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「……? 楽しそうですね」
「そう? 今日は疲れたから君に会えて嬉しいのかも」
「ありがとうございます……あ、そ、そんなことよりも!」
もう何度か優陽の車に乗せてもらって、至近距離の美しい顔には多少免疫がついたと思っていた柚だけれど。店内でジッと見られてしまうと、車内にいる時よりも明るいからやはり恥ずかしくなってしまう。
「それよりも?」
優陽は慌てて顔と逸らして、話を遮った柚の言葉の続きを待っているようだ。
「優陽さんは、このお店で何かしてるんですか?」
「何かって?」
「いえ、店長が。 ここ使えばいいって言って」
咄嗟に思いついたのは、先ほどの航平と優陽の会話だ。
「ああ、うん。昔はよくね、この店の営業後に曲作りに籠らせてもらってたんだよ」
「曲作り……」
「あれ? 嘘でしょ、君忘れてる? 俺、これでも歌手。 魅惑のイケメンシンガーとか言われてる男だよ〜」
軽く、しかし当たり前のことのように自分をイケメンシンガーと言ってしまって。
でも特に反論もできないのだから、流石というか。
「そういえば柚は、俺の曲って知らない?」
「え? いえ、よく色んなところで流れてるので聴いたことありますよ」
最近色々調べていましたよ、とは口が裂けても言いたくはない柚。少し声が小さくなっていってしまったが気付かれてはいなさそうだ。
「ふーん、そっか、そのくらいか。 もとからあんまり聴かない?」
若干不服そうな雰囲気を見せながら、何気ない問い掛け。
それに、普通に言葉を返す。
「あんまり親がいい顔しなかったんで」
「へえ、親か」
途切れた会話。
ジッと安定の、見慣れた笑顔が柚を見ている。