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#契約結婚
鷹槻れん

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#第4回テノコン
れの
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コメント
2件
アホの子(笑)
あー、めっちゃ面白かった!春凪が夏凪に拉致されてスマホ奪われるとこから、まさかの既読付き「むねちかさゆタスケテ」送信で笑ったわ。自己肯定感低めでグダグダしてる春凪と、ツンデレだけど兄想いな夏凪の掛け合いが最高で、お茶会に切り替わった最後の「無粋な真似はなさいませんよう」の牽制もキマってた。110話も安定のじれじれ展開、続きが気になる🔥
【自己肯定感の低い人は嫌いよ】
「あ、あのっ。夏凪さんっ。こんなことしても宗親さんはきっと痛くも痒くもないと思います!」
――何しろ私たちは偽装夫婦なのですから!
言えない言葉をグッと胸の奥にしまい込んで、春凪は涙目でピョンピョンと愛用のスマートフォン目掛けて飛び跳ねていた。
今日のお昼休み、春凪のスマートフォンに織田家から着信があって、お義母様かと慌てて電話を取ると、宗親の妹、夏凪からだった。
『春凪さん? 夏凪です。アタシ、アナタと2人きりでお話ししたいことがありますの。今日、仕事が終わられたらお兄様には内緒でご連絡いただけます? アナタたちのお部屋の前で待っていますので』
取り付く島もない、とは正にああ言うことを言うのではないかという勢いで、一方的に用件のみをまくし立てると、通話が切れた。
当然、宗親にはもちろん、他の誰にも話してはいけないと釘を刺された。
そのくせ家の前で待っています、とか……。
宗親より早く帰って来いと無言で圧を掛けられているのは明白で、似た者兄妹め!と頭を抱えたくなった春凪である。
お陰様で、午後からはそのことが気になり過ぎて仕事がおろそかになって、何度宗親に嫌味ったらしく溜め息を落とされたことか。
(貴方の妹さんのせいなんですよぅ!)
心の中で何度もそう言い訳をした春凪だったけれど、何とか口にだけは出さずにおいた。
あまりのグダグダぶりに体調不良を疑われたのか、宗親に定時で先に家に帰るように言われた春凪は、期せずして夫と一緒に退社しなくてよくなって、昼以降悩んでいた、どうやって宗親より先に帰宅しようか問題からは解放されたのだ。
でも、その結果がこれ。
言葉通り自宅前で待ち伏せしていた夏凪に、あれよあれよと言ううちに捕獲され、ぐいぐい手を引かれて先ほど降りたばかりのエレベーターに乗せられた。
てっきり外へ連れ出されるのかと思っていたら、2フロアほど上の25階へ上がって。
そうして、着いた先の部屋――3つあるゲストルームのうちのひとつ――に連れ込まれて、「ちょっとお電話をお借りしても?」と、まんまとスマートフォンを取り上げられてしまった。
何でゲストルーム!?と縮こまってキョロキョロソワソワしながらスマートフォンを差し出した春凪に、「アナタとお話しするために借りておいたのよ」と、それを受け取りながらことも無げに夏凪が言って。
「春凪さんの、お兄様の中での存在価値をはからせて頂きたいの」
とこれまた意味不明なことを追加されて今に至る。
存在価値とか言われても、そんなものほぼゼロに等しいに決まっているでしょう?と春凪自身は思っているのに。
例えば、宗親が壊滅的に料理や部屋の片付けが出来なくて、春凪をハウスキーパーとして死ぬほど頼りにしている、とかなら話は別だけれど、そういう家事全般に於いてでさえも、恐らくは宗親の方が春凪よりも数倍は上手なのだ。
別に春凪が居なくなったからと言って、宗親が困るとは思えない。
「夏凪さんもご存知でしょう? 宗親さんが超ド級に何でも卒なくこなせてしまうこと!」
(私の存在価値なんてほぼ皆無なんですよぅ!)
春凪が半べそになりながら、目の前に立つ春凪より10センチ以上背の高い夏凪に訴えたら、
「何を情けなことを言ってくれちゃってるのかしらね! もっとお兄様に選ばれたという自覚を持って頂かないと、貴女みたいな自己肯定感の低いチンチクリンにお兄様を奪られたと思ったら、アタシ悔しくてたまらないじゃない!」
確か、宗親の話だと春凪と同い年のはずの彼の実妹夏凪は、兄に似て長身の、手足の長いスレンダーな美人だった。
兄と同じく烏の濡れ羽色のような艶やかな黒髪は、ストレートなサラサラヘアで、マッシュルームみたいなボブに綺麗に整えられている。
髪が短いから、耳を飾るダイヤのシンプルな伏せ込みピアスがすごく映えて見えた。
スレンダーとはいっても、夏凪のそれは、出るところはちゃんと出て、引っ込むところはキュッと引き締まった女性らしいメリハリボディ。
その容姿を、今日は光沢感のある黒の膝丈カシュクールワンピースで包むという出立ち。
対する春凪はと言うと、仕事帰りにここへ拉致?されたこともあって、白いTシャツに、Xラインのデニムのジャンパースカートという、何だか幼い印象の服装で。
身長も153センチの春凪は、ゆるふわウェーブの色素の薄い髪の毛と瞳、そうして女の子らしい柔らかそうな丸みがあって、決して太っているわけではないけれどシャープさや大人っぽさとは無縁。
もう少し働く女性らしく、タイトスカートにブラウス……みたいなぴっちりした服装にすれば良かった!と思ったりしているけれど、後の祭り。
宗親のマンションは、春凪が以前住んでいたアパートみたいに職場から遠くないので、車通勤より徒歩の方が便利だ。
それで最近徒歩通勤が多い春凪は、ついつい動きやすさを重視してカジュアルな服装寄りになってしまっていた。
職場では、どうせ会社の更衣室で制服に着替えるし、みたいな安心感が、このところの通勤時の春凪を少し女子大生の頃みたいにゆるりと油断させていたのかも知れない。
同い年で、名前も似通った2人だけれど、並んで立っていると春凪の形容がポニャッ!で、夏凪のそれはシュッ!と言った音で表されるイメージ。
そのシュッ!とした夏凪が、ポニャッ!とした春凪のスマートフォンを意地悪く高みに掲げ持っていて。
春凪は何とかそれを取り戻そうと必死なのだ。
だって――。
ジャジャジャジャーン! ジャジャジャジャーン……!
このゲストルームへ連れてこられてすぐ、重々しく鳴り響いた「ベートーヴェンの運命」に、春凪は内心「ひー!」と声にならない悲鳴をあげて心の中でひとり大泣きしていた。
春凪の携帯は、ただひとりからの着信を除いて、お気に入りの女性ボーカリストのJ-POPを、着信音用に短く加工したライトなもの――今は懐メロ系の初恋を歌ったものに設定中――が流れるようになっている。
つまり……この恐怖心を煽られるクラッシックが流れているということは、そのただひとりの例外からの着信を意味しているわけで。
ソワソワとした視線を部屋内に彷徨わせると、壁掛け時計が19時半を指していた。
(ひゃーん、まずいっ! 非常にまずいです!)
春凪は不安を助長する曲調の着信音と、時計の秒針が非情に刻む規則的なリズムを伴って指し示された時刻にサーッと青ざめる。
「む、む、む、宗親さんからの着信ですっ、夏凪さんっ! しかもいつもよりかなり長めに鳴らされましたっ! このままでは後が恐ろしいですっ! お願いだから連絡させてくださいっ!」
必死に訴えたら、夏凪が瞳を細めてクスッと笑った。
(ああ、この顔! 貴女のお兄さんもよくやる腹黒スマイルですよ!?)
などと思いつつ。
春凪は自分より3ヶ月後に生まれたらしい夏生まれの義妹の一挙手一投足に注目せずにはいられない。
「はい、春凪さん」
一瞬自分の顔の前に掲げられたスマートフォンに、てっきり返してもらえるんだとばかり思って春凪が手を伸ばしたら、どうやら顔認証でロックを外したいだけだったらしい。
春凪の手がスマートフォンに触れる直前、夏凪によってサッと高みに掲げられて、春凪はまたしても愛機を取り返し損ねてしまった。
「ふ〜ん。春凪さん、メッセでもお兄様のこと、『宗親さん』って呼んでるのね〜。初々しぃ〜」
クスクスと笑われて、何だか恥ずかしくてたまらない。
(っていうか私、宗親さんと変なメッセージのやり取りをしたりしていなかったかしら!?)
そんなことを思ってソワソワする春凪を横目に、「誰がアナタのこと、心配しないって?」と画面を見せられる。
そこには送信者宗親からの、『連絡をお待ちしています』という味気ない一文が表示されていて。
春凪は現状も忘れて、「まるで社内でやり取りする業務連絡じゃないですか、宗親さん!」と思ってしまった。
先に帰宅したはずの――仮にも――妻もどきが何の手がかりも残さずに行方不明になっていると言うのに。
もう少し取り乱した感じの、色気のある言葉をかけてくれてもいいじゃないですかっ!
腹が立つくらいいつも通りな雰囲気の宗親からのメールに、春凪は怒られるかも!?と怯えていたことも忘れてがっくりと肩を落とした。
けれど、宗親の実妹である夏凪の評価は違ったらしい。
「あのお兄様が、電話だけじゃなく、わざわざこんなメッセージまで入れてくるとか。――ねぇ、春凪さん! アナタ、腹立たしいくらいお兄様に愛されてると思うわ!」
夏凪の過大評価に春凪はタジタジになる。
それに――。
「夏凪さん。お言葉を返すようで申し訳ないんですけど。本当に心配している相手には、こんな時もう少し感情的なメールを送ると思うんですけど」
少なくとも自分が宗親の立場なら、「どこにいるんですか? とりあえず連絡くらいしてくださいよぅ!」くらいは書くと思う。
きっとそれだけでは物足りなくて、「心配させないでください!」とか恨み節のひとつも付け加えているはずだ。
ついでに電話だってもっと掛けてる!
春凪が溜め息まじりに夏凪を見つめたら「あのお兄様がそんな恥ずかしいことをなさるとお思い?」と逆に盛大な溜め息をつかれてしまった。
「え!?」
(伴侶――偽装ですけど――を心配して感情的になるのって、そんな恥ずかしいことなんですかっ!?)
夏凪の言葉に、春凪は思わず驚きの声を上げて、言えない言葉を心の中でつぶやいた。
そうして、信じられないという気持ちを込めて夏凪をじっと見つめたら、何故かめちゃくちゃ呆れられてしまう。
「あのね、春凪さん。お兄様はゆくゆくは父の会社を継ぐ身ですのよ? 些細なことで一喜一憂していたんでは下の者たちにしめしがつかないじゃありませんの。お兄様は後継者として、滅多なことでは感情を表に出さないよう、幼い頃から叩き込まれていますの。アタシたちとは違うんだってお分かりになりません?」
それが本当なら、宗親さんは何て可哀想なんだろうと思ってしまった春凪である。
いつも嘘くさい笑顔で春凪に接するのも、きっとそのせいなのだ。
たまに出る、本心からの表情は、実は凄く貴重なのかもしれない。
そう思ったら、自分みたいに好き勝手に泣いたり笑ったり出来ない宗親のことが心底哀れに感じられて、気が付いたら春凪はポロリと涙を落としていた。
「えっ? 春凪、さん?」
その涙に、ギョッとしたように夏凪が慌てて。
自分が意地悪しすぎて春凪を泣かせてしまったと思ったらしい夏凪は、
「もぉ! な、泣くとか卑怯ですわっ! し、仕方ないですわね! 出血大サービスです!」
言って、何故か手にした〝春凪の携帯〟を勝手に操作して。
「……送信、と」
何やら送信してしまったみたいだ。
「か、夏凪さんっ!?」
確かさっき見せられた時、画面は宗親からのメッセージを表示していたはずだ。
そのまま画面が変えられていなかったとしたら……今の何やらよく分からないメッセージの送信先は。
考えただけで何を送ったのー!?と血の気が引いてしまう気がして、春凪は涙目のまま青ざめた。
「ご覧になる?」
にっこりと。
彼女の実兄によく似た腹黒スマイルを浮かべた夏凪に問われて、春凪は一生懸命コクコクとうなずいた。
「はい」
言われてこちらに向けられた画面には、『むねちかさゆ、タスケテ』とかいう何とも意味深な、誤字だらけのメッセージが表示されていた。
(内容もさることながら、何で『宗親さん、助けて』ってちゃんと打ってくれてないの?)
そう思った春凪が、思わず
「アホの子が打ったみたいになってるじゃないですかっ」
そう言ったら、
「ホント、アナタはお馬鹿さんですわね。トラブルに巻き込まれてますって臨場感を出してさしあげたんじゃないですか」
溜め息まじりに言われて、春凪は「へ?」と思う。
わざわざそんな心配させるようなことをしなくても。
やられた方の身になったら、嘘がバレた時かなり怒らせてしまいそうだ。
「は、早く送ったの、取り消ししてください!」
慌ててそう言い募ったら、
「あら、今更ですわ。だってもう既読になってますもの」
とか。
その言葉とともに浮かべられた、まごうことなき極上の腹黒スマイルに、この子、絶対「既読になったのを確認してから」自分に画面を見せてきたに違いないと確信した春凪だった。
けれど、そう思って歯噛みしたところで後の祭り。
「さぁ、お兄様はどう言う反応を返してくださるかしら。楽しみですわねっ♥」
ガックリと肩を落とす春凪に、
「ねぇ春凪さん、待つ間、せっかくですしお茶でも飲みましょうよ」
夏凪はにこやかに微笑むと、「アタシ、女子会ってしたことありませんの。不本意ではありますけど、アタシたち一応身内ですし、特別にお付き合いしてさしあげますわ」
言って、にっこり笑うと、春凪のスマートフォンをやっと返してくれる。
「美味しいケーキも買ってありますの」
だから無粋な真似はなさいませんよう、と声を低めてスマートフォンを手に画面を見つめる春凪に軽く牽制をかけて場を凍りつかせると、
「さあ、携帯なんてそこに置いて、お茶会の準備、手伝ってくださいな?」
視線だけで、春凪をキッチンスペースへと誘った。