「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」
お、おかしい…この前までこれくらいなんともなかったのに……
「そ、そうか…が、ガゼル達との深酒の毎日が・・体力を…」
と、兎に角…聖奈さんに大見得を切ったのだから、必ずやり遂げねば……
『馬車で2週間ならセイくんだと…4日くらい?かな?』
『馬鹿言うなよ。馬車なんて徒歩に毛が生えたような速度しか出ないんだぞ?俺なら2日で着けるね』
あの時の俺をぶん殴ってやりたい。
いや、穴に埋めて『ここを掘るな』の看板を建てておくべきだった。
俺は胃の中のものを周りにぶちまけそうになりながらも、帝都を目指し足を動かした。
「えっ?!ホントに2日で着いたの!?」
ここはバーランドの王城内の一室。
いつの間にか内壁が貼られていて、何とか部屋として機能している。
内装はまだまだだから、来賓を招いたりは未だ出来ていない。
そんな城の一室で俺は聖奈さんに報告していた。
「ああ。余裕だったな」
ホントはギリギリでした。
ギリギリ吐かなくてすみました。
筋力はそこまで落ちてないけど、体力がな……
健康と身を守れる様にまた鍛えようかな。
しかし、俺はいつからこんな脳筋になってしまったんだ……
「凄いね。概算で東京広島間くらいはありそうだったのに…セイくんは人間やめたみたいだね!」
「大量の酒を飲むためには身体が資本だからな!それよりも、言われた通りに帝都近くの人が来ない様な場所を見つけたからいつでも行けるが…いついく?」
「お酒の為のやる気を他のことに使えたらいいのに……
そうだね。セイくんには悪いけど、明日からでも良いかな?」
「俺の体調は気にしなくて良い。体調が悪くても大体酒飲めば治るからな」
何故か白い目で見られた。
いや、ホントなんだってば。
リスクとしては飲み過ぎて二日酔いになる。そしてその二日酔いを迎え酒で治していたら次の日も二日酔い(3日目)の無限ループに突入するくらいだな。
今だって吐き気で気分悪かったけど、ビール飲んだら治ったしな!
病は気から!
翌朝、帝都に向かう前にライルを迎えに行った。
「これで賽は投げられたね」
うん。そのセリフ言ってみたいから、次は言う前に譲ってね?
ライルが帰ってきて食事兼報告会で伝えたことは『鉄塔が倒れた』ことだった。
「さいはなげ…?どう言う意味だ?」
「鉄塔が倒れたことで、その原因を帝国が調べるよね?後は帝国の調査能力と判断次第ってことだよ。
物理的に不可能だったと判断してくれたら私達の計画通りだし、何処かの誰かが仕組んだ破壊工作だと思われたら、その時の動き次第でこちらの動きも変わるの。
簡単に言えば行動は起こしたのだから、後は結果待ちって意味だよ」
サイコロ自体も代用品も見たことがないから、翻訳さんが機能しなかったのかな?
良かった。俺が言わなくて。
もしライルに聞かれていたら『サイコロ投げたってことだ!』
って説明しそうだよな。
ふぅ。致命傷で済んだぜ!
「これで情報の力は私達に有利に働くね。通信の魔導具が開発されてたりしたら別だけど、従来の情報伝達方法しかないのなら、短くても7日、長くて15日くらいのアドバンテージがあるよ」
「じゃあ時間を無駄には出来ないな?」
「そうですね。早速ですが行きましょう」
「ふぁあ。俺は寝させてもらう」
ライルがリビングを出たところで俺達は寄り添い…転移した。
寄り添うのが移動するときだけって…俺は乗り物か何かかな?
「ここはどの辺りなの?」
転移した先は真っ暗闇。
聖奈さんは俺を信用しているのか、動揺は見られない。
しかし…ミラン。服が伸びるからそれ以上引っ張らないで……
「灯りをつけるから待ってくれ」
俺は魔法の鞄から懐中電灯を取り出し、スイッチを入れた。
「ここは帝都近くの岩場だ。帝都周辺は兵士の巡回も多く、商人や冒険者らしき人達の人通りも多かったから、岩場にあったこの大きな岩に穴を開けて入り口を塞いだんだ。ほら、あそこから明かりが少し差しているだろう?そこから出られるぞ」
「よ、よかったです。お、お化けが出る前に出ましょう」
ミランは怖がりだったのか…知らなかったな。
だがな。お化けより怖いモノが近くにいるぞ?見てみろ。聖奈お化けが美女がしてはいけない表情でお前のことを見ているぞ。
変質者が裸足で逃げ出しそうな視線だ……
よっぽどお化けを怖がる異世界美少女が刺さったのだろうな……
2年前までは聖奈さんも暗がりを怖がっていたのに成長するもんだな。
いや、あの時とは状況が違うか……
岩場(セイお手製洞窟)を抜け出した後は、すでに視界に入っている帝都へ向かった。
15分程歩くと帝都外門に着いて中に入る為の審査を受けた。
もちろんミランが主導して俺達はミランのお手伝いさんとして入ることとなった。
「外壁が無骨だったから期待していなかったけど、綺麗な街並みだね」
外壁とは帝都を囲んでいる壁のことだろう。
壁は明るめの茶色といえばいいのだろうか。
そんな色をした岩が積まれて出来た壁だった。
地球でそんな色の岩は強度が弱い種類ばかりなので、あまり馴染みがないな。
「そうだな。カラフルな街並みは聖奈が目指すところでもあるよな?良い見本になりそうか?」
聖奈さんはザ・異世界の街並みをバーランド王国に作りたいようで、着色料からそう言った建築素材まで色々と調べていた。
俺はそんなのには興味ないから好きにさせている。
金ならある!腐るほどなっ!好きにせい!
「大変遺憾ながら参考になります…」
「何で敗北してんだよ…」
「あれは何でしょう?」
俺と聖奈さんがコントを繰り広げていると、ミランから声が上がる。
ミランが指差す方へ視線を向けると……
「水車小屋だな。水車が回る力を利用して小麦を挽いたり、人力では難しい作業をしたりするん……だ」
「どうかしましたか?」
なぜ?
「セイくんあれ見て」
聖奈さんが指差す方を見ると……
「レール…」
明らかにレールが道に敷かれていた。
「水車はまだわかる。ネジが無くても作れなくはない。仮にネジがあったとしても不思議じゃないし、聖奈達は見たことがあるんだもんな?」
「うん。でもレールは明らかに異質だね。まさか蒸気機関を…」
「いや、蒸気機関を発明していなくても異世界にはそれに変わる動力があるだろ?」
そう。魔導具がある。
これはいよいよエリーの技術をパクったわけでは無さそうだな。
しかし……
「でも、レールを思いつくのは異様に感じるな」
その動力を使うなら車だろ。いや、決めつけは良くないな…しかし。
「そうだね。調べなきゃわかんないけど、鉄のレールが実用化され始めたのは鉱山での輸送が最初だったよね?
こんな街中で使う為に発明したとは思えないから、少し聞き取りが必要だね」
「そうだな。もし帝都のレールが初めてのモノだとしたら、いよいよ外部からの技術提供を疑わないとな」
技術の発展には、ある程度の理由があるものだ。
特に移動系のモノは、工業軍事どちらにも使えるからな。
その辺も頭の片隅に置いて、しっかりと聞き込みをする。
まぁ俺は飲んでばかりいたけど……良いのかな?
ミランが楽しそうだったから良いに決まってるよなっ!?
調査を進めていくうちに予定していなかった情報を入手した。
「ここで別大陸の情報か…」
覚えきれる…かな?
いや忘れよう。俺はまだ遊びの途中なんだ!!
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