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「あうぅうう~……
美味しい。めっちゃ美味しいけど、
敗北の味がするうぅう~」
濃い黄色のようなブロンドの長髪の女性が、
喜びと意気消沈の間を行ったり来たりしながら、
ソーメンを頬張る。
私と模擬戦を終えたメリーさんは、そのまま
ギルド本部の食堂で、ティエラさんたちと一緒に
夕食をとる事になった。
「いや、相手が悪かったよ」
「あんな物まで退けるとはなあ」
彼女に対し、他の席から口々に慰めの声が上がる。
実際、私はただ隕石魔法を無効化しただけで、
せいぜいが引き分けと思っていたんだけど、
最高責任者であるライさんから、あの時点で
メリーさんは戦意喪失していたという事で、
『私の勝ち』という判定にしたらしい。
「しかし―――
ここも、例の魔導具と氷があって涼しい
ですが……
その上、冷たくて美味しい料理がこんなに」
ティエラ王女様は冷やし中華を口に運び、
「味噌汁はもう何度も食しましたが、
冷やしてもウマイとは」
「唐揚げもフライも天ぷらも、出来立てが
一番うまいと思っていましたが……
冷やした後、このみぞれというソースと共に
食べると絶品です!
むしろ味が染み込んでいるようで」
カバーンさんは冷やした味噌汁と、
セオレムさんは揚げ物のみぞれ和えに
舌鼓を打っていた。
「夏場は多かれ少なかれ、食欲が落ちる
連中がいたからな。
冷たくてもうまい料理が増えるのは
有難いぜ」
ライさんが組織のトップとして、手慣れた感じで
箸を使い、ソバをたぐる。
「あれ? そーいえばラッチはどこ?」
「ああ、ラッチならあそこじゃ」
メルとアルテリーゼ、妻二人の話で視線を
そちらへ向けると、
マギア様とラッチが―――
サシャさんとジェレミエルさんその他、
女性陣から『あーん』させられていた。
ラッチは喜んで食べているけど、魔王である
マギア様は外見が幼いだけだから、心無しか
微妙な表情で……
イスティールさんがフォローに回っている。
「あれ? オルディラさんは」
同じ魔族である彼女の姿が見えないので、
ふと食堂内を見渡すと、
「いやーしかし、この納豆ってヤツ!?
これだけでもこの国に来た甲斐があるって
モンだよ!」
「おお、わかりますか!?
この美味しさと素晴らしさが!!」
「わかるわかっちゃう!
アタシ国に帰ったら、全力でこれを推すよ!
納豆の伝道師となったるわ!!」
なぜか納豆を気に入ったメリーさんと意気投合
したようで―――
褐色肌に純白の長髪のオルディラさんと
美女2人して、納豆を食す姿はなかなか
シュールだ。
「あー……
あちらでは納豆ってどんな感じでしょうか?」
私がティエラさんたちに近付いて聞くと、
「確かに、好みが別れるところでは
ありますね。
ただわたくしは、このひきわり汁というのは
結構好きかも」
彼女に続いて、アラフィフとアラフォーの
従者二人も、
「俺はそのとろみをスープに付けて、
麺類を食すのが好みですね」
「自分は、炊いた米にかけて食べるのが
一番合っているかと」
と、それぞれ嗜好を語る。
「しかし、魔界でも納豆は普及して
いるけどさぁ」
「あのまま食べられる人はそういないかと」
フィリシュタさんとミッチーさんが、
珍しい生き物を見る目でメリーさんと
オルディラさんの席を見つめる。
「そういえばみなさん、お箸を使って
いるようで―――
こちらの食生活に慣れていっている
ようで嬉しいです」
ティエラ王女、カバーンさん、セオレムさんは
私の言う通り……
器用に箸を使って食事を楽しんでいた。
「最初はなかなか苦労しましたけど、
マスターしてしまうと、こちらの方が
便利なんですよね」
彼女の言葉に、従者二人もうなずき、
「麺類とか、これで一気にズズーッといくと
たまらないですよ」
「自分は料理もしますが―――
これを使えるか使えないかで、かなり
違います」
と、肯定的にとらえており、
「しかしあの、メリーさん?
何で彼女だけ別のテーブルに……」
私が不思議そうに聞くと、三人はいっせいに
彼女の席を向いて、
「ええと……
さすがに全ての料理に納豆を絡められると」
「食べるのは問題ないんですが、匂いが」
「自分はあそこまで順応出来ませんので―――」
彼らは困惑と戸惑いの表情を浮かべ……
やがて夕食を終えると、冒険者ギルド本部を
後にした。
「メリッサ様、いえ―――
メリーの『隕石落とし』が破られた、
ですと……!?」
ゾルタンは王宮の一室でその報告を聞き、
驚愕の表情を見せる。
「そ~だよぉ、綺麗サッパリ、ね。
これでアンタが、何にケンカ売ろうと
していたのかわかっただろう?」
やや細身になった中年男性が、『ヒッ』、と
小さく息を吐いて体を硬直させる。
「『暴風姫』である、
ティエラ王女様の魔法を無効化したのは存じて
おりましたが―――
『星を降らせる者』……
その貴女の魔法までが」
「ドラゴンと結婚するくらいですからね、
あの『万能冒険者』殿は。
ちなみにそのシンさん―――
シルバークラスだそうです」
ティエラ王女の言葉に、同じテーブルを囲む
魔戦団総司令と帝国武力省副将軍が、同時に
動きを止める。
「あー、確かここでの冒険者階級だと、
ゴールドの方が上なんでしたっけ」
「という事は……
あの御仁よりも上がいるという事か。
いやもう、考えれば考えるほど底が
知れないな」
同席しているカバーンに、メリッサが
受け答える。
「実は、もし帝国が大軍で来た場合は、
説得させてくれと頼んでおりました。
帝国に帰ったら、全身全霊でこちらの大陸と
対等な同盟を結ばせる方針を部下と」
「あ、それ通さなーい♪
ロン!」
「ぬおぉお!?
その両面待ちは酷いですぞ!?」
メリッサ、ゾルタン、ティエラ王女とカバーンは
四人で同じテーブルを囲み、麻雀に興じていた。
「うぉ、ゾルタン様に勝つとは」
「セオレムさん、次はあっちでやってみては?」
そして同室には別に、ゾルタンの部下と
セオレムが卓を囲んでいて、
「しかし、これだけ複雑なルールの遊びとは。
意外だったのは、これが上流階級のみの
娯楽ではなく―――
冒険者ギルドや裏社会でも流行っている
との事」
「一定以上の教育水準がある、という
事でしょうね。
荒くれ者や非合法を生業とする者たちでも、
これを楽しめるくらいには」
彼のつぶやきにも似た言葉に、主人である
王女が答える。
「そういえば王都を案内してもらった際、
ひと際大きな敷地にある建物を見たん
ですけど……
児童預かり所、とか言ってました。
王都で身寄りの無い子供たちをそこで
保護し、養育している施設らしいです」
「それ、俺も聞きました。
何でも貴族各家が共同出資して建てたと。
確か、初代ワイバーン騎士隊隊長の公爵様が
提案し、一番多く金を出したとかで―――
王都じゃ有名な話だと言ってました」
牌をかき混ぜながら彼らは雑談がてら語る。
「高貴なる者の義務……
ってところかい。
帝国の連中に聞かせてやりたい話だねぇ。
自腹切って孤児たちを助けようとする者が、
どれだけいるやら」
自嘲気味にメリッサは笑い、
「何もかも異なる、という事でしょう。
技術、文化、教育、精神にいたるまで―――
どちらが上とまでは言いませんが」
ティエラも同調するように苦笑する。
実際のところ、メギ公爵が筆頭出資者なのは
合っているのだが……
それは王都で孤児たちの救出を妨害した
ペナルティのようなものであり、
(■68話 はじめての にげきり参照)
その後、ワイバーン騎士隊を設立する際、
出資額の多い方から選出、結果として彼が
初代騎士隊隊長になっただけなのだが、
それは彼らが知る由もなく。
(■79話
はじめての ほんばん(けっこんしき)参照)
「それで……
今後、我々はどのように?」
カバーンが話の方向を変えると、
「事情はわかりましたので、まず船団の人員が
全員無事だという事を知らせに一度戻ります。
その際、正式に国交を結ぶため―――
ウィンベル王国および同盟を結んでいる
各国の代表者を乗せて欲しいと。
その後、訓練船団が帰国する事に
なるでしょう」
ティエラ王女が、ラーシュ陛下との会談で
決めた方針を話す。
「ではそれまで―――
この大陸の優れた文化や技術に触れて
おかねば」
と、副将軍が口を開いたのを皮切りに、
「料理も、まだまだあるそうですからねえ」
「コンサートという、一般にも開放されている
音楽鑑賞のイベントがあるそうなので、それも
ぜひ聞いておかないと……!」
「お酒も種類が豊富だそうですよ。
あの米から作られたものがあるとか」
麻雀をしながら口々に希望を話す彼らに、
「アンタら、ただ遊びたいだけだろ。
ま、アタシもそうだけど」
魔戦団総司令の正直な言葉に―――
室内は笑いに包まれた。
「え? いったん公都に戻るの?」
「うん。各国の代表者選定で時間がかかり
そうだから、戻っても問題無いって」
冒険者ギルド本部の私たちの部屋で、
メルが聞き返す。
メリーさんと模擬戦を行った二日後……
ライさんから王宮のお達しを聞かされた私は、
家族にそれを伝えていた。
「何かあっさりとしているのう」
「ピュイ」
アルテリーゼとラッチが首を傾げるが、
「まあ、話は事前に通してあったしね。
思ったよりも早く帝国の使者が来たので、
各国が動きについてこれてないというか」
ふむふむ、とうなずく家族に私は続けて、
「あとライさんがねー……
どうも各国とも、ウィンベル王国に交渉の
全権委任をしそうな感じだって言ってた」
すると二人とも、『あー……』という
表情になる。
良くも悪くも、同盟国内で一番戦力が多いのは
ウィンベル王国だ。
それに海の向こうまで行くともなれば、
不安も当然あるだろうし、それなら全てお任せ
した方がいいと考えても仕方ないだろう。
「魔族領代表として、魔王・マギア様と
イスティールさん・オルディラさんが
行くのは確定している。
まあマギア様が現地に飛ばないと、
ゲートを作れないって事もあるけど」
「そういえばゲートって、マギア様の魔力を
辿って作ってたんだっけ」
(■123話 はじめての まかいおう参照)
「他は?
誰かランドルフ帝国まで行こうとする者は」
「ピュピュウ」
メルに続いて出たアルテリーゼの質問に、
「確定ではないけれど……
新生『アノーミア』連邦から、マルズ国の
エンレイン王子が来そうだって。
その時はヒミコ様と一緒だろうし」
「なるほど」
「それで、いつ頃戻るのだ?」
「ピュイ?」
家族の質問に、ライさんから言われていた
本題を切り出す。
「明日にでも、というところだけど―――
何か一緒に、王都に滞在している
ランドルフ帝国の人たちも、公都へ
連れて行って欲しいってお願いされた」
すると妻二人は顔を見合わせて、
「あん?」
「どうしてじゃ?」
その質問に私は肩をすくめて、
「料理や娯楽は、ものによっては公都の方が
発展しているというか発信地だから、
それを見せてやって欲しいと……」
その答えにメルとアルテリーゼは苦笑し、
ラッチだけがきょとんとしていた。
「うおぉおおおっ!!
いけっ、ブシドー!!」
「おおっ!?
アレを返すか、パンサー!!」
公都『ヤマト』の冒険者ギルド訓練場で―――
ゾルタンさんとメリーさんは、獣人族同士の
『神前戦闘』に見入っていた。
「すごい迫力ですね……
噂には聞いておりましたが」
「だから見た方がいいって言ってたでしょう、
お嬢」
「しかしどれだけの技があるのだ。
肉弾戦で、これだけの攻防が出来るとは」
ティエラ王女とその従者、カバーンさんと
セオレムさんも、試合に見入る。
あの後、公都にランドルフ帝国の方々と
戻ってきた私たちは―――
王都に無い娯楽は無いか? と聞かれ、
確か『神前戦闘』はまだ王都でやった事は
なかったと思い出し、
またカバーンさんは以前一度公都に来た時に
見ていたので、彼の勧めもあって足を運んで
もらう事にしたのだ。
「うっわ……!
今の、頭から落ちたぞ!?」
「何だと!?
あれでもまだ起き上がるのか!」
同行してきたゾルタンさんの部下たちも、
手に汗を握りながら試合の行方を見守る。
こうしてこの日―――
彼らは『神前戦闘』を堪能したのであった。
「で?
ランドルフ帝国の連中はどのくらい
公都に滞在するんだ?」
冒険者ギルド支部で、私はジャンさんと
雑談がてら、今後について話し合う。
「今回、訓練船団の人たちはまだ帰る事が
出来ないから、手紙があれば帝国に持ち帰ると
通達したそうなんですよ。
その手紙が届けられる期間も考えると、
ワイバーンに配達してもらうとしても……
3日はかかるんじゃないかと」
出されたお茶を飲みつつ、彼の質問に
答えると、
「フィリシュタさんとミッチーさんは、
魔界に戻ったそうっスね?」
「そうですね。
ミッチーさんが魔界にいないと、
ゲートが繋げられないので」
「しかしシンさん、本当に多忙ですねー」
レイド君・ミリアさんにも応対しつつ、
情報を共有する。
「そういや、帝国に行く代表には―――
エンレイン王子様とヒミコ様が含まれている、
って話だったよな?」
「ええ、そうですけど。
何かありましたか?」
アラフィフのギルド長に聞き返すと、
「さっき魔力通信で連絡が来たんだが、
確かあちらのワイバーンライダーたちを
預かっていたんだよな?」
「え? 彼らが何か問題でも」
そう。同族という事で、彼らの身柄はライダー
ともども、ヒミコ様のところで預かってもらって
いたのだが……
「いや問題とかそういうんじゃねぇんだけどよ。
5騎いたワイバーンが全員、人間の姿に
なったそうだ。
で、そのうち1人が女性でな。
自分が乗せているライダーと結婚の約束を
したという事で」
「ちょっと待って情報が多過ぎます」
人の姿に変身出来るようになるまでは予想
していたけど、一気にそうなる事までは
想定外だ。
「おー、めでたいッスね」
「戦争になるかどうかっていう情勢の中で、
明るいニュースじゃないですか」
黒髪褐色肌の青年と、丸眼鏡をした彼の妻が
笑顔で語る。
「まあ何だ。
その2人が今度の帝国帰還の船に乗るだろう、
って事を共有しておきたかったってだけだ」
なるほど……
確かにそれはアリだ。
人外への差別はとりもなおさず、その外見から
来ている事も多い。
だが人間と同じ姿になれるという事実は、
それを抑制する効果が期待出来る。
ワイバーンの姿より、人間の姿で訴えた方が
聞く耳を持つ人間もいるだろう。
ましてやそれが、帝国にいたワイバーンなら
尚更だ。
「じゃあ、帝国の方々へは引き続き―――
それなりに接待してあげてください」
「まあ数日だけッスからね」
「接待しなくても、勝手に驚いて喜んでくれると
思いますけど」
レイド夫妻の言葉に、私とジャンさんは
笑顔となり……
そして室内が笑いに包まれた。
「いやぁ、すごいねココ!
酒も料理もウマイしいう事なし!
あと南の―――
亜人・人外専用居住区?
ありゃもう常識がひっくり返る感じ?
いや勝てねーわこんなところに」
中央区にある高級宿の一室で―――
メリーことメリッサ・ロンバート魔戦団総司令が
わたくしやみんなの前でカラカラと笑う。
「あ、相手が悪いのは認めますが……
果たしてそこまででしょうか?」
球体から『やや小太り』の体型になった、
ゾルタン副将軍が疑問を呈するも、
「そりゃ数が違うからねえ。
帝国が本気になってガチで滅ぼすつもりで
やるのなら、勝機はなくもないよ。
ただ双方被害はめちゃくちゃになるだろーね。
それを見て、力で支配してきた属国が何も
してこなきゃいーんだけどぉ?」
それを聞いた周囲は渋面を作る。
続けて彼女は一冊の本を取り出し、
「それは―――
『ソンシの兵法書』?」
わたくしの質問に、彼女はコクリとうなずく。
「この大陸の軍人の教科書なんだろ、コレ?
しかも一般にも出回っている。
ぜってー下手な戦はしないって、連中。
これさえあれば勝てるって話でもないけど、
下士官にいたるまでこんな本読んで習得してる
レベルの軍となんざ、やり合いたくないわぁ」
そこでゾルタンの部下たちはうなずき合い、
『俺も読んだ』『魔法の事はほとんど書いて
無いが、戦術や戦略、国交については次元が
違う』と、その価値を認めている。
「この本を読んで……
そうだね、アタシがこの大陸の戦力で
帝国を攻めるなら―――
一戦交えて何でもいいから打撃を与えた後、
帝国の属国に『ランドルフ帝国大敗』の噂を
ばら撒く。
何せドラゴンワイバーンハーピー、
ラミア族人魚族に魔狼、
情報を伝える使者には事欠かないんだからさ。
そうすりゃ各地で勝手に反乱発生。
協力者も大勢現れるんじゃない?」
わたくしの喉に、音を立てて唾が飲み込まれる。
「そしてアタシは一軍を率いて皇都を目指す。
属国の反乱に対応しようと軍を向ければ、
皇都の守りが弱くなる。
皇都を守ろうと軍を派遣しなければ
属国が落ちる。
アラ詰んでるわーコレ♪」
ゾルタンもその部下たちも……
そんなロンバート殿に反論も反発もしない。
彼らは帝国の軍人で―――
訓練船団といえど、その上層部にあたる。
当然、それなりの教育を受けているエリート。
だからこそ、彼女の戦略に抗えない事を理解して
いるのだろう。
「まーまー、そんな暗い顔しなさんなって。
ダイジョーブ。
この本をよく読んでいるのなら、まず
あちらから戦争は吹っかけてこないはず」
魔戦団総司令の言葉に、思わずカバーンと
セオレムが口を開き、
「どうしてそう言えるのです?」
「戦力は少ないかも知れませんが、性能としては
圧倒的な開きがあるのに―――
それに、その本に書いてある通りの戦略を
取られたら」
するとロンバート殿は本を振りながら、
「だってこれに書いてあるもん。
『戦争までいくのはバカ』
『その前に、どんな手段を使ってでも
回避しろ』
ってさ。
戦い方は書いてあるけど……
あくまでもそれは、仕方なく戦争になって
しまった時の対処方法であって、
本質は、『武力は交渉の後ろ盾』、
『武力による争いは割に合わねー』、
って言っているんだよ、コレ」
軍人たちも従者の二人も、目を丸くして
驚いているが、
「つ、つまり……
こちらから仕掛けなければ、戦争には
ならないと。
ではわたくしたちも、こちらの大陸の状況を
きちんと帝国に伝えなければ。
ゾルタン副将軍ほか、何か気付いた事は
ありますか?」
説得材料を増やそうと、わたくしは彼らに
話を振る。
「そう……ですね。
ここではいろいろな種族の子供たちが、
一緒に遊んでいるのを見かけましたが、
ある子供が、自分にアメをくれました」
軍人の一人が話し始めると、カバーン・
セオレムが、
「あー、果物を何かの甘味でまとめたヤツか」
「ここ、甘い物も充実していますからね」
そう感想を口にするが、
「売っている店に行ってみたのですが、
10個で銅貨1枚でした。
自分も食べてみましたが、とても甘かった。
恐らく帝国の上層部の子供でも、めったに
食べられないレベルのもの。
つまりそれが、平民の子供のお小遣い程度で
買えてしまうのです!」
すると他の軍人たちも、
「そういえば、どの店にも―――
銅貨1枚で食べられる料理がありました。
あと一定年齢以下の子供たちには、
卵などが支給されるそうで」
「貧困層や子供たちに対する支援が、
異様に手厚いと考えられます。
ちなみに銅貨はこの国の一番下の貨幣であり、
10枚で銀貨1枚。
そして公都の日雇い労働の相場が、最低でも
銀貨10枚だそうですから、
1日の最低賃金の1/100程度で
買える、という事になります」
そこでゾルタン殿が大きく鼻息を吐き、
「聞けば聞くほど、国力が違い過ぎる。
出航前の自分を殴ってやりたいほど……」
そこでパン!! という大きな音と共に、
彼の体がよろめき、
「ロンバート殿!?
いきなり何を!?」
「え?
だって殴って欲しいって」
「それはビンタでしょうビンタ!!」
「あ、ゴメン。
殴った方が良かった?」
笑顔で握りこぶしを作る魔戦団総司令を
みんなで止めに入り―――
その騒動が終わるまで時間を要した。
「帝国には3日ほどで到着するでしょう。
それまでどうかお寛ぎください」
ジャンさんたちとの会合から三日後……
私はメル、アルテリーゼ、ラッチと共に船上の
人となっていた。
ティエラ王女様の説明に頭を下げると、
割り当てられた船室へと向かう。
この船には、訓練船団に乗っていた兵士たちの
手紙の他―――
交渉のため、魔力通信用のラウラさんの糸や、
ミスリル製品などが詰め込まれた。
中でも目玉は『炊飯魔導具』で……
ティエラ様の船に乗っていた料理人たちが、
金を出すから触らせてくれとまで言ってきて、
ちょっとしたトラブルにもなった。
「やっぱりお米を美味しく炊ける道具は、
みんな羨ましがるんだねー」
「我もメルっちも、ちょっと気を抜くと
芯が残ったりべしゃっとなったり
するからのう」
「ピューイ」
室内のソファに腰かけて、雑談に興じる。
「しかし―――
本当にほとんどの国は代表を寄越して
来なかったなあ」
私がつぶやくと、家族も苦笑する。
ライさんも言っていたけど、結局代表を
寄越したのは……
ウィンベル王国からは前国王の兄として、
ライさんことライオネル・ウィンベル様が、
神聖『アノーミア』連邦からは、宗主国である
マルズ国からエンレイン王子様とヒミコ様。
魔族領から、魔王・マギア様と―――
イスティールさんにオルディラさん。
その他の国は、ウィンベル王国に交渉の
全権委任状を渡して来た。
また各種族は……
獣人族代表としてボーロさん。
魔狼代表としてリリィさん。
(&ケイドさん)
ラミア族代表としてエイミさん。
(&アーロン君)
ワイバーンは言うまでもなくヒミコ様。
ドラゴンは私の妻、アルテリーゼ。
また精霊代表として土精霊様、
他、ロック・タートルのオトヒメさんと、
人魚族も海中で同行している。
「ルクレセントのヤツも来たがって
いたがのう」
「まあ無理でしょー。
チエゴ国の人外戦力って、彼女くらいしか
いないし」
アルテリーゼの言葉にメルが答え、私もそれに
同意する。
何より唯一の最強戦力を、そうそう外へ
出すわけにはいかないからな……
そう考えているとガクン、と船の速度が落ち、
思わず姿勢がよろける。
「何だ?」
「何かあったみたいだねー」
私と家族は取り敢えず、船の甲板まで
早足で駆け上がった。
「危ない!
お下がりください!!」
「魔物が出現しました!
どうか落ち着いて船内に……!」
その声に海面に目をやると、
「あ、シーサーペントだ」
「蛇のような魔物じゃのう」
「ピュウ」
家族の説明を聞きながら、その巨体に
見入る。
全長、二十メートルほどはあるだろうか。
しかしシーサーペントとは言われたものの……
私の目からは、地球のリュウグウノツカイと
呼ばれる魚類にしか見えない。
その巨体を除けば、だが。
だがリュウグウノツカイといえば深海魚のはず。
それが海面まで出てきた場合―――
ほとんど死にかけている、というのが普通だ。
だが目の前のそれは巨体を大きく暴れさせ、
人魚族やラミア族、ロック・タートルが
苦戦しているようにも見え、
「被害が出るのは好ましくないな。
……よし」
そこで私は帝国の乗組員から見えないように、
妻たちと一緒に少し離れた場所へ移動し、
「深海を住処とする魚類で、肺呼吸もなくその
巨体のまま、水圧関係なく海面でも自由に
動き回る事など―――
・・・・・
あり得ない」
私がそうつぶやくと、シーサーペントは
巨大な波飛沫を上げてひっくり返り、
腹を上にして浮かび上がった。
帝国の方々は、何があったのかわからない、
という様子だったが、
「あー、あれ引っ張ってもらう事は出来ますか?
ラミア族、人魚族、ロック・タートルからの、
皇帝陛下への献上品という事で……」
彼らはコクコク、とうなずき―――
その後の航海は何事もなく進んだ。