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静かな空間の中、白いベッドで眠る仁人の頬を優しくなぞった。
左腕には1本の針が刺さり、隣にあるモニターには安定して跳ね上がる信号が見えた。
もう既に太陽は姿を隠し、ひとつの電球色が部屋を照らしている
「ごめん、本当は一日中そばに居たいんだけどさ、仕事に行かなかったら仁人怒りそうだから…笑」
「…。」
「あ、でも明日は朝少し来れそうだからまた来るよ。…おやすみ。」
握りしめる手から体温を感じた。
確かに生きている人の体温だった。
早く目覚ませよ仁人…もうそろそろ夢から覚めてもいいんじゃねぇの?
仁人に布団をかけ直して、明かりを消した。
「おはよう仁人、」
「…。」
「なんか最近暑かったり寒かったりで、ほんと大変なんだよ…てかさ、俺ドラマ決定したんだよね〜。だから,,早く目覚まして観てよ」
「…。」
「…,,ってことで、この後も仕事だからそろそろ行くな!また夜くるから!」
握っていた手を離し、部屋を後にした。
突然の事だった。
いつものようにグループでの仕事を終え、それぞれが個々の仕事に向かっている時だった。
1本の電話がかかり耳にスマホを当てると、聞かされたのは信じられないことだった。
"吉田さんが交通事故に遭い、意識不明の重体で病院に運ばれたそうです。"
正面衝突した車の一台が、たまたま乗っていた仁人の車を巻き込んだらしい。
その時出来た外傷も今ではすっかり治ったが、未だに目を覚まさないままで…
医者が言うにはそろそろ目を覚ましてもおかしくないはず…本人が目を覚ましたくないと思っているか、強いストレスがあったか、それによっても多少変わるらしい。
早く俺にお前の笑った顔見せてよ,,
約2ヶ月が過ぎ、いつものように仁人に顔を合わせに行った。
「仁人聞いてくれよ〜。今日YouTube撮ったんだけど、そこでナンジャモンジャっていうゲームをしてね、全部太智の顔でやって笑それがまじでおもろくてさ」
「…。」
「てか、柔太朗が俺の好きな物食ったの!最後に食べようと思って残しといたのに…まじで食べ物の恨みはでかいから」
「…。」
「舜太はねぇ…なんもない!いつも通りよ、もう。元気いっぱいっすね」
「…。」
いくら話しかけたって返事が来ないのは当たり前で…。
目にかかる前髪を優しく払った。
「ねぇ、まだ目覚まさねぇの…?」
今まで我慢していた感情が涙とともに溢れた。
仁人の顔も分からなくなるほどに涙が溢れ出して、止めようにも止められなかった。
泣かないって決めたのに、、あぁだめだ…もう,,
「早く起きろよ…,,俺に大好きって,,抱き締めてよ…」
すると、頬を伝う大粒の涙が優しい手つきで拭われた。
『…おはよう勇斗…笑』
そう聞こえた声は紛れもなく、俺が1番聞きたかった声で、そこにあるのは1番見たかった笑顔だった。
いろいろな感情が絡み合って、ただただ涙が加速した。
『あぁほらほら、泣くなよ笑…おいで』
そう言ってまるで子供のように泣く俺を抱きしめた。
すると、仁人の体温とともに正常な心音が響いた。
「お前…,,遅い…」
『ごめんごめん笑でも、勇斗の声は結構聞こえてたよ?』
「じゃあもっと早く起きてよ…」
「起きたかったんだけど、すごい幸せな夢見ててさ」
「夢…?」
「うん…。いつまでも起きない勇斗を起こしたり、2人で買い物したり、夜遅くまで映画観たり…ほんと俺ら日常みたいな夢。すごい幸せだったんだけど…」
そう語る仁人の手が俺の頭をゆっくり撫でた。
そして、また幸せそうな顔をして俺を見つめる。
「やっぱ本物の方がいいなって笑」
「なんだよ それ…笑」
2人の時間を過ごした後、ナースコールを押した。
医者曰く、明日には退院していいらしい。
『あ〜早く帰りたいわ』
「明日には帰れるらしいから、家綺麗にして待っとく」
『掃除出来んの?笑』
「できるわ笑…じゃ、もう閉まる時間だし、また明日朝一で迎えに行く」
『ありがと。』
「じゃあな」
『…まって!』
荷物をまとめ、カーテンを開けて出ていこうとする俺を引き止めた。
そして手招いたかと思えば、俺の手を引っ張りそのままキスをした。
『おやすみ勇斗』
「…おやすみ仁人笑」
end.