて柚に言う。
「天野さん。優陽に付き合ってられないなら放って帰れよ」
「え? あ、はい」
「売り上げは合わせたから。奥の金庫入れとく」
「はい、わかりました。 お疲れ様でした、店長」
そう、笑いかけると。
航平もフッと力を抜いたように笑いかけてくれる。
そして、ほんの一瞬だけ頭を撫でて。
「おう、天野さんもお疲れ」
そう、短く言って店の奥に向かう、その背中を眺める。ガチャガチャと金庫を触る音が聞こえた後。
やがて裏口が開かれ、閉じられる音を聞く。
「ねーえ、柚〜?」
「はい?」
ぼんやりと、眺めていると背後から優陽の声がする。
「はい? じゃ、ないよ。 もうあれから二週間は経つけど何も変わってないよね」
「変わらない?」
「うん。その間に俺も何回か航平煽ってみたつもりだったけどね」
そう問いかけてきた優陽の顔が、おかしいなぁ〜なんて付け加えながらニコニコと、やけに嬉しそう。
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